12
西口に到着した。いつものように湖面を見渡したススムは、すぐに異常に気づいた。魚が白い腹を見せて浮いている。それも一匹二匹じゃない。数十匹という魚が、湖のあちこちで死んでいるのだ。
驚いたススムは水の中に入って行って魚を調べようとして、慌てて思いとどまった。急に、不気味になったのだ。水中に、なにか得体の知れぬものの存在を感じとったのだ。勘だ。
もちろん、湖は綺麗で透明で、変な物は見当たらない。付け加えてススムは現代っ子で科学を信じている。が、やっぱりオバケみたいなのは恐い。第一だ、ここはふもとから三十分以上も離れているのだ。助けはいない。
周囲の木々が、風に吹かれてザアザアと葉を鳴らす。今やそれさえ、目に見えない、自分を取り殺そうと狙っている、魔物を無理やり連想させられる。
「もしかして、毒かもしれない」
わざと声に出した。今のススムには、そっちの考えの方が、むしろ気が軽い。
釣りはやめて、帰りたくなった。その一方で、ここで退散するのは弱虫だとも思った。ひょっとして、だれかがこっそりと自分を眺めているのかも。それであとで笑い物にされるのは、魔物に食われるよりも嫌だった。
ススムは震える足で岸を歩き出した。最低でも、湖を一周する。それで妥協だ。
周囲に生い茂っている背の高い草むらとか、不気味に感じる。真っ昼間なのに、と自分が情けなくなった。
「この、意気地無しが!」
声に出して自分を発憤させる。
すぐそこに、フナが三匹ほど浮かんでいる。タモ網で全部すくう。
魚体に刺し傷があった。かなり深い傷。一匹は、完全に身体を貫かれている。
どういうことだろう?
探究心が勝った。気が張る。ぐるっと回って、いずれも刺し傷のある魚を適当に拾って、クーラーに入れ。ススムは家に急ぐのだった。




