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今日も暑くなりそうだ……。
ススムはリュックを背負い、黒鷹湖に向かった。汗を拭いながら山道を歩く。下りはいいんだけど、この上りがなぁ、と思う。ときおり、夏風が吹いた。瞬間、天国だった。木陰の中で風を受けると涼しくてたまらない! 思わず、ダケカンバの林の中で歩みが止まる。空を見上げると、白い雲がすうっと流れていた。
観光地になって、観光客が来たら、観光客はこの町でお金を使ってくれることになる。そうすると、お店が儲かる。だけどそこで終わりじゃない。その儲かったお店から、町に、税金が多く入ってくる。つまり、この町も儲かる。昨日、敦兄さんが教えてくれたことだ。
町が儲かれば、たとえば道路もアスファルトにできるし、橋も修繕できる。ススムの小学校にだって、野球場の用具とか、新しい設備を買ってあげることができる。そしたら、勉強だって楽しくなるだろう。町だって、道路や橋が新しくなったら、交通の便がよくなって、ますます景気がよくなるだろう。
しかし、ともすればススムは首をかしげるのだ。そううまく行くだろうかと。
観光客がお金を使ってくれたって、大した額になるのだろうか? そこら辺が、ススムには想像できなかった。
第一、お金の使い道だ。ここには、お土産になりそうな物がない。鈴木餅屋さんってお店が“大森まんじゅう”売ってるけど、なんだかパッとしないし。あたらしくお店建てるにしても、せいぜいお弁当とかジュースくらいしか売れないんじゃなかろうか。あ、大人の場合はお酒だね。たしか、田中酒造さんって蔵元が、“黒鷹”って日本酒で、細々と商いしてたっけ。
「……」
とても、大もうけする所までは行かないだろう。とすると、町が儲かるわけがない。そのうち黒鷹湖は、観光客が散らかすゴミで、絶対汚くなる。釣りの仕掛けだって投げ捨てだろう。それらは片付けない限り、危ないまま、ずっとそこに残ったままなんだ。お金がないから人を雇って掃除もできない。となると仕方ないから、町の人が奉仕で掃除して管理しなきゃならなくなる。観光地化したために、タダ働きをずっとやり続けなくちゃならなくなる。こいつは全然面白くないことだ。そのうち手が回らなくなって、黒鷹湖は汚れていく一方になる。
ススムは自分の想像に不安にさせられる。どうなるんだろう、と思った。




