92.『王槍』
ふと我に返ってみると、目の前に獣のごとき眼光を宿す男が立っていた。
音もなく降る雨に濡れた金髪は、トラモント人のそれに比べて色合いが淡い。
けれども一際目を引くのは、右目を縦に走る一本の古傷だ。浅黒い肌に残る歴戦の戦士の証は、彼の壮絶な半生を物語っているように見える。
黄都守護隊第五部隊長、キム・イーリイ。
かつては屈強な傭兵団を率いていたという男は、トラモント黄皇国の軍人となった今も、常に戦場に身を置いているかのように物々しかった。
いついかなるときも神経を研ぎ澄ましていて、エリクは一年以上も同じ城で暮らしていながら、彼が一瞬でも気を抜いているところを見たことがない。
「……キム殿?」
そして今も例によって金眼を炯々と光らせている男の名を、エリクは夢から覚めたあとのような口調で呼んだ。キムは粛然とこちらを見据えたまま、答えない。
……俺はどうしてこの人と一緒にいるんだ?
本当に短い眠りから覚めた直後のようだった。あたりを見渡せばそこは篝火の明かりがやや遠い陣の外で、ふたりの他には誰もいない。けれども自分は一体いつから、何のためにここに立っているのだったか。ほんの少し前まで本陣の物見櫓にいたのをキムに見つかり、声をかけられたところまでは覚えているのだが……。
「何をぼんやりしている、アンゼルム。いいからさっさと剣を抜け」
「……はい?」
「余計な雑念にまみれてろくに眠れんようだからな。そういうことなら、眠れるように相手をしてやる」
「ちょ……ちょっと待って下さい、いきなり何を言い出すんですか? 〝相手をしてやる〟って……ひょっとして俺にキム殿と手合わせをしろと?」
「何か問題が?」
「も、問題しかありませんよ! 今は戦時で、いつ不測の事態が起こるとも知れないのに、手合わせなどしている場合では……」
「アンゼルム。俺は無駄なことはしない主義だ」
「は、はあ」
「つまりこれは、俺が必要だと判断したからやるまでのこと。お前にその気がないのなら──一方的に殺らせてもらうぞ」
え、と間の抜けた声で聞き返す暇もなかった。エリクが声を発しようと短く息を吸ったときには、睫毛の先に穂先が迫っている。
一瞬、心臓が止まるかと思った。あまりに明瞭で容赦のない殺意が、槍という名の形を取って猛然と襲いかかってくる。
「……っ!?」
ところがそれに右目を刺し貫かれる寸前で、エリクはとっさに体を倒した。
何かを思考するよりも早く、戦士としての本能だけで背を反らし、辛くも不意の一撃を回避する。目にも留まらぬ速さで迫った槍はエリクの前髪の付け根を浅く抉り、獣のうなりに似た音を立てて眼前を通り過ぎた。あと一度でも瞬きに時間を取られていたら、間違いなく右目ごと頭蓋を潰されていただろう。
「き、キム殿、一体何を……!?」
と、とっさに倒した体で地を転がり、跳ね起きると同時に尋ねたが答えはなかった。というかエリクが言葉を紡ぎ切る前に次なる一手が飛んできて、詰問を遮られる。問答無用とはまさにこのことだった。エリクは片膝をついた状態から、叩きつけるように降ってきた槍の柄をさらに転がって回避した。
次いで立ち上がりざま剣を抜く。その判断は正しかった。
「ぐっ……!」
直前とは反対の方角から、今度は槍の石突が飛んでくる。
剣で受けていなかったら柄が蟀谷を直撃し、一瞬で昏倒させられていただろう。
だが辛うじて受け止めたキムの一撃は、重い。
剣を叩き折られぬよう、刀身に添えた右腕にすさまじい衝撃が走る。
こんな攻撃をもらっていたら、気を失うどころか命がなかったかもしれない。
──つまり、キムは本気だ。
彼の言葉に虚飾はない。キムは本気でエリクを殺しにきている。
半瞬でも気を抜けば間違いなく殺される──そんな確信とも呼べ得る予感がぞっとエリクの背筋を舐めた。直接得物を交えるのはこれが初めてだが、キムが噂どおりの人物なら、恐らくそこに情けや容赦が介在する余地はないのだろう。
(けど、いきなり、どうしてこんな……!)
と、脳裏を目まぐるしく駆け巡る疑問を口に出す余裕すらない。エリクは息つく間もなく放たれるキムの槍撃をとにかく防ぎ、あるいは躱すだけで精一杯だった。
こちらから反撃を繰り出す隙などない。剣と槍では射程に差がありすぎるし、キムほどの武人がそう易々と懐に踏み込ませてくれるとも思えない。
まさに『王槍』。
エリクは黄都守護隊内で語り継がれるキムの異名の意味がようやく分かった。
これにはとても抗えない。彼の槍の前では誰もが死か服従か、その二択を迫られる。強者ばかりの部隊長の中で、最強はキムだと皆が口を揃えるのも納得だ。
彼の卓越した槍技の前では、エリクの振るう剣など児戯に等しかった。
まるで魂ごと蹂躙されるかのような、圧倒的な力の差。
そして今のエリクにはそれを埋め得る術がなかった。
苦しまぎれに返した一撃は赤子をあしらうかのごとく、銀の穂先に弾かれる。
次の瞬間には、エリクの横腹に槍の柄がめり込んでいた。
あまりにも深く鋭い衝撃に呼吸が止まる。
と同時にエリクの体は地面に叩きつけられていた。
受け身を取る間もなく吹き飛ばされ、無力な石塊のように地表を転がる。
雨に濡れた土を盛大に巻き込みながらエリクは二、三度地面を跳ねてようやく止まった。すぐに体を起こそうにも、全身が痺れてしまったかのように言うことを聞かない。けれども何とか腕をつき、上体を持ち上げようとした。
背中を濡らす雨脚が次第に強まっているのを感じながら、しかし剣だけは放すまいと握る手に力を込める。直後、耳もとで泥を躙る足音がしたと思ったら、鳩尾を掬い上げるような衝撃に襲われた。
起こしかけた体の下に差し込まれた槍の石突が、容赦なく跳ね上げられたのだ。
「がっ……!」
胃の腑が熱に貫かれ、エリクはまたしても地面を転がった。
が、今度はもう起き上がろうと足掻くことすらできない。
全身が痙攣し、理性では抑えられない吐き気が込み上げてくる。
おかげでエリクは酸にまみれた胃の内容物を撒き散らす羽目になった。焼けつくような食道の痛みと全身を襲う震えのせいで息ができない。四肢にもまったく力が入らず、ここが本物の戦場であったなら、とっくにとどめを刺されているはずだ。
「……弱いな。これがあの黄都守護隊の副長か」
「っ……!」
「ラオス殿が築いた栄華などもはや見る陰もない。どうりで国が乱れるわけだ」
「お……お待ち、下さい……どうして……突然、こんな……っ」
一歩間違えれば、上官への反逆行為とも取れ得る突然の凶行。結局エリクはその理由も分からぬまま、地に伏せて槍の王を見上げることしかできなかった。
雨雲が星明かりさえも遮った暗闇の中に佇むキムは、やはり眼だけが異形の生き物のごとくぎらついている。彼の眼窩を飾る金の瞳は、百獣を睥睨する獅子のごとき鋭さでエリクを睨み据えていた。
「愚問をするな。理由はお前自身が一番よく分かっているだろう」
「ど……どういう、意味です……?」
「お前はこの軍の副将だ、アンゼルム。黄都守護隊長たる将軍に万一のことがあった場合には、お前が名代として全軍を率いることになる。だが今のお前には副長としての器も覚悟もない。ろくに戦えもしない者が、何故平気な顔で戦場にいる? 俺はお前のような男に民の命を預ける気はない。味方の足を引っ張る前にさっさと失せろ」
「……!」
先刻、エリクの腹部を抉った一撃と同等かそれ以上に容赦のない言葉の槍。
その穂先に心臓を貫かれ、またしても息が止まった。
ようやく燃えるような嘔気が鎮まり、指先に力が入るようになったというのに、エリクはやはり起き上がれない。
「まったく、お前と言いジュードと言い……戦の前に我を忘れるような指揮官ばかりでは勝てる戦も負ける。将軍には明日、俺から進言しよう。今からでもお前たちを城に帰し、代わりの部隊を呼び寄せるべきだとな」
「ま……待って、下さい……俺は……!」
もはやエリクには何の期待もしていないと言いたげに、キムはほどなく踵を返し背を向けて歩き始めた。しかしこのまま彼を行かせるわけにはいかないと、エリクは渾身の力で泥だらけの体をもたげる。
「俺は……確かに、副長としては、まだまだ未熟ですが……戦う覚悟が、ないわけではありません……! 黄皇国の、民のために……俺もできる限りのことを……」
「俺が言っているのはトラモント人のことではない。俺が率いる民のことだ」
「え……?」
「そもそも本当に覚悟ができているのなら、お前は何をぐずぐずと迷っている? そんな状態の男にまともな指揮が取れるとは思えん。自惚れるのも大概にしろ」
冷淡すぎるほど冷淡に吐き捨てたキムは、今度こそ話は終わりだと言いたげに背を向けた。しかしエリクはその背を穴が開くほどに凝視する。
──何をぐずぐずと迷っている?
ああ、そうか。キムはすべて見抜いていたのか。
エリクを胸奥から蝕む迷いも、恐怖も、苦しみも。
「……っキム殿は……!」
けれどエリクにも譲れないものがある。ゆえにキムを呼び止めるべく叫び、地についた腕に力を込めた。先刻植えつけられた痛みと恐怖に肘はまだ震えているが、それでもどうにか体を起こそうと、息を詰めて自らを持ち上げる。
「キム殿は……たとえば目の前に、仕えるべき王と兄弟がいるとして……祖国のためにどちらか一方を裏切らなければならないとしたら、どちらを選びますか?」
「……」
「今の、立ち合いで……痛感しました。俺は、どちらも等しく守りたいと願いながら……そのための力を持たない。あまりに非力で、無様で……こんな俺に守れるものなんて、何も……」
「……」
「だけど、だったら……せめてどちらか一方だけでも……そう思うのに、いつまで経っても選ぶことができない……俺は、結局……どちらを選んでも、きっと──」
「王だ」
「……え?」
「俺は迷わず王を選ぶ。俺にとっての王とは、すなわち民だが」
まったく予想もしていなかった答えに、エリクは唖然とキムを見つめた。
しかしキムはもうエリクを見ていない。
彼の眼差しはただ、ただ、遥かなる北の地へ注がれている。
「……実際に、俺は選んだ。だから今こうしてここにいる」
「え……選んだ、とは?」
「この槍は、幼い頃から兄弟のように育った男を殺した槍だ。俺は民のためにやつを殺すことを選び、あいつもそれに応えた。だから殺した。あの日の選択を恥じたことは、一度もない」
雨音が耳の奥で激しさを増した。雨脚が強まったわけではない。
聴覚を塗り潰すような静寂が数瞬世界を覆ったからだ。
キムの口から紡がれた言葉は、三度目の衝撃となってエリクから声を奪った。
──幼い頃から兄弟のように育った男を?
彼が言葉少なに語ってみせた過去は、今のエリクの状況とあまりにも符合する。
「……いや。もっと正確に言えば、恥じないために今も槍を取っている、か。それだけが友に報いる唯一の方法だからな」
「あいつに……報いる……?」
「俺は俺の望みのためにあいつを討った。ならば死ぬまでその望みのために己がすべてを捧げるのが、生き残った者の責任というものだろう?」
生き残った者の責任──そう言い放ったキムの言葉にはあまりにも曇りがなく、彼は本当に恥じてはいないのだと思った。かつての兄弟の命を奪ったことを。
「で……ですが、キム殿は……失いたくないとは、思わなかったのですか。友人には、この先も幸福な人生を歩んでもらいたいと……!」
「たとえそう願っても、当時の俺には、友と民のどちらも守れるだけの力がなかった。だから選んだ。俺とやつの望みが少しでも重なる道をな」
「望みが……重なる?」
「ああ。あいつの願いもまた祖国を守ることだった。ならば俺は、あいつの分まで生きて祖国を守ると……そう決めた。たとえ国は潰えても、遺された民の内に流れる獅子の血だけは失うまいとな。俺たちの祖国はまだ、ここにある」
篝火に照らされた陣を顧みながら、キムは右目を縦に貫く古傷にわずか触れる仕草をした。そう言えば、黄都守護隊に赴任したばかりの頃に聞いたことがある。
キムは正黄戦争のさなか、現黄帝率いる真帝軍に雇われた傭兵団の長だったが、戦いの中で前隊長に見初められ、黄皇国に軍人として根を下ろさないかと打診された。そして傭兵団を丸ごと黄都守護隊に組み込み、養うことを条件に、彼は軍人となることを了承した、と。
(だとしたら、キム殿が言う〝民〟というのは……)
アルハン傭兵旅団。かつてそう呼ばれていた歴戦の傭兵団。その正体こそがキムの守った民なのだろうか。エリクはキムの詳しい出自や経歴を何も知らない。
ただ彼が大陸北方の出身だということを知っているだけだ。
そしてこの北西大陸の北部は今、エレツエル神領国の手の中にある。
かの国が掲げる帝国主義という名の猛火に焼かれた植民地として。
「で? お前はどうする」
「……え?」
「自分にはどちらも守れないと諦めて逃げ出すか、罪を背負ってでも手の届くものを守り抜くか。後者の覚悟がないのなら、やはりお前は副長の器ではない。さっさと軍人を辞めて去れ。俺とあいつの望みの邪魔だ」
──俺とあいつの。
キムが何気なく放ったひと言が、針のような痛みと煌めきを伴ってエリクの胸に反響した。彼は今も共に生きているのだ。在りし日に失ったはずの友人と。
そして迷わずそう言える彼の生き方を、心底羨ましいと思った。
「……俺は」
ゆえにエリクは、自らの体を支える両腕に今度こそ力を込める。今も鳩尾のあたりににぶい痛みが居座っているのを感じながら、しかし渾身の力で立ち上がった。
「俺の、望みは……シグムンド様と共にトラモント黄皇国を守り、この国に、民の笑顔と平和を取り戻すことです」
「そうか」
「そして、たぶん、あいつも……同じことを、望んでいるのだと思います」
泥にまみれて立ち上がるエリクを、キムの眼差しがじっと捉えていた。
けれども彼は〝あいつ〟とは誰だ、とは訊かない。
端から興味がないのか、聞くべきではないと思っているのか。
……いや、たぶんどちらも違う。何しろ彼は言っていた。
俺は無駄なことはしない主義だ、と。
「ありがとうございます、キム殿。おかげで心が決まりました。俺も、あいつの望みと少しでも重なる道を……選びたいと思います。もちろんいずれは、どちらも守れるだけの力を手に入れたいと願っていますが……今の俺では到底無理だと吹っ切れました。だとしたら、できることから選び取るしかありませんよね」
「お前がそう決めたなら、これ以上外野が口を挟むつもりはない。俺が言うべきことは同じだ。黄都守護隊に、俺の民の命を預けるに足らん男は要らん。後ろから突き殺されたくなければせいぜい励め」
「はい。約束します。黄皇国の民も、キム殿の民も、守るために最善を尽くすと」
それが今の自分にできる精一杯だ。諦めではなく、進むためにそう思えた。もちろんイークとシグムンド、どちらも守るという望みを今後も捨てるつもりはない。
けれどそのためには、今ある力だけでは足りない。もっと強くならなければ。
(なら……立ち止まってる時間なんてないよな)
手にした剣の柄からぶら下がる羽根飾りを見つめてそう思った。
望まぬ未来を恐れ、迷っている暇があるなら一歩でも前へ。
今の自分に取れ得る最善の選択を、常に選び続けるのだ。
そうすればどんな結末を迎えようとも、すべての望みが潰えることはない。
十を守るのが無理ならばせめて三でも、一だけでもいい。
何ひとつ守り切れぬまま後悔を抱えて生きるよりは、ずっと。
「……お前の父も」
「え?」
ところがエリクがそんな確信と共に剣を収めたとき、キムが改めて口を開いた。
「ヒーゼルもカルロス殿を救えなかったことを生涯悔いただろうが、だからと言って妻子を守ったことを恥じたりはしなかっただろう。お前たち家族が平穏な暮らしを送ることは、カルロス殿の望みでもあったはずだからな」
「ど、どうしてキム殿がそのことを……!? ひょっとして、俺の父を知って──」
「──アンゼルム」
まったく予想もしていなかったキムの発言に、エリクが唖然と聞き返しかけたときだった。不意に名を呼ばれ振り向けば、そこにはいつの間にか、カルボーネ村へ偵察に向かったはずのサユキが佇んでいる。
「サユキ!? 無事に戻ったのか──ってお前、頬に血が……まさか怪我を……!?」
「こんなのは怪我のうちに入らない。というかお前の方がボロボロに見えるが?」
「あ、ああ、いや、これはちょっと、な……キム殿に喝を入れてもらっていただけだから気にするな。それより村の様子はどうだった? 何か掴めたか?」
てっきりサユキは明朝まで戻らないものだと思っていたが、想定よりも数刻早く彼女の無事を確認できて、エリクは胸を撫で下ろした。
が、成果を問われたサユキの表情は何故か暗い。彼女は翳りを帯びた眼差しを伏せると、数瞬言葉を迷うように沈黙し、そして、言った。
「……ああ。敵の正体までは分からなかったが、村の状況はだいたい掴めた。現段階ではっきり言えることがあるとすれば──無傷での人質救出は、絶望的だ」
「……え?」
刹那、サユキの唇から紡がれた言葉がエリクの思考を遮断した。
無傷での人質救出が不可能、とは……つまりどういうことだろう? その言葉から推測できる事態はいくらでもあるはずなのに、頭が考えることを拒んでいる。
けれどもエリクが詳しい情報を聞き出すよりも早く、傍らのキムが口を開いた。
「待て。そういうことなら、隊長以上の者を集めて報告を共有した方が話が早い。アンゼルム、お前はすぐに将軍をお呼びしろ。俺はジュードを連れてくる」
「は、はい……では、半刻(三十分)後に大天幕で」
エリクがとっさにそう伝えると、キムは頷き、踵を返して立ち去った。
彼の行動にはいちいち迷いがない。
自分も少しは見習わなければと思いながら、改めてサユキへと向き直る。
「サユキ」
「……何だ」
「詳しい話はあとで聞く。だけどこれだけは言わせてくれ。……無事に戻ってくれて、ありがとう」
エリクがそう告げると同時に、雨脚がまた一段と強まった気がした。
徐々に近づきつつある雷鳴を聞きながら、瞬間、サユキが目を伏せる。
まるで生きて戻ってしまったことを恥じるかのように。
冷たく降り注ぐ夜の雨が彼女の頬を伝い、乾きかけた血と混ざり合ってゆく。




