1番隊隊長
アオイさんへの挨拶を終えた僕たちは、ギルドの廊下を歩いていた。
「もう洞窟で暮らす必要はないし。今日から、僕の家で生活をしようか。」
「え!兄さんの家ですか!」
「うん。たいして広くないけど、部屋はちょうど2つあるし、レイナさえ良ければどうかな。」
「兄さんがいいなら、一緒に暮らせたら嬉しいな。」
レイナははにかみながら、嬉しそうに頷いてくれた。
洞窟での生活はサバイバル力が身につくけど、2週間も生活したらもうそれは充分だ。
それより今は、レイナにふかふかの布団で寝てほしい。
今は元気に見えるけど、本当は、心にひっかかるものがあるはずだ。
ゆっくり休むことで自分の心と会話する時間を作ってほしい。
「じゃあ帰りにレイナの歯ブラシや生活用品も買っていこうね。」
「やった!何から何まで本当にありがとう。私、早く兄さんの役に立てるように頑張るからね。」
レイナは、僕に助けてもらったことを本当に感謝しているみたいだ。
感謝してくれるのはうれしいけど、無理して恩返しする必要はないんだけどな。
「ありがとうレイナ。でも無理はしないでね。」
「うん。ありがとう。」
レイナはちゃんと感謝の言葉を口にできるとてもいい子だ。きっと優しいご両親に育てられたんだろう。
いつか両親に会うことができたら、レイナはとてもいい子だという事をきちんと伝えなければならないな。
今は僕を兄のように慕ってくれているけど、できることなら本当の家族と仲良く過ごすべきだ。
そしてレイナがある程度の力をつけたら、僕はレイナを両親に合わせるつもりでいる。レイナならきっと乗り越えられると信じている。
でもそれはきっと今じゃない。今は焦らず、レイナを強くすることに集中しよう。
結局僕は僕のできることをするだけだ。
「レイナ。今日の夜ご飯はシチューを作ろうか。」
「え、兄さんが作ってくれるの?」
「もちろん。0番隊の初隊員が誕生したお祝いをしよう。」
「やったー!」
僕たちは笑いながら、ギルドの出口へと向かっていった。
◇
ギルドを出ようと廊下を歩いていると、見知った顔が見えた。
「おう、リュートじゃねぇか。久しぶりだな!」
元気に声をかけてきたのはアイギス最強の男、1番隊隊長のリオン。
リオンは綺麗な金髪を短く揃え、碧い目を持つ顔の整った男だ。
爽やかな顔つきだが、その肉体は極限まで鍛えられている。
僕は平凡な顔立ちだから正直リオンがうらやましいと思うこともある。
-- もっともそれは、リュートがそう思っているだけで、リュートも周りから見ると相当整った顔立ちをしているのだが
ちなみに、僕が0番隊隊長ということも知っているのは、隊長クラスとアオイさんを含むアイギスの幹部だけだ。
僕の存在はアイギスでも少しイレギュラーだからね。
「やあリオン。相変わらず元気そうだね。」
「おう!どうしたその可愛い子は、まさか攫ってきたのか?」
リオンは僕の横を歩くレイナに気づいたようで、笑いながらそんなことを言ってくる。もちろん冗談だ。
冗談だよね?
「この子はレイナ。0番隊の初隊員だよ。」
「初めまして、レイナです。」
レイナは僕の後ろに隠れながら小さく挨拶する。
男はまだ少し苦手みたいだね。服屋のおっさんは大丈夫だったのに...。
「ほう。ついに初隊員か!ってことは強いのか?」
リオンが急に真顔になったかたと思えば、僕とレイナに向けて強烈な気を送ってきた。
僕はとっさにレイナに向けられた気を能力で防ぐ。
また、リオンの悪い癖が出たな。
リオンは強くなることを第一にしているため、強い相手を見るとすぐ戦いたくなる癖を持っている。
もっとも、リオンより強い人間はそうそういないのだが。
「強さは僕が保証するよ。でも今は少し人間が苦手でね。気を抑えてもらえると助かるかな。」
「おっと。すまんすまん。強いやつを見ると試したくなっちまってな!」
「相変わらずだね、リオンは。大丈夫かいレイナ。」
レイナを見ると少し顔を青くしていた。
可愛いレイナを青くさせるなんて、リオンめ。
「だ、大丈夫。」
「リオンはちょっと暑苦しいところがあるけど、信用できる人間だよ。まぁ、少しづつ慣れていければいいさ。」
「ははは。リュートにそう言ってもらえると嬉しいな。
そういえば、俺に来るはずだった調査依頼。リュートがやってくれてるらしいな。」
「そうだよ。リオンは忙しいみたいだけど、僕は暇だからね。」
「リュートはアイギスの最終兵器みたいなもんだからな。あんまり根詰めさせたくないんだろうよ。」
リオンは笑いながら僕の肩を叩く。
痛いからやめてほしい。
「体のいい代役みたいなことをやらされてる気がしないでもないけどね。」
「ははは。そう言うな。実際俺も森には行ったが、ありゃ隊長クラスじゃなきゃ対処できなさそうだったしな。まぁリュートが対応するなら問題ないだろ。」
「リオンも気づいたみたいだね。うん。僕が何とかするから、それは大丈夫さ。」
「おう!それを聞けて安心したぜ。じゃっ俺は依頼こなしに行ってくるわ!、また今度戦えるのを楽しみにしてるぜ!」
リオンはそう言うと手を挙げ、僕たちの横を通り過ぎて行った。
久々に会ったけど、リオンは変わらないな。
リオンは、普段こそ溌剌とした元気な雰囲気だが、戦闘になると一切油断や手加減はしない。
こうして話していると、そうは思えないんだけどね。
「ふう...。まさか兄さん以外にあんな気を出せる人間がいるなんて思わなかったです。」
「あれでも1番隊隊長だからね。」
レイナは少し緊張していたのか、リオンが去って少しほっとしたみたいだね。
リオンは一見爽やかな好青年だけど、その実力は本物だ。そしてなにより...
「そしてなにより本当に凄いのは、身体強化魔法のみで隊長まで上り詰めたってことさ。」
レイナは驚いた表情を浮かべる。
それもそのはず、身体強化魔法は、魔法使いなら誰でも使える初級魔法だ。
普通の魔法使いが、身体強化魔法を使っても、せいぜい少し足が速くなるとかその程度の効果しか発揮できない。
一旦どれほどの努力を積み重ねれば、そこまでの領域にたどり着けるのか。レイナは想像もできなかった。
「リオンは昔、身体強化魔法しか使えない落ちこぼれだと言われていたんだよ。
でも彼は、強くなることを諦めなかった。誰よりも強くなることに必死だった。そして、力を手に入れたんだ。」
レイナはリオンの過去に驚いた様子を見せた。
だからこそ、と僕は続ける。
「僕はリオンを尊敬している。だから僕も見習って、対人戦ではできるだけ能力に頼らないようにしている。そして、レイナにもそうなってほしいと思っている。」
「だから兄さんは身体能力も高いんですね...。
わたしも兄さんみたいに、能力に頼らずに戦えるようになりたいです。」
「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ。レイナは筋がいいからね。きっとすぐに強くなれる。
そして、能力に頼らなくても戦えるようになれば、レイナは本気のリオンと互角に戦えるほどに強くなれるだろう。」
レイナはあの異常なほど強い気を放つ男と互角に戦う未来が想像できなかったが、リュートが言うならと、信じることにした。
「そうなれるように頑張ります!」
「うん。いい子だねレイナは。でも焦る必要なはないよ。君はまだ若いんだから。」
そう言って僕はレイナの頭を撫でてあげる。
レイナはくすぐったそうにしながら、僕のことをじーっと見ている。
「僕の顔になにかついてる?」
「ううん。ちょっと気になることがあって。」
「気になること?なんだい?」
レイナは少し迷ったようだが、決意したように僕に聞いてきた。
「兄さんとリオンさんはどちらが強いんですか?」
僕はその純粋な質問に小さく笑った。
僕とリオン。どちらが強いか...か。
「僕は0番隊隊長。それが答えさ。」
読んできただきありがとうございます。
最後の台詞が言いたくて、連投しちゃいました。(少しわかりにくかったかな。。)
土日で書き溜められるように頑張ります。