レイナと街
街へ着いた僕たちはさっそく服屋に向かっていた。
「人がたくさんいる...。」
レイナは少し萎縮しているのか、握っている手の力が少し強くなった。
「大丈夫だよ。僕がついているから」
「うん。ありがとう。」
僕が手を握り返してあげると、レイナは少し安心したみたいだ。
レイナは少し落ち着いてたのか、街をキョロキョロと見渡し始めた。
そこにはたくさんの人が生活していて、みんなせわしなく歩き回っている。
「人がたくさんいるね。」
レイナは村で生活してたから、こんなにたくさんの人を見るのは初めてなんだろう。
「そうだね。この街は比較的治安のいい街だから、昼間のうちはそんなに怯えなくても平気だよ。」
夜は一人で出歩くのは少し危ないけどね。と僕は苦笑しながら付け加える。
「じゃあ兄さんから離れずに歩くことにするね。」
くっ。レイナがどんどん可愛くなっていく!
「うん。レイナは強いから大丈夫だと思うけど、何かあったら僕が守るよ。」
「ふふ。ありがとう。」
そんな雑談をしながらしばらく歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
肉を甘辛タレで焼いた香ばしい匂いだ。
横を見ると、レイナが物欲しそうな顔をしている。
特訓中は、あまりいいものを食べさせてあげれてなかったからな。
「屋台で肉串を焼いているみたいだね。一つ買ってみようか。」
「え?いいの?」
「もちろん。」
僕は屋台に行き肉串を1本注文する。
「お嬢ちゃん、可愛いからおまけしちゃうよ!ほら!2本持ってきな!」
気前のいいおっちゃんが、肉串を1本おまけしてくれた。
「ありがとう。おじさん。」
「ありがとうございます。」
レイナは僕に隠れながら小さくお礼を言う。
「ちゃんとお礼をして偉いね。これで1本ずつ食べれるし。」
そう言って僕たちは肉串を頬張る。
しっかしと味付けされており、柔らかくて美味しい。
「おいしい...!」
レイナの表情も少し柔らかくなったみたいだ。グッジョブだよおっちゃん。
肉串を頬張りながら歩いていると、目的地の服屋に到着した。
「いらっしゃい。かわいいお嬢ちゃんと、優しそうなお兄さん。」
そこには、色とりどりの可愛らしい女性物の服が揃えられていたが、店員は女性の恰好をしたムキムキのおっさんだった。
おかしいな。入る店を間違えたかな。
「レイナ。この店はやめようか。」
僕は回れ右をして、店を立ち去ろうとするが、レイナは輝いた目で店の服を見つめていた。
レイナはここの服を気に入ったみたいだ。
仕方ない、諦めてここで買うか。
「...。お姉さん?この子に似合いそうな服をいくつか見繕ってくれるかな?」
「あらん。いいわよ。すごく可愛いからコーディネートのしがいがあるわ」
「...。よろしくお願いします。」
おっさんはピチピチの服を着てクネクネしながら僕に話しかけてくる。
その姿を見て、僕は久々にダメージを負ったみたいだ。僕にダメージをいれるなんて、このおっさん隊長クラスになれるよ。
そんな馬鹿なことを考えながら、しばらく待っていると、可愛く着飾ったレイナが店の奥から現れた。
白いブラウスに花柄のロングスカートでシンプルだけど清楚な雰囲気をかもしだしている。
「...どうかな?」
レイナは慣れない格好に不安そうな顔をしているが、正直とても可愛い。
本当の妹にしたい。弟子みたいなものだし可愛がってもいいよね。
「とても似合っているね。とても可愛いよ。」
僕が褒めながらレイナの頭を撫でると、レイナは顔を赤くして喜んでいた。
「お兄さんなかなかやるわねん。」
おっさんがまた何か言ってきたが、無視することにした。
その後おっさんが勧めてくれた服を次々に着てくるレイナに癒され、合計5着ほど購入し店を後にした。
このおっさん。見た目はアレだが、センスだけはあるみたいだ。
「なかなか強烈な店員だったね。でも可愛い服が買えてよかったよ。」
「ありがとう兄さん!可愛い服を買うのってこんなに気分がいいことなのね。」
レイナは今まで村で生活してたみたいだから、着飾るという事をしてこなかったんだろうな。
僕も嬉しそうなレイナの笑顔が見れて満足だよ。
「さて、それじゃあ、0番隊に入隊する報告を兼ねて、アイギスのギルドマスターに挨拶に行こうか。」
「ギルドマスターって兄さんの恩人さんだよね?」
「そうだよ。僕の恩人さ。」
当時化け物と恐れられていた僕を恐れずに、力の使い方を教えてくれた師匠にして恩人。それがアイギスのギルドマスターだ。
「それなら、間接的に私の恩人ってことね。私を兄さんと合わせてくれたのも、その人がいてくれたおかげだから。」
なんて可愛いことを言ってくれるんだ。この子は。
またもや撫でたくなる衝動に駆られるが、気持ち悪がられると嫌なのでやめておいた。
「ふふ。そうだね。それじゃあ、一緒に挨拶に行こう。」
「うん!」
僕たちはアイギスの王都支部へと向かった。
◇
アイギスの王都支部へと移動した僕たちは、そのままギルドマスターの部屋へと向かいドアをノックした。
「0番隊隊長リュートです。」
「入っていいいわよ。」
中から、澄んだ女性の声が聞こえてくる。
「失礼します。」
ギルドマスターの部屋に入ると、執務用の机の奥に20代後半の美しい黒髪黒目の女性が座っていた。
彼女こそ、対魔物ギルド『アイギス』のギルドマスターであり、何を隠そう旧1番隊隊長を務めていた確かな実力を持っていた人物である。
「お久しぶりです。アオイさん。」
僕が挨拶をすると横でレイナが小声で驚いていた。
「ギルドマスターって女性だったの!」
そういえば言ってなかったっけ。
「その可愛いらしい女性はどちらさまかしら、リュート。」
「この子はレイナ。突然ですけど、この子を0番隊の初隊員にしようと思ってます。」
アオイさんは親指と人差し指で目頭をつまんでいた。
「私は、初隊員を年端もいかない少女にしろ。と言った覚えはないのだけれど。」
僕もそんなつもりじゃなかったですけどね。 と苦笑しながら伝える。
「でもこの子、僕に防御させるほどの実力者ですよ。」
アオイさんは驚いた表情を浮かべる。
「すごいわね。その年でリュートに防御を...。とりあえず納得したわ。念のため確認だけど、無理やり入隊させたわけじゃないわよね。」
「もちろんです。」
僕は真剣な目でアオイさんを見つめる。
しばらく見つめあっていると、アオイさんは納得したように頷いた。
「レイナさん。アイギスは、魔物との戦いを求められる危険の伴うギルドよ。
それでも、入隊する意思は変わらないかしら。」
「はい!私は0番隊に入隊して、リュートさんの役に立ちたいと思っています!」
レイナは、恐れることなく自分の気持ちを伝えた。
「そう...。いいわ。レイナさんを0番隊の隊員として入隊させることを許可します。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます!」
僕がお辞儀で感謝を伝えると、レイナも感謝の言葉を述べていた。
いい子だね。レイナ。
...そうだ。ついでに依頼の話を伝えておこう。
「依頼されていた森の調査の件ですが、原因はほぼ特定できました。近いうちに片を付けようと思っています。」
「そう。リュートがそう言うのなら、この件は問題なさそうね。」
「ええ。では、今日はこれで失礼します。」
「わかったわ。それでは、また。今度はゆっくりご飯でも食べましょう。」
短い会話だったが、リュートとレイナには確かな信頼関係があることをレイナは感じていた。
そして気付けば、リュートの服の裾を強くつまんでいた。
「どうしたの?レイナ。」
「ううん。なんでもない。」
「そう。何か気になることがあったら、なんでも言っていいからね。」
「うん。ありがとう。」
レイナは自分の感情がわからなかった。ただ、大切な何かが離れてしまうのではないかと無意識に恐れていた。
「それじゃあ行こうか。」
リュートはレイナの手を握り、ギルドマスターの部屋を後にした。
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