レイナとSランク
僕とレイナは、木の上から魔物の方向を見据える。
木々をなぎ倒しながら近づいてくる魔物の数は数万匹にも及ぶだろう。
ほとんどがDランクか、Cランクの魔物だが、Aランクの魔物も少ない数ではない。
「思ったよりも数が多いね。怖いかい? レイナ。」
「ううん。不思議と怖くない。隣に兄さんがいるからかな。」
「ふふ。そっか。僕がいるからにはレイナは絶対に傷つけさせない。だから安心して戦っていいよ。
でもまずは、ちょっと数が多すぎるから減らすとしようか。」
そう言って僕は魔物の群れに手を向け、力を込める。
少し本気を出させてもらうよ。
さぁ、何匹耐えられるかな。
僕は、開いていた手を閉じる。
すると凄まじい轟音とともに、木々が押し倒され、みるみる景色が変わっていく。
目の前の魔物は周りの木々を巻き込み押しつぶされ、半径1キロにも及ぶであろう半円型に地面が陥没し、まさに地獄絵図とかしていた。
すでに生きている魔物は100匹もいないだろう。
数万匹にもおよぶ魔物を一瞬で消し飛ばす圧倒的な力を目の前にし、レイナは改めて畏怖の念を込めてリュートを見つめる。
「......すごい。これが兄さんの本気の力だというの。」
「思ったよりも生き残りがいるね。最近の魔物はしぶといようだね。」
わりと本気で力を使ったから、一掃するつもりだったんだけど、僕も少しなまったのかな。
「さて、ここまで減ったらあとは残りを処理するだけだ。そしてレイナ、君に0番隊としての初依頼を出させてもらう。」
「初依頼?」
「そう、魔物の大群が押し寄せてきたことには理由がある。」
それはね。と僕は続ける。
「この森にSランク以上の魔物が現れたからだ。」
「えっ!」
レイナは驚愕する。
Sランク以上の魔物といえば、災害級と言われ、街1つ滅ぼされる覚悟で対峙しなければならない魔物だ。
そしてレイナは思い至る。この魔物たちはその、災害級の化け物から逃げるために移動していただけなのだと。
「僕は、その魔物の討伐をレイナにやってもらおうと思っている。」
再びレイナは驚く。
「Sランク以上の魔物を!? それはさすがに無理だよ! 私ひとりじゃ勝てない!」
「大丈夫。レイナはすでにアイギスの隊長クラスの実力を持っている。冷静に戦うことができれば、決して勝てない相手じゃない。
それに、レイナは村を守ると決めたんだろう。」
レイナは目を閉じ、ついに決意する。
「...そうだね。私はあのどうしようもない村を守ると決めた。兄さんが私を信じてくれるなら、その魔物は私が討伐する!」
「それでこそ僕の弟子だ。」
レイナは戦う覚悟を決めたようだ。
もちろん僕は万が一に備えて後ろで待機するつもりだが、僕はレイナなら倒せると信じている。
「さぁ、じゃあ残りの魔物を討伐しながら、大将に会いに行くとしようか。」
そうして、僕とレイナは、魔物の方へと足を進めた。
◇
「はっ!」
レイナが生き残った魔物の最後の一匹を討伐し終えた。
半分以上は僕が倒したけど、それでもレイナひとりで30匹は倒した。
基礎体力を鍛えたおかげか、息はそれほど乱れていない。走りこんだ甲斐があったね。
さて
「いよいよ大将のおでましか。」
僕は強い気配のする方向を見る。
そこには、20メートルにも及ぶ大きな巨体を持つ地竜。アースドラゴンが大きな咆哮をし、こちらを威嚇するように睨みつけていた。
アースドラゴンは紛れもなくSランクの魔物だ。ひとたび尻尾を振れば、木々が十数本吹き飛び、爪を振り下ろせば、大地が抉れる。
ただの人間では到底およばない強者。そんな化け物が僕たちの目の前に悠々と存在している。
レイナは一瞬ひるんだような表情を見せたが、すでに戦うものの顔つきになった。
「必ず倒す!」
レイナはジグザグに移動することで、翻弄しながら近づいていき、振るわれた爪を躱すと、能力の腕で竜の頭を殴る。
その本気の一撃に竜の牙が数本折れて地面へと落ちる。
その一撃に怒りを覚えた竜は、暴れるように尻尾を振ってくる。レイナは躱すことを諦め、とっさに能力の腕で防ぐが、数メートルほど吹き飛ばさてしまう。
「くっ!!」
大きく吹き飛んだように見えるけど、自分で後ろに飛ぶことで衝撃をうまく逃がしたね。
レイナの攻撃は地竜に通じている。このままいけばレイナは確実に勝てるだろう。
僕は強く拳を握り、レイナの戦いをじっと見つめていた。
レイナはなおも果敢に竜に挑み続ける。
竜の攻撃を躱し、いなし、反撃しながら、徐々に追いつめていく。
そして、ギリギリの攻防が続き、ついにあと1撃を入れれば倒せるところまで竜を追いつめた。
レイナも極限の緊張感の中、本気で戦っているせいか、肩で息をするようなり、立っているのがやっとなほど疲弊している。
少しでも気が緩めばすぐにでも意識が飛びそうな状態だ。
そしてレイナは、気合をいれるように、その心の内を叫ぶ。
「村のみんなは私を化け物と呼んだ。でも違ったんだ。やっとわかった!
私は化け物じゃない! 私はこの力で、村のみんなを! 人々を守るんだ!」
レイナはまっすぐと、そしてしっかりとした足取りで竜へと走る!
振るわれた爪を躱し、渾身の力を異能の腕に込める。
そして腕が当たる刹那の瞬間。レイナは咆哮する。
「お前の負けだ!」
レイナの全力が地竜の頭を打ちぬいた。
竜は、白目を向き、その巨体が少しずつ横に傾いていく。
そして、大きな振動とともに、ついに竜は横ばいに倒れ、絶命した。
静寂があたりをつつみ、竜は魔素となって空気へとまじっていく。
僕はレイナの姿を息をのんで見つめる。
レイナは勝ったんだ。地竜に、村のみんなに、そして自分自身に。
僕はレイナへと近づき、よくやったね。と頭を撫でてあげる。
「さすがだよ、レイナ。最後の一撃は本当に見事だった。君は勝ったんだよ。Sランクの災害級の魔物に。」
「そっか。私、本当に勝てたんだ。本当に、あの化け物に。」
レイナは噛みしめるようにつぶやき、僕を見る。
「ありがとう、兄さん。私を信じて地竜と戦わせてくれて。村を守らせてくれて。
なんだかね、胸のモヤモヤが晴れたみたいにすっきりしてるの。
私は、きっとこの時のために力を得たんだって、今ならそう思えるの。」
レイナはそうとても無邪気な顔で笑った。
「どういたしまして。自分の力と、しっかりと向き合えたようだね。
君は完璧に村を守った。それは誇るべきことだ。僕がはっきりと断言しよう、君は化け物じゃない。英雄さ。」
「ふふ。ありが...とう。」
レイナは喜びの表情で僕に感謝を伝えると、戦いの疲労からか、気を失うように眠ってしまった。
本当によく頑張ったね。
僕はレイナを心の底から褒めたたえる。
レイナは自信と向き合うことで、確かな信念を見つけることができた。
これからは、ブレることのない最強の一角として君臨することとなるだろう。
「さぁ、帰ろうか。」
僕はレイナをおぶさると、ゆっくりと村へと歩みを進めた。
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