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9 ネルカ・スワローズ1

想起の儀式(アナムネーシス)の翌日はオリエンテーションを行う。授業はその次の日から。


前世が農民だったと判明したゲイルはショックで立ち直れずに…………。


いるわけもなく、にこやかに登校していた。


「学校なんて通う機会無かったからものすごい楽しみだよ。な?ミリー」


物凄い能天気ぶりである。誰もがその能天気さを見習いたいと感じる瞬間だった。


「一緒のクラスでよかった〜。別々のクラスだといじめられるかもしれないから心配で仕方なかったよ」


実は別々のクラスにするとゲイルがヒステリーを起こしかねないと予感したクランを筆頭とする事務職員諸君が学園長に直談判した成果である。これは一部のものにしか知られていない裏事情。ここだけの話でよろしく。


暢気に陽気に語るゲイルの傍ら、ミリーは相も変わらず無愛想のまま特に返事もしなかった。


「初めての学校で俺も分からないところはあるが、困ったことがあれば兄ちゃんに頼りなさい!」


「私は奴隷ですのでお気遣いなく」


いつも通りの返答にゲイルはやれやれと首をふる。


正直やれやれはお前の頭である。はたからみればシスコンでありたいと願い、近所の女の子にちょっかいをかける不審者と何ら変わらないことに気づかない。


「ここが俺たちのクラスか」


1−Bと札の掛かっている部屋のなかに入り、黒板に貼られた座席表を見る。ゲイルの席は一番後ろであり、ミリーとは隣同士だった。


「席が近くてよかったな!」


これもクランの尽力によるものである。直談判に当たってモンスターブラザーゲイルによる学級崩壊リスクを語り、授業担当教員らを煽る根回しを済ませていた。


あまりにも用意周到であるために実はミリーは気付きつつあるが、ゲイルは一切気づかない。


自分達の席に向かい、腰を落ち着かせる。まだオリエンテーションまで時間はあるが、クラスメイトは半分近くいる。幾人もがゲイルとミリーをチラチラと見るが、ゲイルは気にせずミリーに話しかけようとする。


学校は勉強だけでなく交友関係や協調性を育む場所でもあるはずなのだが……。ゲイルはまるで分かっていないようであった。尤もミリーも交友関係に難がありそうと言える。




「君がフォアワード侯爵家のゲイルね?」




突然声をかけられ、ゲイルが振り向く。どこかで見た気がしないでもないが、知らない女の子だった。ゲイルはそのままミリーの方を見る。


「誰?」


「ゲイル様。そこは私にではなくそちらのお方に直接お尋ねするのが礼儀です。お尋ねする際も不躾に言葉をかけるのではなく、どちら様でしょうかと丁寧にお尋ねください」


「オーケー。どちら様でしょうか?」


ミリーが言った言葉をそのまま声かけた女子生徒に投げ掛ける。あまりにもストレートに口を開くものだからミリーはため息をはき女子生徒はクスクスと笑った。


「君面白いね。噂に違わぬ変わり者だって分かったよ。それともコミュ障?」


「そこに引きこもりを加えてくれれば完璧である」


偉そうにふんぞり返るゲイルを見て、「否定しないんだ」と大きく笑った。


その様に周囲は気が気でない様子だ。


「まあいいか。君の質問に答えれば私はネルカ。スワローズ子爵家の者だよ」


ゲイルはちらりとミリーを見る。だから誰と。


「ネルカ様は先日の入学式で新入生代表挨拶をなさったお方です」


「ああ、だから見覚えあるのか……」と思い出した様子。しかし腑に落ちない。何故ネルカが初対面の自分に声をかけたのか……。


その様子を察したミリーが口を開く。


「まだ噂ではありますがネルカ様は……」


「自分で言うから言わなくてもいいよ。奴隷ちゃん」




「ミリーだ」




「……………………」


突然の低い声に教室内の空気が冷える。声の主を見ようと誰もがゆっくり慎重に周囲を見渡した。声の主らしき人物は笑みを浮かべていた。目は笑っていなかったが。


そしてその人物と向き合うネルカもまた笑みを浮かべていた。笑わない目を向けながら。




「ミリーちゃん。自己紹介は自分でするから取らないでね?」


ネルカが言い回しを変えたことでホンの少し空気が弛緩する。


「姫騎士リズって知ってる?」


「…………聞き覚えはあるけど、忘れた」


「はあ……。レーニアリスに通ってるんなら勇者一行の名前全員挙げられなきゃダメでしょ。常識だよ?」


ネルカは呆れたように呟いた。


「まともな常識があったらレインフラックを落とされないさ」


「なんで胸を張るのかな?」


ネルカはため息をはきながら口を開く。


「勇者アリスは三人の仲間をつれて旅に出た。ローザンヌ教会のユラン、奴隷剣士のデュアン、そして隣国ツェッペンハーゲン王国の王女リーゼロッテ。ここまでは分かるかな?まさか勇者アリスさえ知らないとは言わないよね?」


「流石にそこまで無知じゃない」


「ならいいけど……。アリスの仲間のリーゼロッテは王位継承権が12位。王女といっても肩書きにしか過ぎなかったし、王宮暮らしも退屈だった。そんな時勇者アリスと出会い、彼女に憧れて剣を手にし、一緒に旅に出た。そしてついた愛称が姫騎士リズ」


「ふむ。姫騎士リズに聞き覚えがあったのはそういうことか……。ただ他はさっぱりだな。勉強した記憶がない!」


「この辺はツェッペンハーゲンでも正史として学ぶ機会はなかったんじゃない?リズがリーゼロッテの略称だとも知らない人も多いでしょうし。それよりも知らないことをそう威張って言うことではないと思うんだけどなあ」


何故か胸を張るゲイルにネルカは顔をひきつらせた。


「それでその姫騎士リズがどうした?」


「…………もう噂で流れてるから勘づくかと思ったんだけど。まさかあなた友達いない?」


「ご明察」


ゲイルはサムズアップして笑顔で答えた。


「どうしていちいち威張るの?空気読めないの?」


「空気が見えるほど魔力は持ってないな」


「そう言うことじゃなくて!」


ネルカは助け船を求めるようにミリーに目を向ける。


「埒があかないので口を挟ませていただきます。最近流れている噂ではありますが、ネルカ様が姫騎士リズ様の転生者であるらしいのです」


「ふむ。つまり彼女の魂はネルカであると同時に姫騎士リズでもあると」


「さらに噂を追加するとネルカ様は完全想起にも成功したそうです」


「なるほど。人格も姫騎士リズであると。つまり姫騎士リズ様ご本人が目の前にいるわけだな?」


ネルカは若干涙目になりながらコクコクと頷いた。


「自己紹介なのになんで姫騎士リズの話が出たのか理解できなかったがそう言うことだったのか」


腕をくみウンウンと頷くゲイル。次の瞬間彼は崩れ落ち、そして平伏の構えをとった。






無駄に洗練された無駄のない動きの末の土下座である。






「農民風情がいっちょ前に口を利いてしまい申し訳ございませんでした!リーゼロッテ様ああああああああ!」


突然の身代わりにクラスメイト全員の目が点になった。

評価とかブクマとか感想とか。

いろいろありがとうございます。ご期待に沿えるように頑張ります。

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