6 入学式
貴族の子息令嬢や平民の子供たちが次々とレーニアリス学園にたどり着く。彼、彼女たちは入学式・・・・・・、ではなくその翌日に執り行われる予定の前世を思い出すための儀式、想起の儀式に思いを馳せていた。
誰もが自分の前世が立派な人物であればと期待を膨らませる。あわよくば俺が、私が歴史に名を残すような有名人であったなら・・・・・・と。
勿論そう都合よくはいかないだろうが、レーニアリスに来るのは、貴族のエリートが通うようなレインフラック王立学校に通うことが出来なかったものたち。平民は勿論のこと貴族の中でも跡継ぎとして期待されない貴族の子弟、特に三男坊以下なども多い。ここで一発逆転を狙えるならばと期待するのも無理はない。
そう。「跡継ぎとして期待されない」貴族の子息や令嬢が多いはずなのである。まさか侯爵家の一人息子が来るような場所ではないのである。
ゲイル。お前だよお前。
今年の入学者は侯爵家の子息はゲイルだけ。令嬢はなし。入学者だけでなく在校生を含めても、侯爵家や公爵家、ましてや王族はいない。
本来、侯爵家以上の身分は跡継ぎとして期待されない限り、レーニアリスに来て前世で恥をかくかもしれないリスクは負いたくないのである。
入学するだけで「跡継ぎとして期待されない」というレッテルが貼られかねない中、ちゃっかり入学しちゃってる侯爵家の一人息子ってどうよ?しかも生徒の中では一番身分が高いのよ?
扱いづらいよね〜。
「あの方がフォアワード侯爵家の次期当主・・・・・・」
「確かに・・・・・・。パッとしませんね・・・・・・」
「あれで前世もパッとしなかったらどうするんだ?」
「いや、あのフォアワード家だぞ?お取り潰しにはならないだろ・・・・・・。まあ王宮から代官が派遣されるかもしれないが・・・・・・」
入学式が始まる前から言われ放題である。それほど悪い意味で評判になっている。残念なことに当のゲイルはあまり気にする素振りは見せない。気にしろよ。
教職員はそんな彼を見て図太いなと感じていた。
新入生たちが事前に受け取った制服を身に着けて、空いている席に座っていく中、噂のゲイルは新入生の席の一番後ろの通路から二番目に座っている。まだ座席が半分も埋まっていないにもかかわらず。
理由は一番端の席にミリーを座らせ守るためである。ミリーはゲイルとは対照的に新入生のみならず在校生唯一の奴隷身分。生徒たちから何をされるか分かったものではない。
彼はミリーが危害を加えられやしないか警戒しているのだ。
「あれが噂の奴隷か・・・・・・」
「ゲイル様のごり押しで平民寮に入ったらしい」
「奴隷の癖に生意気だな。やはりフォアワード家は変わり者だよ。だから奴は増長する」
「何で私たちと同じ席に座ろうとするのかしら?」
「ホント。図々しいったらありゃしないわね」
初対面にもかかわらず、ミリーも好き放題言われていた。しかもあることないこと。しかし、他の女子生徒と同じく白いブレザーに青いスカートをはいた彼女もまた特段気にした素振りも見せず、目を閉じて平静を保っている。
むしろゲイルの方が苛立った様子だ。
「今に見ておけよ。ミリーの前世を知って恐れおののくがいい・・・・・・」
ミリーを揶揄していた者達はゲイルの睨み付けに慌てて目をそらすが、会話をやめるような素振りは見せない。
「ミリー、きっと前世の君は素晴らしい人物だろうから自信をもって。いじめられるようなことがあったら兄ちゃんに言いなさい」
ゲイルは優しく言うが、ミリーは何も返答しなかった。いつも通りの態度に苦笑を漏らす。
「いつになったらお兄ちゃんって呼んでくれる?」
ミリーは目をあけ、ゆっくりとゲイルに顔を向けてから無表情のまま口を開く。
「ゲイル様は侯爵家の子息であり、私は奴隷の娘であり奴隷そのものです。ゲイル様を兄と呼ぶような不敬な真似は出来ません」
いつも通りの返答にゲイルは苦笑を漏らし、ミリーは再び目を閉じた。
暫くして入学式が始まり、学園長が、生徒会長が祝辞を述べ、新入生代表が壇上にたった。確か、子爵家の令嬢のはず、とゲイルはふと考える。
新入生の中では一番身分が高いにもかかわらず、代表挨拶を読ませてもらえていないことを気にするべきなのだが、当人は相変わらずぶれていない様子だった。
そうこうするうちに入学式は終わる。心配していたミリーへの嫌がらせは今のところない。
明日にはいよいよ想起の儀式がある。ミリーの前世が素敵な人でありますようにと思い馳せた。
「そういや、俺も儀式受けるんだっけ?」
思わず呟くゲイルの言葉に偶然周囲にいた人間が唖然とする。
後がないことを理解していない辺り、ゲイルがバカ息子と呼ばれる所以である・・・・・・。




