56 剣術決闘2
いざ決闘が始まると大方の予想通り、ネルカがグルアーノの方へと飛んで行った。文字通り。
「グルアァァァァァノォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!」
物凄い奇声 (奇声扱いでいいよな?) を上げながらグルアーノへと向かうその様は鬼神と呼ぶに相応しい。
対するグルアーノは槍を軽く三回転させて矯めてからネルカの斬撃を受け止める。その余裕な振る舞いに、流石は前世が魔王なだけあると誰もが感じていた。
他のAクラスの参加者は片方がBクラスに、もう片方がCクラスに向かっていった。Bクラスでは真っ先にベルトランが動き、Aクラスの男子の斬撃をいなす。もう一方のCクラスはというとカロゥが慌てて防御しに行った。
ちなみに残るCクラスの男女は戦いに参加せず、何やら言い争いをしている。
「ちょっと二人とも!手伝ってよ!」
カロゥの必死の叫びはしかし、届いてくれなかった…………。
ミリーはベルトランが抑えているところを見て、ネルカとベルトランの戦いに邪魔が入らないようにとすかさずDクラスへと向かう。対するDクラスも3人が同時にミリーめがけて一直線に走っていた。最初からミリーが目的だったらしい。
1対3と人数的には厳しい中で、ミリーは健気にも応戦していた。Dクラスの3人は意外にも押されていて、かなり驚愕している様子だ。
「くっそ!奴隷の分際で!」
ノモンが言葉を吐き捨てる。対するミリーは普段の無表情のまま、ノモンをはじめ他二人の攻撃も同時にいなしていた。隙を見つけては足やひじなどを狙って叩き込む。流石はDクラスから代表して選ばれるだけあって、すぐさま防ぐが、それでも素早い動きに困惑しているようだった。
さて。ネルカの戦いはというと。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
先ほどの怒鳴り声はどこへ行ったのか?ネルカもグルアーノもただただ無言のまま。
ネルカは剣をグルアーノの首へ斬りつけようとしたり、心臓めがけて突き刺そうとしたりと一生懸命である。
対するグルアーノもまたネルカの顔や心臓めがけて突き刺そうとしている。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
二人のことで忘れちゃいけないことが二つ。
この二人が手にしているのは本物の武器であること。そして……。
「信じられるか?あいつら婚約者なんだぜ?」
どこからともなく誰かが言葉を発する。
剣術決闘の場でなぜあの二人を出場させたのか?まあきっと出させろとすごまれたんだろうけど……。
さて、ベルトランはというと、結構楽しんでいた。
「おまえ中々の腕前だな!」
「そっちこそ!」
Aクラスの男子生徒も同じようであった。
「名前は!?」
「トルネ・ロナウド・フォン・ラッザク=ティエール!辺境伯の子!前世は魔族の兵士!」
「俺はベルトラン・ミハエル・ドルモゼール!王宮騎士団の兵長の息子だ!前世は領軍の兵士だ!」
あの調子を見ると、決闘の後、互いに汗水流し、トルネ、ベルトラン、と互いに呼び合いながら握手を交わすに違いない。まさに青春。
そしてカロゥは……。
「おまえ。苦労してるな……」
Aクラスの男子に同情されていた。
カロゥの心労の要因であるCクラスの男女はいまだに言い争いをやめない。
クラス対抗の決闘だよ?味方同士で何いさかい起こしてるの?
とはいえ、それでAクラスの男子もカロゥも手を抜きはしない。剣戟は意外にも苛烈でカロゥの剣捌きは前世が農民だとは思えないほどのものだった。それも当然だろう。現世では男爵家の子供。剣の嗜みくらいあるのだ。
それぞれがそれぞれの相手と苛烈に剣を交え (一人だけ槍を持っているが)、時間だけが過ぎていく。
そして…………。
まず最初に動きがあったのはカロゥ達。木刀とはいえそう長く打ち合えば当然疲れる。二人はほぼ同時に地面に手をつきギブアップした。
いや、カロゥはよく頑張った方だよ?後ろの二人なんてまだ揉めてるんだよ?てか何で揉めてんだよ…………。
続いて動きがあったのはベルトランとトルネ。二人とも見事な剣捌き。これで終わりだ!とばかりに二人同時に頭目掛けて左から木刀を横なぎにぶつけようとするものだから防ぐこともままならずそのまま直撃。ノックダウン。ピクリとも動かなくなった。
「……痛そうですね」とファーノが呟き、「顔に当たることもあるなんて、女性としてはあまり参加したくないですね」とアインが呟く。
これで残るはネルカとグルアーノ、ミリーとノモンをはじめとするDクラスである。Cクラスの男女?数に入れるわけないだろ?
ゲイルはというと、祈るように手を組みながら、真剣な眼差しでミリーの戦いを見ていた。
さて、すっかり忘れている人がいるかもしれないのでミリーの服装をもう一度。
『なぜか青い半袖のワンピース。膝上よりも少し上に裾がある。腰にはベルトを巻き、足はハイソックスに膝下までの長靴。普段結わないはずの髪は髪留めで止められていて、ポニーテールを作っていた。ちなみに手には白い手袋がはめられてある。』
教員の心配通り、時折めくれるのである。太ももが見えるのである。観戦している男子生徒と学園長が色めき立つのである。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
ちょっと捲れるたびにこの歓声である。ちなみに学園長は歓声を上げるたびにクランに耳を引っ張られていた。
「……殺してくれ。誰か俺を殺してくれぇ…………」
ゲイルは手を膝を地につけて、涙をこぼす。ガチ泣きである。ファーノとアインはギョッとした。
「妹が破廉恥な事させられて何も助けてやれないなんてぇ…………」
自称兄を語るだけのことはある。大層な兄バカである。ファーノとアインは言葉を続けようもなく互いに目を合わせることしかできなかった。
そのミリーであるがよく頑張った。よく頑張ったと思う。ただでさえ一人で三人も相手にしている中、カロゥやベルトラン達よりも長く剣戟を続けられているのだから。
けれどもミリーも年頃の女の子。流石に持久面できつい。むしろ三人相手にここまで持っているのだから、1対1であれば確実に勝利していただろう。
額からは汗が流れており、素早さも最初のころに比べて落ちていた。本当ならば最初のうちに一人くらいは削りたかったのだろうが、伊達に代表をやっていない面々に不意打ちもかなわなかった。
そして動きが起きた。
Dクラス女子の攻撃を防ぐことができず、ミリーの左の太ももに木刀が強く当たる。ミリーは一瞬、左足をついたが、その際、女子の木刀がミリーのスカートに引っ掛かり、大きく捲れて下着が見えてしまった。(当然観客席は沸き上がり、ゲイルは発狂した。)
それを目撃したノモンと男子生徒が思わず動きを止めてしまう。苦悶の表情を浮かべるも、ミリーはそれを見逃さず、すかさず正面にいた男子生徒の胸にツキを決めた。あてられた男子生徒は呼吸がつらいのか、木刀を落として地面に蹲ってしまった。
ハッと我に返ったノモンがミリーの突き出した腕に思い切り木刀を振り下ろす。物凄く痛かったのだろう。目尻から涙が流れていた。けれどもそれでも木刀を手放さず、ノモンの脇腹を薙ぐように振りながら、左手を空けて男子生徒が落とした木刀をつかみ、再び来る女子生徒からの殴打を防いだ。
ノモンは脇腹を当てられながらも、何とか避けようと動いていたため、痛みが幾分弱まり、何とか倒れずにいた。
一方、女子生徒は防がれたことに驚愕し、もう一度斬撃を加えようとするが、ノモンが後ろに下がっていたため、その隙をついたミリーは余った右手の木刀で女子生徒の腹へとツキをやった。右手が痛く、威力は減少しているが、彼女の動きを止めるには十分で、その隙に左手の木刀で女子生徒の両膝を叩いた。女子生徒は思わぬ激痛に木刀を手放し倒れこんでしまう。
そこへ態勢を取り戻したノモンが斬りかかるが、片膝をつきながらも、両手の木刀を交叉させ、防ぐ。ここまでおよそ十秒ちょい。
残るは、わき腹を少し痛めたノモンと、服を土で汚し、満身創痍のミリーだった。
「……木刀二つってずるいんじゃねぇか?」
「……奪ってはならないとの規約はありませんでしたので」
ノモンよりも荒い呼吸をしながらもミリーは言い返し、左ももの痛みも徐々に引き始めたので、ゆっくりと膝を上げ、ノモンを押し返すように立ち上がる。ノモンは力負けしていることを察し、急いで距離をとる。
全身土でボロボロのミリー。服は洗濯しても汚れが全部落とせるのか分かったものじゃなかった。ノモンは構えを崩さずミリーの顔を見る。対するミリーは二刀流の構えをとるも、右腕のしびれのためにあまり右手が上がらない様子だ。
観戦席は息を呑んだ。ミリーの戦う姿、構える姿はまるで歴戦の勇士のように様になっていた。訓練服ではなく、青色のワンピースという場違いな服装をしていることがかえってその神々しさを増した。
遠くではネルカとグルアーノが疲れを感じていないのかまだ激しい戦いをやっている。自分たちの戦いに一生懸命で気づく間もないようだった。
「ミリー……」とゲイルは小さく呟く。
暫く二人はにらみ合う。ネルカたちの斬撃の音がまるで効果音のように、遠くの戦場から離れたところで二人だけの決闘に臨む勇士たちの向き合う様を連想させる。
そして、ミリーは左手の木刀を逆手に持ち、ノモンの方へと向け、その体勢のまま走り出す。そして左手の木刀でノモンの胸をめがけて押し付けるようにツキを、右手の木刀は右上から振り下ろすように攻撃を決めようとする。
ノモンは驚愕の表情を浮かべ、動きが鈍くなる。この勝負が決まる。
そう思ったのに…………。
ミリーが横なぎに吹き飛ばされた。
誰もがそれを呆然とする。ノモンでさえ。
ミリーは限界だったのだろう。地面にたたきつけられた後、中々立ち上がれずにいた。ただでさえ土で汚れた服は地面にこすれたせいで破れ、皮膚には擦り傷ができていた。
流石のネルカとグルアーノも戦いの手を止めミリーの方を見る。
ほとんどの者が何が起きたのだと、困惑するばかりだった。
けれどもゲイルは気づいていた。
Dクラスがいる観覧席からミリー目がけて風魔術を放つ者がいたのを。誰だかは分からないが男子生徒だった。その男子生徒はゲイルと視線が合い、慌てて目を逸らす。
ゲイルの視線の先に気が付き、ファーノが、アインが、ノエルが冷たい視線をその男子生徒にやる。
彼女たち以外にも状況に気付く者がいた。
Bクラスの男子たちは、Dクラスの仕業だと知り、殺気立つ。
ゲイルがBクラスの観覧席を離れ、Dクラスへと向かう。その歩む足は最初こそゆっくりだったものの、徐々に早くなり、駆けていた。それに合わせてBクラスの男子生徒たちもゲイルの後を追う。
しかし、件の男を除きDクラスからしてみれば事情が別だった。突然Bクラスの男子がゲイルを筆頭に木刀をもってこっちに向かってきたのである。パニックになり女子は逃げだし、男子たちは「やんのかこらっ!」と叫びながらゲイルたちの方へと向かっていった。
乱闘が始まるその直前。
もう一つ動き出したグループがあった。
「何よ!やっぱり魔術使っていいんじゃないの!」
ローブをその身にまとったCクラス代表の女子は大きな声で文句を言っていた。




