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5 モンスターブラザー、ゲイル2

ゲイルが立ち去ったあと、クランはハッとなってミリーに向き合った。


「国王陛下には学園長を通して伝えるからあなたは寮に向かって」


ミリーはやっと顔をあげ、クランから寮の場所を確認した。


「寮長に部屋の場所を確認して鍵を受け取りなさいね」


貴族のゲイルの前でこそ敬語だったクランも彼が居なくなってから言葉を崩していた。(もっと)もミリーに対して最初から敬語を使ってなどいなかったが、下手に火に油を注がないように細心の注意を払っていた。取り柄がなくとも、お家の取り潰しさえない限り、彼は侯爵家の次期当主なのだから。


とはいえ、クランは他の平民に比べ奴隷であるミリーをあからさまにないがしろにはしない。ほぼ平民と同等に扱う。

 勿論国王に目をかけられているということも理由にあげられるが、現世で奴隷であるとはいえ、前世でも奴隷であるとは限らず、どう化けて出てくるか分からないからでもある。


奴隷は奴隷ということで奴隷がレーニアリスに推薦されることは滅多にないことで、奴隷出身の生徒は数年に一度くらいしか現れないが、過去の例には前世が偉大な発明家だった、有力な貴族だった、大神官だった等々あり、有望な人材をそうと知らずいじめた結果反感をかって反旗を翻されることを恐れている。

 実際、前世が遠い国のやんごとなき人であり、いじめの影響で革命を起こそうとした奴隷もいた。それもあって学園内の教職員は生徒が奴隷であったとしても、むしろそうであるからこそ細心の注意を払って機嫌を損ねないようにと周知されている。


だからと言って貴族と同等に扱う必要はない。前世は前世、現世は現世だ。



クランから説明を受けたミリーは頭を下げてから事務室をあとにする。そして入れ替わるように一人の老人が事務室に訪れた。


「フォアワード家から来る二人がどのような人物か覗き見てみればこれはこれは面白いではないか」


人の良さそうな老人は笑みを浮かべながらクランに近づいた。


「学園長。見ていたのなら助けてくださいよ。心臓に悪かったんですよ?」


不服そうにクランが口を開く。


学園長の来訪に事務職員達は軽く会釈し、各々の業務に戻った。


「いやいや。これは抜き打ち審査でもあるぞ。来た学生諸君がどのような人物であるのか、前世や現世の身分にあぐらをかくタイプであるのか、何より君たち職員が奴隷身分相手に高をくくりやしないかとね。クランちゃん、君合格!」


「まだ儀式も執り行ってないのに前世の身分にあぐらをかくかどうかなんて分からないでしょ。あと勝手に私の審査なんかしないでよ」


ジト目を向けられても「勝手にしなきゃ抜き打ちにならんだろ」と悪びれもしない。それを見てクランはため息をはいた。


ちなみに儀式とは前世がどのような存在であるのかを確認するためのものである。魔族から教わった(くだん)の秘術のことだ。


「しかしずいぶんと面白い青年だ。自分の前世ではなくまだわからぬ奴隷の前世に恐れおののけと言うとは。あれは自分の前世がどうあれ、ある意味大物になれるぞ?ゲイルと言ったか?フォアワード家の変わり者がどのような人物かと思えば、やはり変わり者であったな!」


わっはっはと笑う学園長に釣られ近くにいた職員もクスクスと笑う。対するクランは冷めた目で彼を見ていた。


「学園長は平民なんですから、ゲイル様と呼んでください。思わぬところで後々面倒になりますよ?」


「学園の中ならワシが一番偉いもーん!」


反省しないその態度にクランは再びため息をはき、他の職員はまたクスクスと笑った。


「さて件の奴隷の娘・・・・・・。ミリーと言ったか?あの子はどう化けると思う?」


「私には分かりません。儀式次第では?」


「そんなことは分かっておる。だがなワシはこれまで幾人もの奴隷出身者を見てきたが、あそこまで下手に出るものは初めてだぞ?大抵のものは身分の返上を期待してここに来るのに、あの娘はそれが一切感じられんかった。確かに儀式の結果期待したような前世でなく身分の返上も期待できず、絶望する奴隷もおったが、儀式の前からああも期待せぬものは流石にな・・・・・・。もしかして我が校、評判悪い?」


自信無さげに言う学園長の言葉にクランは思わず笑みを浮かべそうになるがなんとかこらえ「彼女の性分では?」と返した。


「一般の奴隷ならいざ知れず、彼女はあのフォアワード家の奴隷。ゲイル様は勿論、以前お見かけしたことのあるロイド様、アシュリー様ご夫妻も大変人の良い方でした。今の境遇に苦痛を感じていないだけでしょうね。むしろ他の奴隷に比べて良い境遇であることに何か思うところがあるだけかもしれませんよ?」


「だといいんだが・・・・・・」と歯切れの悪い返答が来る。クランの前ではひょうきんな学園長だが、思った以上に学園の悪評を心配しているのかもしれない。


それがおかしくてクランは思わずクスクスと笑った。


「あまり先走らないで儀式を楽しみにしましょう。彼女の前世が分かったとき改めて対策を考えればいいじゃない。心配しすぎよ」


学園長はあまり納得していないようだが、諦めて事務室から出ていった。


一見哀愁漂うような彼の背中を見送りながら、先のミリーの姿を思い出す。


「本当にどう化けて出るかしらね・・・・・・。前世が分かった途端に豹変しなければ良いのだけれど・・・・・・」

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