43 二度目の儀式
想起の儀式の日を迎え、ゲイルは儀式場に赴く。彼は堂々と入場していた。
儀式場は最初の想起の儀式の時と同様の配置で教員たちが待っていた。部屋の奥の席にモルゼオが座る。
昨日の教員食堂でのモルゼオの会話を思い出す。
「農民と聞けば単に畑を耕すだけの人間と思われがちだが、実はマルチタスクだ。農村は時に領地の中心部から大きく離れている場合がある。すると領軍やハンター達の目が行き届かないこともありうる。そうなると魔獣や猛獣が現れた時に農民自らが魔獣や猛獣と戦わなくてはならない。時に盗賊が現れればそいつらとも戦う必要がある。領主から徴兵され、戦に参加することもありうる。君たちの前世は農民だが、その前世が大戦以前のものであるならば、武に秀でた農夫であるやもしれん」
農民だからってなんぼのもんじゃい!ゲイルはモルゼオの言葉に奮起した。
果たして、彼の前世は…………?
「では、始めよう」
今回もゲイルの儀式を担当するモルゼオの言葉に魔法陣が起動し、ゲイルの視界が真っ白になる。
どうやら森の中に居るようだった。
息を潜めて身を屈めているようだ。
手には弓を握っている。
森の中から草原を見ている。
矢を取り出し弓をゆっくりと引く。
精一杯引き、そして矢を放った。
矢が草原の草の中へと消えていき見えなくなったところで立ち上がった。
それから走り出す。草原を。全力疾走。目的地に向かって。
そして急に立ち止まる。
地面に手を突き出し、何かを掴んだ。
そしてゆっくりとそれを持ち上げた。
手には矢の刺さったウサギがいた……………………。
視界が回復し、目の前には椅子に座るモルゼオがいた。
モルゼオは目を瞑り考え事をする。暫くしてゆっくりと口を開いた。
「昨日の話なんだが」
「おう」
「農村だからと言って常に魔獣や盗賊の脅威にさらされているとは限らない。平和な村もありうる」
「だろうな」
「…………変に期待させて悪かったな」
二度目の儀式の後のゲイルも死んだ魚のような目をしていた……………………。




