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42 姫騎士リズの回想

リーゼロッテが19歳になった年のこと……。


ベルフェリオ王国北部、アダルカーン砦。


アダルカーン砦の守備隊と魔王軍との衝突により、その地は半年間戦火に見舞われていた。砦の周囲に広がっていた森は焼き払われ、砦を囲う城壁も四重に建てられていたものが、今や二重のみだった。もはや陥落も時間の問題……。


「王国軍は明朝にも出撃をし、守備隊の救出を行うそうです。砦は放棄とのこと。私たちは遊撃部隊として魔王軍の撹乱が主となるでしょう」


リーゼロッテは王国軍の作戦の協力に馳せ参じたハンター達にそう告げた。ソロハンターとして活躍するようになった彼女はいつしか姫騎士との異名を持つようになり、多くのハンター達から羨望の眼差しを受けるようになった。


今はアダルカーン砦の救出作戦を手伝うレイドのリーダーとして宿営地のテントで作戦概要を伝えている。今ここに集まっているのは、B級以上のハンターやパーティーのリーダーばかりで歴戦の猛者としての貫禄が滲み出ていた。そんな彼らをまとめるリーゼロッテもまた戦乙女とも言えるような貫禄がある。


「私達は救出部隊の合図の後に動く王国軍の攻撃に合わせ、側面から魔王軍に攻撃を仕掛けます。魔王軍はおよそ8000、対する王国軍は救出部隊と守備隊の生き残りを含めて3000です。私達ハンターは200程しか居ないため、王国軍以上の損害を受ける可能性があります。3日間の猶予を与えましたが、今回の作戦から降りる方もしくはパーティーはありませんでしたか?」


リーゼロッテの言葉に全員の首が横に振られる。皆覚悟を既に決めている様子だった。


「全体の指揮は私が、陣頭指揮はモルガンさんにやっていただきます」


S級パーティー、ノートレードのパーティーリーダー、モルガンがコクリと頷く。彼のパーティーが先陣をきることとなった。


「三時間の休憩の後、目的地に出発します。解散!」




翌日。

日付が変わったばかりの深い闇の中、ハンター達はまだ焼け残っていた森に息を潜め、動きが出るのを待っていた。リーゼロッテはモルガンと最後の打ち合わせを行い、彼に先陣を任せる。


辺りが徐々に明るくなり、空に朝焼けが浮かぶようになった頃合いで、遠くから戦いの音が鳴り響いた。魔王軍と王国軍が衝突したようだ。


リーゼロッテは遠くから上がる花火を見て「攻撃開始!」と大声を上げる。彼女の合図に合わせて、森の中から魔王軍の居る平原へと弓や攻撃魔術が飛んで行った。側面からの突然の攻撃に魔王軍は混乱する。そこへさらに攻撃を加える。


8000もの魔族を相手に200のハンターで突撃しようなどと言うバカなことはしない。そもそもリーゼロッテ達の任務はあくまでも救出作戦の援護。魔王軍を殲滅することではない。相手を撹乱できればそれでいいのだ。


魔王軍側は徐々に体勢を建て直し、リーゼロッテ達へと近づいていく。それに合わせ、攻撃を加えながら彼女達は後退する。伏兵を警戒しているためか相手の移動速度は遅い。このままの調子なら無事に撤退できるだろう。そう安心した時だった。


「動きの良い中隊が居るかと思えば……。まさか女が指揮を執っているとはな……」


突然後ろから声が聞こえ、リーゼロッテ達は振り向く。目の前には魔族の男がこちらを見ていた。リーゼロッテを護衛していたハンターが慌てて火炎魔術を放つが、意図も容易く防がれてしまう。


「あなたは何者ですか?」


リーゼロッテは背中に冷たいものを伝わせながらその魔族に問いかけた。


「君達が魔王と呼んでいるものだ」


魔王レーノ。そう叫ぶ間もなく、レーノはどこからともなく剣を取り出し斬りかかってきた。


「くっ!」


振り下ろされた剣を慌てて防ぐも攻撃が重く、腕がしびれる。苦悶の表情を浮かび上がらせる。


「受け止めるか……。腕は悪くない」


護衛のハンター達がすぐさま斬りかかるが、防御魔術をかけているのか、途中で剣を止められてしまった。


「貴様らに用はない」


ハンター達は風魔術で森の中の木々にぶつかり負傷してしまう。中には気を失うものもいた。


「女。おまえ達はなぜここに居る?」


「あなたには関係ないことです!」


リーゼロッテは斬り返し、反撃を行う。剣戟の音が響き渡った。


後退が止まってしまったため魔王軍との距離も徐々に縮められる。モルガン達、ノートレードは近づけまいと攻撃魔術を放つが、先頭を潰してもそのすぐ後ろに居る魔族が先頭にとってかわるのみで進行速度を変えるまでには至らない。気がつけばモルガンをはじめとする剣士達は剣を抜き取り応戦を始めていた。


マズイとリーゼロッテは焦る。これでは魔王軍に蹂躙されるだけだ。森の中だがやむなしと思い、呪文を起動させる。


「闇を照らし灰に変えるものよ、行く先に道を作れ!」


彼女の左手から炎が吹き出し、レーノ目掛けて飛んでいく。リーゼロッテの作り出した炎は彼を飲み込み森を駆け抜ける。森の木々は薙ぎ払われ、道を作っていた。炎がやみ、視界が晴れる。


「っ!?」


しかしレーノは健在だった。


「魔術の腕も悪くはない……。ただ俺を相手にするには威力が足らんな……」


そう言って彼は右手をかざしただ一言呟いた。


「……曝炎」











気がつけばリーゼロッテは地面に伏していた。身体が痛み起き上がれず、何が起きたのかも分からない。鼻には生き物が焼けたときにする臭いが突き刺さる。


視界の端に丸焦げになった塊が見えていた。


「俺ならこれくらいは出来るぞ?」


レーノはゆっくりとした足取りでリーゼロッテへと近づく。そんな彼を止めようとするものの足音は一切聞こえなかった。


「しかしあれを受けてまだ息があるか……。楽に死ねぬのも辛いものだな……」


リーゼロッテは気づかなかった。今自分がどんな容態なのかを。


皮膚はただれ、髪は燃えてなくなり、身に付けていた鎧も服も失っていた。視界の端にある。黒い塊と全く同じ姿をしていたのだ……。


「そう長くは持つまいが、寡兵で俺たちに挑み、多少ではあるが損害を与えた勇気と栄誉を称え、楽にしてやろう……」


レーノは剣を振りかざす。彼女は自分がこれからどうなるのかを悟り小さな嗄れた声で呟いた。


「たす……けて……」






彼女の視界は白くなり、いつしか心は温かさで満たされていた。


「息があるかぎり、私の魔法はなんでも助けられるよー♪」


どこかで聞き覚えのある、ずいぶんと懐かしい少女の声がした。


「ほお……。その手の魔法を使いこなすか……。何者だ?」


レーノの感心と同時に警戒した声が聞こえ、徐々に視界が回復していく。


目の前には黒髪の、肩まわりが赤く灼けた少女が背中を見せて立っていた。


「レッドネックって言うんだよ!よろしくね♪」

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