4 モンスターブラザー、ゲイル1
レーニアリス学園に到着したゲイルは学園の事務室に怒鳴りこんでいた。
「どうしてミリーは貴族寮じゃないんだ!」
ゲイルが貴族専用の男子寮であるのに対し、ミリーが平民用の男女混合の寮に入れられたことに対して立腹していた。
「そうは申されましても、ゲイル様がどのようにお感じになっても、奴隷の身分ゆえ貴族寮に入れるわけには参りません。本来ならば学園の外にある奴隷用の小屋で済まされてしまうのを、国王陛下の温情ゆえ平民寮の部屋を一人で使われることを許されたのです。既に陛下からの温情をご理解いただけませんと・・・・・・」
事務職員のクランは困惑の表情を浮かべながら必死に説明していた。
正直言えばゲイルの怒りは見当違いである。レーニアリス学園は王族や貴族の推薦があれば奴隷の入学を許可されるものの、貴族や平民と同じ寮に暮らさせてもらえない。学園の敷地外にある奴隷専用の小屋から通わなくてはならない。しかも奴隷小屋は学園の所有地ではなく奴隷商人が主人の命令で王都に訪れた遠出の奴隷を泊めるための小屋であり、自室などなく、男女共に雑魚寝する馬小屋のような場所である。
ミリーも本来ならば奴隷小屋から通わなくてはならないにもかかわらず、国王の温情で平民用ではあるが、学園内の寮に、しかも本来二人部屋を一人で使うことを許されたのである。
これは破格の待遇であるのは言うまでもない。
ゲイルも頭では理解している。それでも彼にとってミリーは実の妹のように愛すべき存在であり、自分と同じような待遇でないことを良しとしたくなかった。
怒り赴くままに捲し立てようとしたところで、ミリーが止めに入った。
「ゲイル様。クラン様がお困りです。そこまでになさってください。本来、奴隷である私が学校に通わせていただけること事態大変ありがたいことなのです。これ以上はクラン様だけでなく、国王陛下もロイド様もアシュリー様も困られてしまいます。それにゲイル様の名誉にも傷が入ります。どうかクラン様のお言葉を聞き分けてください」
それから平民の事務職員クランに対し、奴隷として平伏した。
「奴隷の身分ゆえお目通り叶いませんので。どうか国王陛下にこの度の温情を感謝しておりますことお伝え願えればと思います。どうぞよろしくお願い致します」
実の妹のように愛すべきミリーが平民に平伏するその様は、ゲイルの胸を痛めた。どうして世界はミリーに優しくないのかと歯噛みした。
「お前は俺の義妹なんだぞ・・・・・・」
ゲイルの呟きにミリーは頭をあげることも何か反応することもしなかった。
クランはそんな二人を見ておろおろするばかりである。
そしてゲイルは睨み付けるように事務室を見渡し、大声をあげた。
「ミリーに対して不遜な態度が許されるのも今のうちだからな!今に見てろ!ミリーの前世が分かった途端に居心地が悪くなるのはお前らだからな!」
ゲイルはいまだに顔をあげないミリーを一瞥し、再び歯噛みしてから事務室をあとにした。
彼女が貴族寮でないなら、付き従えることも付き従うことも出来ない。
貴族寮へと案内するためにおろおろと後ろに控える別の職員を促し、ミリーを置いて寮へと向かった。