24 友達増えたぞ!ミリーの。
それからも昼食の度にネルカはミリーと一緒に食事をとり、ゲイルは二人に談笑を促して代わりに昼食の受け取りをしに行った。ネルカはミリーのことを何でも聞いたし、自分のことについて知りたいことがあればと質問を促したりした。
ネルカの機嫌の良さは誰もが目に見えて気づいていた。尤もモルゼオの授業の時は敵愾心をだすことを忘れてはいなかったが……。
研究日と休養日、便宜的に言えば土日は二人に関わるチャンスが無かったが、週が明ければいつもと同じように付き合えるとネルカはそう信じていた。
月曜日の朝、教室に赴くと、すでにゲイルがいた。流石に椅子の清掃などはしなくなったけれども、ネルカが来れば真っ先に来て朝の挨拶をする。
「おはようございます。リーゼロッテ様」
「おはよう!ゲイル君!」
ネルカは元気に挨拶をする。
「研究日と休養日は会えなかったけど、二人はどうしてたの?」
「俺もミリーも図書館に居ましたね。俺はミリーに倣って地質学の本を読んでみることにしました。なぜかミリーは勇者アリスのことについて調べていましたが……。」
若干崩れつつも丁寧な応対をするゲイル。ネルカも違和感を覚えていない。二人は大好きなミリーを通して気を許しあっていた。
「そう言えば、ミリーちゃん。学園の外に出る機会がないってね?」
「全くでないわけではないですよ?前の休養日は訳あって一緒に出ましたから」
「そうなの?じゃあ外が嫌いってわけじゃないんだね!だったら今度の休養日に一緒に出掛けない?研究日でもいいよ?」
「そうですね、是非とも考えておきましょう」
噂をすればミリーが教室に入る。二人の姿を認め、席に着くよりも先に近寄る。
「おはようございます。ゲイル様。ネルカ様」
「おはよう、ミリー。今日もお兄ちゃんって呼んでくれないのな」
「ヤッホー、ミリーちゃん!今日もお兄ちゃんて呼んであげないんだね」
ミリーの挨拶に余計な一言を付けて返す二人。ある意味でいいコンビだった。
「そうだ。せっかくだし今日のお昼は私のお友達と一緒にどう?」
「なんと!?リーゼロッテ様のお友達をミリーに紹介してくれると?」
「ふふん!もちろん!約束は守ってるぞ!」
「では是非とも!」と頭を下げるゲイルに「任せなさい」と胸を張るネルカ。その姿にミリーは無言になっていた。
それから生物学の授業を受けて昼になる。
授業後、ノエルとアイン、それからファーノに声をかけたネルカは三人を引き連れてゲイルとミリーの下へと寄った。
「お待たせ!こちらはラズリ=ティル伯爵家のノエル・シアン・ラズリ=ティルさん。こちらがティアノード子爵家のアイン・リゼット・ティアノードさん。そしてこちらは平民のファーノ・リスランさん」
紹介され、三人がそれぞれ挨拶をする。それに応じてゲイルとミリーが自己紹介する。
「そう言えばゲイル君のお母さまってティアノード子爵家から来たんじゃなかったっけ?」
「ああ。実はアインとは子供の頃に何度か会ってる。アインが初等科に通い始めたあたりから全然だけどな。相変わらず駄目な奴だと思ってるんじゃないか?」
笑いながら言うゲイルの言葉に「どうでしょうね」と笑いながら返すアインは「ミリーさんとは初めてお会いしますけどね」と言葉を続ける。アインはネルカからミリーを奴隷の子と呼ばないことを頼まれており、忠実に守っていた。
「まあそうだろうな。来客が居る時はミリーは部屋から出ないようにしてるし、外へ出る時にミリーも一緒に行くことはなかなか無いからな」
ゲイルが話す傍ら、ミリーは沈黙している。話しかけられない限り言葉を発しない。ミリーはそれが奴隷として当然のことであると考えていた。
「じゃあ、早速食堂に行こうか!」
ネルカが促し全員で学食へと向かう。
「しかし女性五人分はさすがにきついなぁ……」
「今日はみんなで並ぼう!たまにはいいでしょ?」
それもそうかといってネルカの後ろにつく。ミリーはそんなゲイルの後ろに就いた。
学食に着き、注文を頼み、配膳を受け取って席を探す。8人用のテーブルが丁度空いていたので、みんなで座った。
「しっかし、今日の授業も訳分かんなかったなぁ……。ミリーは分かったか?」
「一つ一つの話題については理解可能ですが、話題と話題との間の論理的飛躍についてはいまだに理解不能です」
今日のルーカスの授業も倫理的飛躍がすごかった。宣告通り火山岩の性質の説明から授業を始めたが、終わる頃には鳥は何故空を飛べるのかに話がシフトしていた。
「ミリーは今日は何を調べに行くんだ?」
「そうですね……。火山灰の性質は分かりましたが、何故火山灰では植物が育ちづらいのかについて説明が足りない気がするのでその辺を調べてみようかと思います」
二人の会話を聞いて「あはは」と笑う4人。生物学の度にこの会話が続いていくんだろうなと感じていた。
「あ、そうだ。ノエル、アイン、ファーノ。ミリーの同席を許してくれてありがとうな」
そう言ってゲイルは3人に頭を下げた。その姿を見て3人は驚く。
「いえ、ゲイル様……。私たちはネルカ様に誘われての参加ですから。むしろ私たちの同席を許してくださったことに感謝するのはこちらです」
ノエルが率先して返答する。この6人のうち現世での身分は侯爵家のゲイルが一番高い。いくらゲイルに対する評価を低く見積もっているとはいえ、そう易々と頭を下げられれば驚きもする。
ただ、ネルカはミリーが絡めば頭を下げるのもいとわないゲイルの性格を知っているので、驚きはしなかったが。対してミリーは注意を促そうとしつつも、話しかけるタイミングを掴めず俯いていた。
「奴隷って身分でいい印象を持ってないのも理解してる。でもミリーはいい奴だからさ、三年も経てば身分返上は確実だ。その時に友達が全くできなかったってのは寂しいからさ。どうかよろしく頼む!」
再び頭を下げるゲイルを見て「分かりましたから」と慌てて頭をあげるように言う3人。
そして食事が終わるまで談笑が続いた。ゲイルとネルカの感触としては、ノエル、アイン、ファーノとミリーとの間の距離を未だに感じてはいるが、繰り返していけばそれなりに近づけるだろうと感じていた。
教室に辿り着き、それぞれの席に戻ろうとしたところで、ゲイルはネルカに声をかけ、頭を下げる。
「リーゼロッテ様。本当にありがとうございました」
「ふふん!気にしないでよ!私も楽しかったからさ!」
そう言って胸を張るネルカは。
ゲイルの目元にたまっているものに気づかなかった。
そして、その様子を遠巻きから眺めていたミリーは静かにこぶしを握り締める。




