2 プロローグ2
ゲイル・フォアワード。バカ息子の名前である。バカというよりも爵位以外に取り柄がないと言った方が正確かもしれない。
勉強が特別出来るわけでもなく、体力がずば抜けてあるわけでもなく、魔力も人並み。そう、人並み。せっかく貴族に生まれたのに、環境のよさを有効活用できていなかった。
これで次男坊、三男坊であれば、諦めがつくかもしれないが、幸か不幸か一人息子。次期当主。それも侯爵家である。今のままでいいはずがない。
ちなみに彼の名誉のために言っておけば、ゲイルはけっしてサボり魔ではない。努力家である。彼のパッパが「これが才能か」と涙ぐむほどの。
そんな彼は15歳になり、貴族学校に通う予定であった。本来ならば12歳にも貴族学校(初等科)に通わせるべきだったが、一人息子であり、事故などで何かあるわけにもいかないという配慮の末、高等科から通うことになった。
しかしいざレインフラック王立学校の面接を受けたところ、まさかの不合格。
担当面接官の言葉。
「こうもパッとした取り柄がないとねえ・・・・・・」
誰もが初等科から通わせればと思った瞬間であった。
しかしこのまま受け入れるわけにもいかない。当人に取り柄がなくともフォアワード侯爵家次期当主は確約されており、領地経営、教養、そして何よりも箔という点から学校に通わせないわけにはいかない。
そこで侯爵家夫妻が考えたのが、取り柄のない子息にとっての最後の砦、レーニアリス学園への入学であった。
レーニアリス学園がどういう場所かを説明するに当たって、700年前の和平協定と関係があるので、まず和平協定で魔族が提供した秘術について説明しよう。
和平協定締結以前では人の魂は死後天国か地獄のいずれかに向かうものだと信じられていた。しかし実際には魂は輪廻転生していた。
魔族が提供してくれた秘術は輪廻転生した魂に対して働きかけ、前世の記憶を呼び起こすものなのだ。
ふーん、あっそう。
と思うことなかれ。前世の記憶を思い出せるということは、前世で学んだ技術や知識を勉強し直す必要はないということ。さらに言えば、前世の知識の上に現世の知識を上乗せすることが出来るということだ。
知識や技術の学習速度が段違いに変わるのである。
しかし、その秘術はレーニアリス学園の生徒諸君にのみ適用するという暗黙の了解がある。
というのもずいぶん昔に自信過剰な王子が自分の前世は伝説的な英雄だと信じてその秘術を受けたところ、実は普段見下していた平民だったことが分かり、大恥をかいたとか。(その後、その王子は態度を改め賢王と呼ばれるようになったのである意味良かったかもしれないが。)
それもあってレーニアリス学園以外では基本的に秘術を使わないことになっている。特に王族やレインフラック王立学校では。
だって将来がほぼほぼ約束されてるのに改めて恥なんてかきたくないじゃん?
しかしゲイルはそのレインフラック王立学校に通えない。こうなれば前世が優秀であると信じてレーニアリス学園で秘術を受け、出世や挽回のチャンスを掴むしかない。レインフラックを不合格になった以上、背に腹は代えられなかった。
こうしてゲイルの両親はレーニアリス学園への入学申請を行い (ホントは入学要件を満たしていないのだが、あまりの悲惨さに王族も他の有力貴族も不憫に思い温情で受理した)、彼は王都へと赴くことになったのだった。
「親父、おふくろ。レーニアリスで汚名を挽回してくるぜ!」
「あなたはこれ以上汚点を積むつもりかしら?」
マンマの言葉である。
この残念な男、ゲイルは締まらない空気の中で王都行きの侯爵家の馬車へと乗り込んだ。
「・・・・・・。ミリー。早く乗りなよ」
「・・・・・・立場は弁えておりますので」
「ならなおのこと乗れよ。歩いて行くつもりか?」
ゲイルは後ろで見送ろうとする少女の手を無理矢理引き、馬車へと乗せる。
ゲイルのことばかり話していたせいで肝心な説明が抜けてしまった。
レーニアリス学園へと入学するのはゲイルだけではない。もっと正確に言えば、レーニアリス学園に入学するのは彼女だけの筈であった。ゲイルは本来ならばレインフラックに入学する予定だったから。本来ならば。
両親たちは「少女とそのお付き」という名目でゲイルを無理矢理通わせることにしたのである。悲しいことに決して逆では無い。
そして本来の主役である彼女は先祖代々、フォアワード侯爵家に仕えている、
フォアワード家所有の、
奴隷だ。
キリがいいように続けて投稿しました。
掲載ペースについては未定です。