1 プロローグ1
700年ほど前、人族と魔族との戦いは終盤を迎えていた。
長きに渡る戦いのため両陣営は幕引きを図りたいと考えていたのである。
しかし、いざ終戦を、と言ってもハイそうですね、と即答するわけにはいかず、両陣営は落とし処を考えあぐねていた。
魔族領と隣接し、魔族との戦闘の最前線を担っていたベルフェリオ王国の時の国王、エドワード9世は、当時の勇者に和平仲裁を依頼する。
しかし、人族の勇者と言えば当然魔族と最前線で殺しあいをしていたわけであるから、そんな勇者がノコノコと魔族領に赴き和平を提案しに行くなど魔族側の誰が信じようか?
当の勇者は魔族の長である魔王を倒しに幾度となく魔族領に潜入しては魔王城に乗り込んでいたのである。
冷静に考えれば上手くいくはずがない。それでもエドワード9世は疲弊しきった現状を打破できるならばと勇者を生け贄にしようとした。
さて、当の勇者はというと。
二つ返事で了承してしまった。いざ赴けば八つ裂きにされかねないにもかかわらず。それでも混沌とした現状を打破できるならばとの思いがあったのだろう。後世では勇者の思惑をそのように解釈している。
そして対する魔族陣営のトップ、魔王は勇者の来訪に対して。
大手をふって歓迎したそうな。勇者をもてなし、和平の仲裁を魔王からも依頼したのである。
これで晴れて世界平和に・・・・・・。
と喜ぶのもつかの間。何事も後始末は大変である。
どちらの陣営にも遺族はいるし、憎悪がそう簡単に無くなるわけがない。補償を考えなくてはならない。
それに和平が成立しても次の戦が来ないことを保証するわけでもない。特に平和が長く続いてくれるかどうかは当時の者たちには目下の課題であった。
色々と考えあぐね、交渉の末、大まかな方針が決まった。
1つは人族陣営の責任者としてエドワード9世が、魔族陣営の責任者として魔王が退位を同時かつ速やかに行うこと。
人族にしても魔族にしても実際に迷惑をかけたのはこの二人ではないが(ベルフェリオ王国の隣国のツェッペンハーゲン王国は両陣営のなかでもかなりえげつないことをしてる)、これで話がすむならばと双方が受け入れた。処刑されるよりはマシだと考えたのかもしれない。
遺族への配慮としては物足りないとの意見もあったらしい。そういった細々としたところは双方が責任を持って対処することで落ち着いた。
そして、今後再戦が起こらないように対策をもう1つ。何かしらの抑止力を双方が持つことで合意された。その抑止力として選ばれたのが魔族がもつ(と言っても一部の特権階級のみだが)秘術であった。
これを人族にも使えるようにすることで、双方が易々と争えないようにしたのである。その秘術にはそれだけの価値があった。
これにて人族と魔族の戦いは終戦。和平の仲裁を請け負った勇者は英雄として後世に語られることとなった。
英雄アリスと・・・・・・。
そして700年が経ち・・・・・・。
ベルフェリオ王国グルッヴェオ地方フォアワード侯爵家。
かつて勇者一行として英雄アリスと共に魔族と戦い、和平の仲裁をも請け負った人物の末裔でもある一族の屋敷に。
一人のバカ息子が住んでいた・・・・・・・・・・・・。