第8話 現状確認
オレは、ギルドの執務室を後にして、ロビーに出てきた。
グスタフ達はまだ帰らずにオレのことが気になって残ってたらしい。
「なんだ、まだ帰ってなかったのか」
「失礼なやつね!ここで帰ったらいつ会えるかわからないじゃない!」
ニーナがちょっと怒ったように言った。
「で、用事があるんでしょ?」
「同じパーティーに入ってとは言わないけど、たまには協力しましょって話よ!」
「そのくらいなら構わないよ!近くで宿か家を買うつもりだから用があればそこに」
「わかったって宿が結局決まってないんだから連絡取れないじゃない!?」
しょうがないなと溜め息を吐きながら、フィリーネに聞いてみた。
「フィリーネは魔法使えるんだよね?連絡用の魔法使えない?」
「そっちの魔法は覚えてないんだよ」
「そうか、じゃああとで教えるから明日にでもここに来てくれ!連絡用の魔法使えればすぐに連絡できるだろ?」
「わかったわ。明日のお昼にここで。昼食も一緒に取りましょ!」
おい、なんで顔赤くしている?
他の3人も困った顔してるけど?
ニーナはなんでそんなにガッチリ拳を握ってるの?
「あ、明日は他のみんなも来るんだろ?」
「まぁ、特に用事もないしなぁ。」
「来るわよ!!」
スヴェンは無言で頷いてる。
フィリーネが今度は頬を膨らませている。
今度は怒ってる?
「じゃ、じゃあ今日はこれで。これから宿も取らなきゃだし」
「おう!宿の場所も教えるか?」
「いや、ありがたいが散策しながら探すよ。」
そういって手を振りギルドを後にした。
アンファングの街はゲームの時とほぼ変わらなかった。
宿の場所も街の中心にある噴水広場も。
冒険者ギルドの場所は他の建物だった気がするけど。
図書館の場所もそのままだったので後で行くつもりだ。
ある程度散策して、ゲームの時とほぼ変わらないことを確認できたオレは、一つの宿の前に立っていた。
『静かな水車亭』
脇に大きな水車が着いているのが目印の大きめの宿だ。
宿の評判がイマイチ分からなかったので住人に聞いてみたところ、薦められた宿の一つだ。
静かなというわりに中からガヤガヤと騒ぎ声が聞こえる。
誰かが喧嘩しているようだ。
ドカンドカンと何かがぶつかる音もする。
何か巻き込まれるやつやん!!
「お邪魔しまーす。」
しょうがないので入ってみると、喧嘩というより虐めに近い状況だった。
ハゲ面のデブが、細身の女性と女の子を蹴りつけていた。
「このボクの服を汚しやがって!このブスがぁ!!」
「ひぃっ!!お許しください!!」
ハゲでデブで良い歳してボクかぁ。
ブスって言われてるけど、この女性かなり美人だと思うけどなぁ。
女の子も可愛いし。
また蹴ろうと短い足を上げていたので、止めに入った。
女性と女の子を庇い、デブの足を手で掴む。
「な、なにをする!」
「なにをって男なら女性に手をあげちゃダメって習わなかった?」
オレは、デブを片手で逆さに持ちそのまま落とす。
頭からゴンっと音を立てて倒れる。
「ぶひっ!!痛い!痛いよぉ!!」
「早くどこか行きな!次に同じことしてるの見たら消すからね!」
ちょっとだけ怒気を込めて睨んだら、ひぃっと声を上げて一目散に逃げていく。
連れだったのか執事のような格好のじいさんも出ていった。
周りでは拍手が起こった。
「坊主!やるなぁ、かっこよかったぞぉ!」
「いやぁ、それほどでもぉ!」
「でも大丈夫?あの人貴族でしょ?仕返しあるかもよ?」
周りの人が称賛と心配してくれている。
相手が貴族だったために助けに行くのを躊躇ったらしい。
「大丈夫ですよ!こう見えて冒険者なんで返り討ちにしますから!」
「あらあら、こんなに可愛いのに冒険者だなんて!」
おばちゃんに可愛いとか言われても嬉しくはない……
ふと後ろを見ると泣きじゃくっている二人がいた。
「大丈夫ですかぁ?怪我はぁ、蹴られたんだからあるよな」
「は、はい、ありがとうございます。少し痛みますけど大丈夫です。妹も無傷で済んだんで……」
女性の顔は青アザができ、少し腫れている。
痛々しく見られたもんじゃないから、回復魔法を使ってあげた。
ジョブをモンクに変えたままで良かった。
痛みと腫れが引いていくのが分かったのか、女性は驚いている。
「オレ、回復魔法使えるんで!腫れたままじゃ美人が台無しですしね!」
「かっこよすぎだろ!坊主!」
「イケメンは爆ぜろ!!」
「羨ましいわぁ!私もされたい!」
なんか一部悪口入ってたぞ?
それも日本にいたときに良く聞いた感じの……
「ありがとうございます。どうお礼をしたらいいか!」
「お礼は要らないですよ!宿を取りに来ただけなんで。」
「ですが……」
「じゃあ、これで。」
「カッコいいお兄ちゃん!ありがとね!」
オレは、手を振って宿の受付に向かった。
従業員の若い男性が対応してくれた。
一泊食事つきで銀貨三枚、日本円で六千円くらいなのかな?
ちょっと広めの部屋を借りた。
綺麗に掃除されてて、評判が良いのも頷ける。
部屋には小さいが鏡が置いてあった。
自分の姿を確認してなかったオレは、見てみることにした。
恐る恐る自分の姿を覗いた。
するとやっぱり、っていうか今までの住人や魔物達の反応通り、ゲームの自分のアバター、ゲストの姿だった。
170cm半ばの身長に細身で、サラサラの銀髪のイケメン。
間違いなくオレが作った姿。
本当のオレとは真逆の存在。
今日あった女性の反応も頷ける。
「オレ、この姿ならモテモテかもな!!」
顔がにやけてしまう。
よくあるラノベのようにハーレムを作るつもりはないが、それでも想像はしてしまう。
そんなことを考えていたら、ドアをノックされる。
「お客様、裏庭を使いたいとのことでしたが、どういたしますか?」
「今、行きます!案内お願いします。」
「では、こちらです。」
オレは、従業員の男性に案内されて、裏庭に来た。
なぜ裏庭かというと、実験のためだ。
「ありがとう!しばらく借ります。」
「では、ごゆっくり。」
実験というのは魔法やスキルの実験だ。
模擬戦では難なく使えたが、使えない物があるかもしれないので、確認する。
まず、ジョブを魔法使いに変更して、簡単な風の魔法を使う。
「そよ風」
魔法を唱えると、心地よい風が流れる。
それと同時に身体の中から何かが減っている感覚がある。
ゲームでいうところのMP、魔力が減っているのだろう。
模擬戦で使った、『爆拳』は魔法ではなく武技の一つでMPではなくスタミナを使うものだ。
感覚でいうと似た者で、MPがなくなると身体がダルくなり、スタミナを使うと息が上がる感じだ。
多様すれば動けなくなりそうだ。
それからあれこれ試したがゲームの時と同様に使えた。
この調子だとスキルも問題なさそうだ。
実験を終わらせ宿の中に戻ると夕飯の用意ができていた。
考えてみるとこの街に来てから何も食べていなかった。
初めてのこの世界の食事。
メニューは、なんの肉かわからないが少量入ったシチューに、ちょっと硬めのパン、簡単なサラダに、温いエール、要はビールだった。
なんの肉かわからないのは怖かったが、聞いてみると猪型の魔物の肉だった。
しっかり煮込まれていて口の中で簡単にはほぐれる。
パンはそのままでは硬くて食べれなかったが、シチューにつけるとうまかった。
サラダは……野菜あまり好きじゃないからなぁ……
エールは温くてとても飲めたものじゃなかった……
水魔法をコップにかけて冷やして飲んだ。
日本で売れているのど越しだけのドライなやつよりうまかった。
のど越しはもちろん、味もしっかりしていた。
エールは自分で冷やして飲めるからかなりお代わりした。
おかげで部屋に戻ってベッドに入ればすぐに睡魔に襲われた。