第6話 模擬戦
ちょっと長くなってしまった。
「ゲストさんの魔物達と模擬戦すればいい……」
スヴェンの提案がすんなりと通ってしまう。
オレは、仕方なくかごの中に声をかける。
「おーい!オレとお前らで模擬戦しなきゃならなくなった!誰か戦いたいやついるか?」
かごの中がざわめいている。
オレの魔物達は、テイムするために大抵ボコボコにしている。
ゲームでは弱らせてからテイムするのが普通でもだからだ。
オレの強さを理解している魔物達が騒ぐのは無理もない。
レベルは同じくらいにはしているのにな……
「どうなの?ゲスト!魔物達、戦ってくれそう?」
「どうだろう、ほとんどの魔物はテイムするときにボコボコにしているからなぁ」
フィリーネの問いに笑いながら答えると、グスタフ達とゲルトさんが苦笑いしていた。
こっちの世界では普通じゃないのか?
「テイマーなら普通のことじゃないのか?」
「いや、まずテイマーは普通こんなにテイムしないぞ!一匹か二匹が普通だ!」
そんなんでやっていけるのかこの世界は。
ゲームのなかでは無理だな。
いろんな魔物使うところは見られないほうがいいか?
そんなことを考えていると、かごの中から声が聞こえた。
「ご主人様!私達が戦います!」
「まぢかっ!それはありがたい!ただ全力だと被害がどうなるかわからないから加減してな!」
二匹?二人の魔物達に言い聞かせながら、かごから出していく。
二人の魔物は悪魔だ。
二人はサキュバスとインキュバス、性に関する有名な悪魔。
銀髪のサラサラヘアーの爽やか系のイケメンが、インキュバスのカイル。
さすがというべきか、周囲の女性たちの視線は釘付けである。
顔を赤くして眼をトロンっとさせて溜め息混じりで見ている。
フィリーネとニーナも同じ状態だ。
そして薄いピンク色のロングヘアーで露出過多のドレスを着ている美人がドロシーだ。
こっちもカイル同様視線を集めている。
視線は視線でも女性からのではなく男共だ。
そして異様なのは、ほとんどが前屈みになっていることだ。
ドロシーの姿を見ていろいろ想像したのだろう。
ぱっくりと空いた背中から見える白い肌、動き易いように空けられたスリットから見える引き締まった脚、どれも男の大好物だろう。
そんな美人がオレの右腕にすり寄ってきた。
「ご主人様?なんでもっと早く出してくれなかったのよー!ずっと待ってたのにぃー!!」
「悪かった悪かった!!次からもっと出すようにするよ!」
「やだ!しばらく出しっぱなしね!ずっとくっついてるんだから!!」
大人っぽい美人さんが子供のように駄々をこねている。
ゲームだとわからなかったけどこんな性格なのね……
腕にいろいろ当たって悪い気はしないが……
なんかオレにも刺さるような視線を感じるのだが……
「これから戦うんだよな?」
「そうですよ。ご主人様が模擬戦するって言ったのではありませんか!」
カイルが熱を込めたように言う。
この爽やかイケメン、紳士な見た目に反してかなりの戦闘狂らしい。
ドロシーが教えてくれた。
なんでも、オレに勝つために訓練しているらしい。
もうレベルは上がらないはずなんだけどなぁ……
そしてオレは、二人に見惚れている人を正気に戻すために、胸の前でパンっと手を鳴らした。
「おおーい!みんな戻ってこぉーい!」
「はっ!!この人が美しいすぎて見入ってしまった!」
「カイル様素敵!どこの王子様?」
みんなが期待するような視線をオレ達3人に浴びせる。
「あ、あのな、言いづらいんだが、二人共魔物だぞ!サキュバスにインキュバス!みんな精力吸われないようにな!」
みんなすごい表情をしている。
驚いているようだが、複雑な感情があるようだった。
「どう見てもヒューマンなんだが……」
「サキュバスとインキュバスってこの街の冒険者じゃキツいわよね?」
「あぁ……ベテランのパーティーでやっと一体だろうな……」
顔が青いやつもちらほらいる。
そして二人の悪魔は目があった人に対して微笑んだり手を振ったりしている。
おかげで、鼻血出して倒れる男や、顔を赤くして意識を手放す女
性が続出したためにやめさせた。
「ゲルトさん!早くやらない?被害者が増える前に!」
「わ、わかりました!それでは位置に着いてください!」
ゲルトさん……パンプアップしちゃいけないとこパンプアップしてるし、鼻から赤い液体が見え隠れしてるよ!
指摘するのも面倒だからそのままにしておくけど…………
訓練場の中心に二人の悪魔と向かいあっている。
カイルは体をほぐしている。
ドロシーは、くねくねしている。
なにしてんだ?
オレはというと、ジョブの変更をしていた。
メインのテイマーはそのままに、サブをモンクに変えた。
素手の戦闘も慣れておかないとね!
「では、ゲストと魔物の模擬戦を始める!」
「ご主人様!本気出していいですよね?」
「大丈夫かぁ?今のお互いのレベルだと悲惨なことになる気がするが……」
カイルはやる気満々のようだ!
オレもちょっと気合い入れないとヤバいかもしれない……
「始めっ!!!」
「いきなり飛ばしますね!」
「「ハァッ!!」」
ゲルトさんの合図と共に二人は変身する。
二人の頭には二本の角が、背中には蝙蝠のような翼が、腰には細長く鞭のようなしっぽが、腕は指先から肘までが硬質化し手甲のようになっている。
ドロシーの服装は変わらなかったが、カイルは服が翼で裂け、上半身裸になっている。
女性陣の一部が倒れた。
オレもイケメンに作ったはずなのに、さっきからこの反応の違いはなんだ?
ゲームにはないインキュバスの特有の能力でもあるのか?
「ご主人様!覚悟!!」
「その言い方、殺しにきてない?」
翼使って低空を滑空しながらカイルが接近してきた。
オレは、どの角度の攻撃も捌けるように構える。
地面スレスレを滑空してきたカイルは、両腕を地面につき、体を跳ね上げる。
「飛燕!」
「うぉっ!!」
オレは、咄嗟に両腕を顔の前に出しガードした。
飛燕は文字の如く燕のように地面スレスレを滑空し、敵の眼前で急上昇するアッパーカットだ。
翼を持ってたり、魔法で飛べる者が使える技だ。
オレの体は数センチ浮き上がり、バランスが崩れたところにカイルの追撃が襲う。
「ヤベッ!!」
「まだまだ行きますよ!!」
左ジャブから繋いでくる両拳のコンビネーションに蹴り技が加わって激しくなる。
オレは、その連打を掌で受け流したり、ギリギリでかわしたりして凌いだ。
「はぁはぁ……これだけ打って当たらないとは……」
「あれ?もうお疲れ?」
「まだまだです!ドロシー!頼む!!」
「了解よ!敏捷性強化」
ドロシーが離れたところでカイルに掌を向けている。
掌が淡く光り、カイルもまた淡く光っている。
補助系の魔法を使ったようだ。
思ってみるとこの世界に来て初めて初めて魔法見たな。
あとで確認しなければ。
そんなことを考えていたら、準備が終わったカイルが構えていた。
「ふっ!!」
カイルが軽く息を吐き、先ほどより速く突っ込んできた。
今回は滑空ではなく走っている。
それでも体勢は低く、また飛燕を打つように見える。
だがオレの目の前での跳躍の角度が違った。
飛燕は下から上へ、直角に打つためほぼ直角に跳ぶ。
今回は下から斜め上、オレに正面から突っ込むように跳んでいる。
「ウラァ!!虎牙!!」
「おぉっ!!」
ソフトボールのライズボールのように目の前で浮き上がり、視覚の外から叩きつけるように右拳が飛んできた。
オレは、顔の左側で受け、ぶっ飛んで。
「いてて、やりやがったなぁ?お返しにちょっと強いの打ってやるからなぁ?」
少し怒気を込めて視線を向けると、悪魔二人が一瞬身震いしたように見えた。
オレは、それを見なかったことにして、両手を打ち、気を込める。
といってもマンガやアニメのように叫んだり、時間かけたりはしない。
要は集中力があればすぐ終わる。
「これから打つのはどんなのかわかるよな?全力で避けろよ!」
オレは、斜に構え前に突っ込む。
カイルの目の前に迫った瞬間、オレは一つの技を発動させた。
「爆拳……」
淡く光った右拳を地面に向け放った。
拳が触れた場所は爆発し、カイルとオレを吹き飛ばす。
オレは、爆風に耐え、追撃する。
飛んだ先に先回りし、飛んできたカイルの腹部を蹴り上げる。
なんか離れたところで女性の悲鳴が複数聞こえた気がしたけど、気のせいだよな?
踞っているカイルに言い放つ。
「これで終わりな!」
オレは、カイル顔面に拳を振り下ろした。
カイルは意識を手放し、完全に気絶していたのでかごに戻してやった。
「ドロシーはどうする?このままやる?」
「やらないわよ!私じゃ絶対勝てないもの!」
「でもカイルはあんなに痛い思いしたのに、ドロシーはなにもないのは不平等だよな?」
「えっ?それってどういう?」
「ドロシーには罰を与える……」
「えっ?えっ?いやよ!いやぁー!」
オレは、問答無用でかごに戻して後で罰を執行することにした。
模擬戦も終わったのでゲルトさんに聞いてみた。
「ゲルトさん!こんなもんですけどどうですか?」
「へっ?あ、あぁ、問題ない……です。少し待っててください。」
ゲルトさんはフラフラしながらギルドに戻っていった。