水晶の迷い道 5
「リタよ、ありがとう、そこまで私のことを考えて居てくれたのだな、解った、学都への入学を許可する、ただし魔法と剣術は必ず覚えなさい」
「はい!」
「確か次の入学試験は2か月後だったはずだ、それまではどうする?」
「どなたかに魔法を習うか宝石について学びたいです。あとは体力を作るために運動をします」
「宝石については私とロバーナが教えよう、体力はヘレンに聞けばいい運動が有るかもしれん、だが魔法を教えてくれそうな者となると直ぐには居らんな」
「魔法でしたら私がお教えしましょうか?」
シスターが魔法の教師役に自薦してきた。大司教という高い地位にいる人に教わっていいのだろうか、そういえば、回復魔法って持ってないけどなんでだろうか?聞いてみよう。
「シスターは回復魔法を使われていましたが、私はその魔法は持っていないですよ?」
「あら、大丈夫ですよ、回復魔法というのは、魔法の中でも体を癒すものの総称で、無魔法のヒール、風魔法のエリアリカバリー、水魔法のキュアウォーター等のことを指すんです」
「なるほど、そうだったのですね、早速勉強になりました」
それなら納得できる、それぞれ属性が違うところを見ると何かしら回復以外の効果が有るかもしれない。
「大司教様よろしいのですか?娘にはとても良い経験になりますが、お忙しいのでは?」
「大丈夫です、事務的なお仕事はしばらく増えないはずですし、今度から慈善事業で平民の方たちに、生活に便利な魔法を教えようと思っているので、そのついでと言うことに成りますが。もちろん、リタちゃんに教えるのは簡単な魔法以外もですよ」
「そうですか、それならばお願いします」
後日、場所と時間を伝えてもらうことにして、シスターにヘレンを呼んでもらい馬車の準備が整ったのでお暇した。ただ帰り際に、「また、女神さまのことを教えてくださいね」と、言っていたのでそっちの目論見もあったのだろう。
「お父様この後は、お店に行かれるのですか?」
「いや、今日は工房に行くぞ、ロバーナ親子に今日の話をして、あとは工房の者に元気な姿を見せないとな」
工房は北区の職人町にあり、基本的にはここで商品であるアクセサリーや宝石をあしらった置物等を作り、依頼されたら宝石のカッティングもしている。ロバーナ親子やその弟子たちと用心棒がここに住み込みで働いていている。さして時間はかからずに到着した
「ロバーナは居るかな?」
「旦那様、おはようございます!お嬢様、お元気になられたようでよかった!親方なら奥の部屋でミュフィーと新作のアイデアをうんうんと考えてます」
この元気なお兄さんはカリワという名前で、何人かいる弟子の中でも1,2を争う腕の持ち主で主に貴金属の加工が上手く、とても気さくで良く話してくれるいい人だ。ミュフィーはネコ系獣人の女性で、カリワと同じくらいの腕の持ち主で主に宝石の加工が上手い、ちょっと気難しいが心根はいい人だ。
お父様が奥にある部屋をノックして入ると、椅子に座って机と言うより作業台に置かれた紙を見ながら難しい顔をしている二人と、その横の作業台で座りながら、手に透明な結晶をもって何かしているルースがいた、何をやっているんだろうか?
「旦那にお嬢、いらっしゃい、お嬢は元気になったようで何よりでさぁ」
「リタ姐いらっしゃい!」
ミュフィーさんは会釈していた、ルースは元気よく立ち上がって、手に結晶を持ったまま近づいてきた。
「こんにちは、何をやっていたの?」
「水晶をスキルで磨く練習をしてたんだよ」
確かに良く見ると砕けたであろう水晶の一部が滑らかに成っている。魔法と言っていたがどんな魔法なんだろうか?
「どんな魔法なの?私にもできるかしら?」
「んーと、まずはスキルを使って割るんだけど・・・」
じっくり聞くと、この世界の宝石加工は、スキル[細工師]の付属魔法の[カット]を使いある程度の形まで切り分け、[研磨]で形を整え、[バフ]で磨き上げるといったことができる。スキルがランクアップするとより加工が難しい物を扱えるように成ったり作業が早くなったりする。しかし、難しい作業程魔力を多く消費するので一部だけ魔法を使い残りは手作業で行う人がほとんどらしい。ルースは[研磨]と[バフ]の練習中だった。そんな横でお父様とロバーナさんは仕事話をしていた。
「グスタフ、そんな難しい顔をしてどうしたんだ?」
「目新しい物を作ろうってことで、ちょっと新しいカットを考えていたんだがな」
「なぁ~かなかか良い案が出なくて困っていたんですにゃ」
「ふむ、この図面のものは少々奇抜すぎるな、だが悪くはないと思うから一度作ってみても良いんじゃないか?こういうものが将来的に受けるかもしれないからな」
「そうだな、作ってみるか。しかし、これはあくまでカッティングを変えただけだからな、何か目新しい物も考えて行かないといけないんだが・・・」
ロバーナさんがこちらをチラリと見る
「お嬢、何か良いアイデアは無いですかい?」