翡翠の守護書庫 5
「よろしければこちらを差し上げます、スノーくん?も気に入っているようですから」
「それは悪いわよ、貴重な物なんじゃないの?」
「いいえ、水晶さえあれば作ろうと思えばいくらでも作れるので、そんな大した物じゃないのですよ。でしたらこれを差し上げる代わりに、また寄らせてもらったらまたこの子を触らせてください、思ったよりいい手触りでもっと触りたいんですよ」
「はっはっはっ!そうかい、分かった、ありがたく貰っておくよ、よく見えるところに飾っておこうかしらね。ん~、それだけじゃ足りないだろうからちょっと待っててね」
一旦店に引っ込んだお姉さんと入れ替わりに走り疲れたルースがやって来た。
「お疲れさま、手ごたえはどうだった?」
「うん、どれも大丈夫だと思うけど、走るのだけはちょっと遅かった気がする、ところでそのフクロウはどうしたの?」
「構ってほしいみたいでね、暇つぶしに内彫りでこの子をモチーフに作ってまっていたのよ、もう少し構ってほしいみたいね、ルースも撫でてあげたら?魔獣だそうだから話とか分かるみたいよ」
「撫でてもいい?」
スノーはうなずいたのでOKという事だろう。硬めの質感ながら、滑らかな手触りを二人で堪能していたらお姉さんがショートケーキに似た物を持って戻って来た。
「あらあら、お連れが居たのね、まず、こっちをどうぞ、これはもちろんサービスね、君にもサービスでご注文と一緒にお出しするからそのつもりで頼んでね」
「えっと、紅茶をお願いします、でもいいんですか?」
「こっちの子から良い物貰ってね、そのお礼と、あんまり他人に寄って来ないこの子がなついてるからね」
「ルース、貰えるものはありがたく貰っておくものですよ」
「ありがとうございます、頂きます」
「子供は元気が一番だね、私の名前はキーゼ、今後とも私の店をよろしくね」
いい感じのたまり場ができた気がする、ただ、問題が有るとすればずっと右腕にスノーが止まって居るので腕がパンパンになりそうなことかな、革手袋ごと腕を机に置いても一向に降りない・・・、利き手と逆の手でケーキは食べずらい・・・
「スノー、一回降りてくれない?」
「ポォ~」
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「はあ、主席合格ですか、ありがとうございます?」
場所は入学試験用に割り振られた4人部屋の入り口で、身なりのシャキッとした中年の男の人に呼ばれて主席合格だと言われた。主席合格は凄い事かもしれないがあんまりありがたみがない。
「普通はもっと喜ぶものですが・・・ともかく、おめでとう、君には生徒議員に成る権利が与えられた、これはクランパでの都市議会への参加や学内の行事を取り仕切れるものでね、もちろんそれらに参加することで上の方々への覚えも良いから将来の事を考えれば成っておいた方がいいですよ、成りますかな?」
要は生徒会か自治会みたいなものの上位版だろう、だったら答えは一つだ。
「いいえ、遠慮しておきます」
「・・・もう一度言ってもらえるかな?そろそろ年のせいか耳が遠くなってきたようで」
「遠慮させていただきます」
眉間にしわを寄せて訳が分からないと言った顔をしている。
「理由を聞かせてもらってもいいかな?」
「単純に興味がないのと、その議員に成ることで拘束時間が増えると学びの時間が削られてしまうと思ったからです、あと、私の目指す先に権力者への覚えが良くても意味をなさないでしょうからお断りしました」
「君の目指す先とは?」
「この世にあまねく鉱物を全て集めることです、自ら手にしなければ素晴らしい物は偉い方々の元へ散ってしまいますからね、私はこの世界を渡り歩く知識と力を求めてここに来たのです」
「う~む、そうですか、わかりました。ではこの話は無かったことに成りますな、では、君に良き学びが有りますよう祈っていますよ」
にっこりとした笑顔で一礼して颯爽と去っていったが名前を聞きそびれた。学内の人ならそのうち名前を聞くことも有るだろう。
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「あの人学長だったのか、もっと賢者みたいなおじいちゃんかと思っていたから気が付かなかったな」
合格発表の翌日、場所は都市の外壁に沿った場所にある広場で行われる入学説明会だ、雑然と集まって居るだけなので正確な人数は把握できないが1000人位居るかもしれない。そんな中をルースと一緒に居いて学長のお話を聞いている。
「知り合いなの?」
「昨日、主席合格おめでとうと言われて、議員にならないか聞かれたけど断ったわ」
「うん、リタ姐が成ってもお得な事は少なそうだよね、やっぱり主席だったんだおめでとう!」
「ありがとう、と言っても大したことした覚えはないんだけどね」
ささっと学長の話は終わった、終わり際にこっちを見ていたような気がする。次は生徒議員長からあいさつと新しい生徒議員の発表があった、そして、終わり際に私の試験番号を言い、この番号の者は明日の放課後に生徒会室まで来るように言われた。めんどくさい予感しかしない、バックレちゃ駄目かな?