翡翠の守護書庫 2
「あーあー、リタちゃんリタちゃん?あんまりベタベタ触ってると防御魔法が発動するかもしれないからそろそろ離れたほうがいいわよ」
「むー、そうなんですか、この辺の細くて短い繊維状の微結晶とかもっと見たいのですけど、あ、この辺りはラベンダーが混ざっていますよ綺麗な発色ですねぇ」
「分かったわ、一旦私の部屋に行きましょう、工房も兼ねてるから素材も有るわよ、まあ工房と言うには小さいけどね」
私は振り返って諦めた顔のアーリーさんを見た。
「素材とは何でしょうか?」
「あら?聞いてないの私がここで学んでいるのは工芸でね、小物の置物なんかを作ってるんだけど、翡翠で作ったものもあるの「翡翠が有るんですね!行きます!」
食い気味に答えてアーリーさんにまた案内してもらってるのだが、ルースとアーリーさんが私の前を進みながら何か話してるが何を話してるんだろうか?小声で話してるからか聞えない。
「ルース君、アーリーちゃんて何時もあんな感じなの?」
「普段はそんなに変わらないんだけど、僕を助けた後から宝石に妙にこだわる・・・うんうん、異常に食いつく様になったんだ、きっと僕のせいだ・・・」
「そんな顔しちゃダメよ、根気よく一緒に居れば少しはまともになるはずだから。リウスは最初よりは少しはマシになったわ、それに好きなんでしょ?責任なんて感じてる暇はないわよ!」
おやおや、ルースの顔が真っ赤に成ってる、いったい何を吹き込んでいるんだろうか?情操教育に悪いことじゃなければいいのだけれど。
全く見当違いの事を考えていると寮ではない建物に付いた。
「寮ではないんですか」
「そうよ、ちょっとばかしボロイけどある程度改造しても、汚してもいいって剛毅な人が貸してくれてるのよ」
石造りのアパートで、中は確かに広くは無い。部屋は普通の広さだが、問題は置いてある石材や木材がたくさん置いてある。たくさん置いてあるが大きさが均一でない物が多いからつまり。
「これらは端材が多いですね」
「学生だからね、そんなにお金は使えないけど、多くの物に触れるには半端なのを貰って来るのが早いのよ、端材でも本当の素材だからね、ここ最近は儲けた分でちょっと高い材料を買ったりしてるわ。それでこれが翡翠ね、小さいけど数はあるわよ」
ドジャッと人頭大の革袋が机に置かれた中を見ると親指ほどから子供の拳ほどまで様々な大きさの翡翠が入っていたのだが・・・
「これは硬玉以外も混じっていますね、ルースは分かったかしら?」
「・・・分からなかった、なんでわかったの?」
「勘」
えー、という顔をされたが、本当に勘で違うのが混じっていると思った。そういえばスキル[目利き]が有ったけどこれパッシブで作用してるのかもしれない。
「良く分かったわね、硬玉や軟玉、それ以外にもあるわよ、ここからちょっと行った場所に翡翠が産出する場所が有ってね、そこはあの図書館の建材となった翡翠を掘り出した場所なんだけど、近くの川から学都に向かって下ってくるみたいで、ここの近くの川でこれらが採れるのよ」
「なるほど、アーリーさん私が選別してみてもいいですが?」
「そうね、もうちょっとリウスが解放されるまで時間がかかるだろうし3人でやりましょうか、ちょっとした勝負ね」
「「はい!」」
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「勝者リタちゃん!」
アーリーさんに右手をとって高く上げられ勝利者宣言をされた。富山のヒスイ海岸で延々探し続けて鍛えた私の目はまだ衰えていなかった。懐かしいな、最初の頃は一つも分からなくて学芸員の人に見て貰ったら全部違うと言われ続けたっけな。
「ふっふっふ、ルースも精進なさい」
「この辺も本物とそれ以外を実際見る事で目が養われていくからね、ルース君頑張ってね」
「ぐぬぬ、頑張る」
ルースは分かりやすい微結晶が見える物は分かったようだが、 軟玉や曹長岩等の似ている物に惑わされたようだった、一瞬で見分けるには経験の差が出てくるから仕方ないだろう。
また、翡翠の見分け方は、海岸や川で削られた物は他の鉱物は丸くなるが翡翠は硬いので角ばっていてつるつるしている事が多い、緑色の物より白色がの方が多いので色で判断しない、微結晶でキラキラしている物もあるが削れて分からなくなっている物も多い、微結晶の繊維組織の交わる角度が、硬玉が87度、軟玉が124度で交わっている等が有る。
アーリーさんにお茶を入れてもらいながら、見分け方をルースに教えていると玄関がノックされた、アーリーさんが確認しに行く前に慌てているお兄様の声がした。
「アーリー、妹が来たみたいなんだ、一緒に探してくれないか!」
「リウス、落ち着きなさい、リタちゃんならここにいるわよ」
「ほんとか!」
ガチャッと音がして扉が開いた、さっき鍵締めなかったっけ?
「リタ、ルース!道中何もなかったかい?山賊がまた活動しはじめる時期だから心配で心配で」
「山賊はリタ姐がやっつけたから大丈夫だよ」
ルースそんなお兄様を興奮させるようなこと言っちゃ駄目ぇ!
「本当かい!父からの手紙で商隊に冒険者も付けるしリタが魔法を覚えて強くなったとは聞いていたけど、そうかそうか、やっぱり自慢の妹だ、思えば昔から聡い子だったし魔法の才もあったのか、そういえばあのときも・・・・」
お兄様の妹自慢タイムの始まりだった。