翡翠の守護書庫 1
学都クランパに到着し、送ってもらった商隊の人たちにお礼を言って一旦別れた。カールさんたち商人はこの試験から入学までの人の集まる時期にはお祭りにも似た雰囲気になるそうで、財布のひもが緩くなるのを狙って商売しにくると言っていた。確かに人は多いがピリピリした雰囲気は無い、祭りの前の雰囲気に似ている。
「もっとピリピリしてると思ったけどそんな雰囲気はまったくないね」
「そうでだね、殆どが入学できるからあんまり気を張らないのかな?」
「そうね、こんな雰囲気の中なら緊張しなくて済みそうだわ、お兄様は何処に居るのかしら?」
試験の日まではまだ2日有るのでお兄様に会いに行こうとしたのだが、寮の管理人さんに聞くと朝から出かけているらしい。行きそうな場所を教えて貰らったが何処にも居なかった。
「リウス兄なら門のところで待ち構えてると思ったのになぁ~」
「お兄様ならあり得そうね」
二人して笑い合っていると女性が話掛けてきた。
「貴方たちリウスの知り合い?」
「私の兄ですが、もしかしてアーリーさんですか?」
「ええそうよ、やっぱりリウスの妹さんだったのね、それでこっちの子がルースくんね、話は聞いているわよ。初めまして、アーリー=クウラよ、よろしくね」
快活そうでな人だ、一体どんな話を聞いているのだろうか、兄バカな話じゃなければ良いのだが・・・
「お兄様が何時もお世話に成っています。その、お兄様を探しているのですが何所に居るかご存じ有りませんか?」
「あ~、リウスはね、ちょっと呼び出し食らっちゃって今はお説教食らってるんじゃないかしらね」
「何かやらかしたんですか!?」
「やらかしたというか、講義にも出ずにここ3日間ずっと東門であなたたちを待ってたらしくてね、テコでも動かなかったから強制的に連行されていったわ」
「やっぱり門で待ってたんですね・・・」
予想はおおむね当たっていたようで、ルースもあきれた顔をしている。
「あいつは妹、あなたの事となると熱くなりすぎるのよね、困ったもんだわ」
「そろそろ妹離れしてもいいと思うのですけどね、恋人の一人でもできればいいんですけど、アーリーさんから見てどうですか?」
「そ、そうねぇ悪い人じゃないんだけど、こ、恋人とかは聞かないかなぁ」
すっごく分かりやすい反応だ、お兄様はやっぱり鈍感系男子だったか。いい加減妹離れして欲しいのは本当なのでアーリーさんとくっつけば多少マシになるかもしれない。取り敢えず簡単な助言でもしておこう。
「そうですか、お兄様は鈍いところが有るので、はっきり言わないと相手の気持ちに気付かないでしょうね。ルースどうしたの?」
「何でもないよ」
微妙な顔をしていたが何だったのだろうか?アーリーさんは何か考えている、今後のお兄様攻略の方法を試案していたが考えを切り上げたのか口を開いた。
「そうね、リウスが好きな子が居たら教えておくわ、それであなたたちはこの後どうする?用事が無ければ軽く案内できるんだけど」
「用事はないのでお願いします、ルースも問題ないよね?」
「僕も大丈夫、何所を案内してくれるんですか?」
「そうね、料理がおいしいお店とかは追々教えるとして、やっぱりあそこかな?早速行きましょうか」
道中にある良く行くお店を教えてもらいながらそこに到着した。
透明感のある白に所々鮮やかな緑が混じった壁に囲まれている同じ材質で出来た大きな建物に付いた。周りの建物からはある程度離れて建てられていてまるで城壁に囲まれている様だ。
「これは・・・もしかして翡翠?」
「やっぱり翡翠よね・・・これ全部が・・・」
「驚いてくれたようでなにより、この学都クランパ名物の翡翠図書館よ、昔の賢人が書籍を守るために建設したと言われていて、建材はもちろん翡翠でさらに防御系の魔法が張り巡らされていてドラゴンのブレスをも防ぐと言われているけど、ホントかどうかは分からないけれどね」
「なるほど、確かに翡翠は堅牢ですからね」
翡翠と呼ばれる物は軟玉と硬玉に分かれおり、どちらも微細な針や繊維状の結晶の集合体だが、前者は緑閃石等が、後者はヒスイ輝石の集合体である。この壁は硬玉製のようで硬玉はモース硬度が6.5から7で水晶と近いが、その靭性は元からヒビが入って無ければハンマーで叩いてもなかなか割れない宝石として扱われる物の中で1番堅い。ちなみにダイヤモンドと水晶の靭性は同じくらいでハンマーで叩けば簡単に割れる。また一番割れにくい鉱物はカルボナードというダイヤモンドの微細結晶が集まった物だ。
翡翠というと緑色を連想しがちだが結晶そのものは無色透明で結晶の集まりだから基本的な色は白色だ。これに、微量の鉄やクロムがヒスイ輝石の成分アルミニウムと置き換わり緑色に成る。他のにも紫や橙色などにもなり置換される金属イオンによって変わってくる。
うんちくはさておき、私は鼻の穴を膨らませて興奮していた!
「素晴らしい建築物です!この磨き上げられてつるつるとした表面に細かい結晶がきらきらと光を反射してなんて美しいんでしょうか!この冷やりとしている手触りはまさしく翡翠、実に素晴らしい!」
壁に頬擦りしたくなるのを必死に押せえ手で撫で繰り回すだけにしたが、ほかの二名は完全に引いてる。
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