水晶の迷い道 11
土から円柱を引き出すにはどうすればいいのか、色々試した結果、いくつかの問題点が出てきた。
まず、魔法で土をいじった場合は土の成分が均一化されてしまう、石などが混じっていた場合は、粉砕されて土や砂に成ってしまった。これでは引き出す意味が無い。
次に、元となった魔法から掛け離れるほどの必要な魔力が増大していき30cmほど無理矢理引き出した結果50も魔力が使われていた。これでは効率が悪すぎて使い物に成らない。
あと、問題では無いが魔力で固定化した土はしばらくは持つが魔力を維持しなければ崩れてしまう、そこで固めようとイメージすると土が締まって固まった。これは使えそうだなので覚えておこう。
問題は聞き出し方念力みたいな魔法が無いか聞いてみる事にした。
「クリューデさん、何か物を動かす魔法は有りませんか?」
「動かす魔法ですか?風属性で[ライドウィンド]や水属性の[ウォータープル]と言う物が有りますね、どちらも力は余り無いですがある程度のものなら浮かべたり動かせたりします」
「そのウォータープルと言う魔法を教えて下さい。」
直ぐにウォータープルを覚えて再度チャレンジする。
まずはアースウォールで引き出したい10cmの円の外側を1m分を固めてちょっとだけ隙間を空けて、ウォータープルで底から押し上げる様に引き抜く!
「よし!」
10cmの円柱が引き抜けて、しっかりと土の層が見て取れる。ボーリング試験もどきが出来た事は凄く嬉しい、将来絶対にやる坑道堀りが捗る。ここは土と砂の土壌だから上手くいったがこれが岩石だった場合はもう少し工夫が必要かもしれない。もう少し改良しよう。
工房にいき、お父様やロバーナさんに宝石の知識や加工の技術を学び、クリューデさんに魔法を習い、家ではヘレンさんの運動メニューをこなしていたらあっという間に2ヶ月たち、今日、学都へ入学の試験を受けるために出発した。
その合間には内彫刻が爆発的に売れて工房が一時期ほぼそれしか作らなく成ってしまったり、お兄様から内彫刻の追加を大至急送るよう頼まれたり、うっかりクリューデさんの神様の話に日暮れまで付き合わされたり、冒険者の人たちに魔法のコツを教えたら仲間に仲間に成って下さいと誘われたり、妙に体の調子が悪いと思ったらあの日が始まったりしたが、些細なことなので置いておこう。
屋敷や工房、協会や冒険者の人たちに見送られながら王都を離れていった。
移動は乗り合い馬車も有るが、お父様から信頼の置ける商隊と一緒に行った方が安全と言われたので商隊の馬車に乗らせて貰っている。
「改めて、よろしくお願いします、カーターさん」
「よろしくお願いします」
出発前にあいさつしたが知り合いに手を振っていて、その人たちが見えなくなったから、改めて言っておく。私たちを乗せてくれている商隊の隊長のカーターさんだ、お父様達とは冒険者時代に護衛をしてもらったことで知り合い、その後は商品のやり取りをしたり、お父様の店の商品を遠い地で売ったりもしている。
「なーに、あいつらの娘と息子だからな、わしからすれば孫みたいなもんだ、お安い御用だ」
私とカールの頭を撫でながら笑いながら答えてくれた。カーターさんはもう60後半というのに若々しいというか、とても元気だ。
「もういいお年のはずですが、こういう馬車の移動はつらくはないですか?確かどこかの都市にお店を持たれていると聞いていましたが」
「店の方は息子に任せたからからな、問題ないだろう。むしろ今の方が店にずっといるよりも刺激が多くてなずっと若い気持ちでいられる」
「そうでしたか、お元気な理由が良く分かりました」
「カーター爺はもうちょっと落ち着いてもいいと思う」
最後のはルースの言葉だ、工房の方には良く来ていたようで良く知った仲のようだった。
「年を取ればとるほど刺激が欲しくなる、そのうちお主にもわかる日が来るぞ、こうやって幾度となく行き来した道でも通るたびに違う発見が有るし、ちょっとした変化に気付くこともできるようになる。例えば、そうだな・・・」
手招きれ、御者台の横から3人で外を見渡す。道は森を大きく迂回しているので先は見えない、森と小高い丘が遠くに見えるくらいだがカールさんには違うものが見えるようだ。
「明後日位に山賊の襲撃が有るな」
「分かるんですか!」
「森の奥に光る物が見えてな、あの光り方は望遠鏡だ。そこに居るのが何人か分からないがこの護衛で固めた商隊を襲うのには人が足りないだろう。まずはこっちの規模を把握してからアジトに戻って他の仲間と襲うかどうか判断してるんだろうが、まず襲ってくるな、ここ最近はこの辺りの山賊が大きく動いたとは聞いてないからそろそろガッツリ奪いたい頃だろうからな」
今の商隊の構成は馬車が5台、内2台分は別の商人の馬車でこちらに護衛代を払って一緒に付いてくる、これに騎乗した護衛が6人と馬車で待機している3人にさらに追加で冒険者8人を雇っている。普通なら採算に合わない量だが、冒険者はお父様が雇ってくれたのである、女神の加護が有るから必要ないが、それがばれない様にするためだろう。
ちょっとやそっとの量の山賊ならまず問題は無い、というかまず襲ってこないと言っていたが今回は襲う可能性が高い様だ、きっと何か感じる物が有るのだろう。
初日は問題なく進み、予定通りの場所でキャンプをした、二日目は途中の町に入りそこで一晩過ごした。
町から出発してからは護衛の方が警戒を強くしている、聞くとカールさんは何度も襲撃を当ててきたそうだ。
「とうとう襲撃が有ると予測した日ですがどのあたりで来るでしょうか?」
「この先に見通しの悪い山道が有るからおそらくそこだろうな、護衛の者たちには伝えてあるから大丈夫だ、すぐに片が付く、こ奴らはこれでも手練れだからな」
「これでもは無いですぜ大旦那」
商隊の護衛隊長が口をはさんできたが、鼻で笑ってからカールさんが答える。
「言われたくなかったらもっと精進する事だ、ほれ、そろそろ見通しが悪くなるぞ、冒険者との連携に気を付けろよ、あとは余裕が有ればわかっているな」
「大丈夫です、昨日も冒険者含めて話会いましたからね」
「飲み会の間違いだろうが、まったく、!!」
その時前方を走っていた馬車と護衛が急に停止して笛の音が鳴り響いた。笛の音の意味はもちろん敵襲だ。前方と両側面の3面から襲って来ていて、それぞれ6人ほど居る、それらとは別の位置に弓矢をつがえる姿も見える。
すぐさま馬車をサイコロの5の形に停車させなるべくかたまって守りやすくして、すぐさま護衛と冒険者が弓矢を魔法で防ぎつつ射手をつぶしていく。私たちは真ん中の馬車で待機してるのだが、カールさんは天井の扉から身を乗り出して周囲のを伺っている、指示を出している訳ではなくただ観察しているように見える。そして
「新手が来るぞ!後ろだ!」
しかし、その声は遅かった。既に前面寄りに集中してしまった戦力が敵にマークされてしまい後ろに割く戦力は後方に居た魔法使いくらいしかいないがその魔法使いも飛んでくる矢を防ぐのに忙しくこちらに手を回せない。
「何所に潜んでいたのですかね、ここは私が相手をしますよ」
加護が有るから余裕をもって対応できる。スススっとカールさんの居る天井まで登り、私も身を乗り出した。
「な、なにやってんだ、すぐに戻」
お叱りが飛ぶ前に速攻で魔法を展開する
「[アースストーム]・・・発射!」
魔法を展開し馬車の後方半分を高さ2mの土壁で半円状に覆い、数秒の時間を置いて土弾を発射する。時間を置いたのは近づいてくるのを待つためだ、この手の土壁を用意すると魔量を消耗させようと軽く攻撃してくるため、魔法使い以外はホイホイ近付いてくる。そこにドン!だ。およそ80発の弾は硬質化させずに打ち出すためよっぽど運が悪ければ死なないだろう。
「どうでしょうか?」
「あ~、娘が手元から離れたのにあんまり心配してなかった理由が良く分かった」
「取り敢えず動けそうな人は居ないみたいですね、動いたら直ぐに打ち込むので前方に集中してください、必要ならばもう一回[アースストーム]を撃つのでその時は行ってください。」
「は~・・・まったくとんでもない」
「こっちは大丈夫です、もう片付きました」
隊長がこちらに走って来た、見ると確かに全員打倒している、さすがプロ仕事が早い。
「すごいですねもう終わったのですか?」
「お嬢ちゃんがとんでもないことしてくれたおかげで山賊の連中がポカンとしててな、その隙にパパッと終わらせれたんだ」
この後は生きている山賊を縛ってここまで乗って来たであろう馬が居たので、その馬に山賊を載せて連行した。次の大きめの町で憲兵に引き渡すそうな、そしてこの人たちは殆ど鉱山送りになるとの事、しっかり鉱物を掘り出してくれたまえ。
しばらくの休憩の際にあの魔法は何なのか聞かれたからしっかりと答えておいた、アースウォールとアースショットの複合魔法だと、王都での魔法の練習の際に一つに纏めれないか試した結果生まれて、魔力の波長がどちらとも違うものとなり、殆ど新しい魔法に成っていた。
展開速度が早く至近距離でも使えるから相手に逃げ場は無い。ただし、防御力が弱くなり土弾の射程範囲が短くなっている。
このあとは特に問題もなく進み、休憩に入るたびに私が魔法を教えながら冒険譚などを聞かせてもらった。魔法にかんしては使用魔力量は大したことないし初級魔法なので覚えるのも早かった。
そんなことをしながらもう2日間進みとうとう学都が見えてきた。
水晶の迷い道 完




