水晶の迷い道 10
お兄様は「もう一日だけ!もう一日だけだから!」と、絶対に一日許すと何日もずるずると居残ることに成る懇願をしたのでヘレンさんが強制的に連行していった。お父様の知り合いの商隊と一緒に乗って来た馬で学都へ帰るそうな。
そんなの兄様と入れ替わりで帰って来たのが執事のマルクスだった。
「マルクス!お帰りなさい、今まで何所に居たの!」
「お嬢様、お元気に成られて良うございました、ここしばらく旦那様の代わりに商談のために王都外へ出て居まして、ようやく帰ってこれたしだいです」
「マルクス、#商談__・・__#の方はどうだった?」
「商談の方は#問題なく__・・・・__#纏まりました、詳細は後程お伝えします」
なにか含みのある言い方だったが何かな?きっと今回の私の事故の事だろうが、マルクスは柔和な笑みを浮かべている事と言い方からして大丈夫だったに違いない。
「それと、お嬢様に教会からのお手紙を預かっております」
受け取って読むと魔法練習会の案内だった、明後日から数日置きに違う場所で開催するらしい。子供以外にも大人の参加も鑑みている様で仕事がない日に参加してもらう為だろう。最初の場所は西区にある教会横の広場だ、教会はこの広い王都には区画ごとに1つはあるのでそれぞれの教会横や広場で行うのだろう。
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2日後
教会横の大きめの広場に何十人もいる、100人は居るんじゃないだろうか?小さい子供から大人や冒険者と思える人までいる、教会側の端に置かれたちょっとしたお立ち台にクリューデさんが上がっている。
「お集りの皆様、おはようございます、本日は皆様に簡単な魔法をお覚えていただきたいと思っています。主に生活で役立つ魔法に成ります。また、小さい子供には扱いによっては危険な魔法もありますので無級の水属性のみとさせていただきます。また、冒険者の皆様も居るようですので希望者には戦闘系の魔法も教えさせてもらいます」
諸々の説明が終わると覚えたい属性ごとに得意なシスターが居るのでそれぞれに分かれていった、火と水属性が多く光と闇属性はかなり少ない、生活に役立つ闇属性の魔法ってあるのだろうか?
私とルースは複数の冒険者の方といる、みなさん駆け出しの様で無料で魔法を教えてくれるということで来たそうだ。そんな私たちを教えてくれるのはクリューデさん自らだ。
「ではここに居る皆様には戦闘系魔法を教えさせていただきます、まずは回復魔法から教えていきますが、皆さま特異な魔法属性は何でしょうか?」
各々が、得意な属性や使える属性を答える、全く魔法が使えない人はいったん覚えたい属性の担当シスターに無級から教えに貰いに行った。私は全属性使えるが、土属性のみ中級なのでそれで答えて、ルースはロバーナさんから教えてもらっていたそうで水属性が少し使えるようだ。また、攻撃魔法でないことに文句を言う者は居なかった、回復できなくて困った経験が有るのだろう。
まずは回復の基本に成る無属性のヒールを教えてもらった、魔法陣などは必要ではなく治るイメージを持ちながら魔力を練って[ヒール]と唱えると簡単に成功した。
魔力はの練り方はクリューデさんに手を取ってもらい、そこで魔力を練って感覚的に教えてもらった。スキルの魔法と違って魔力を練って波長?みたいなものを変えてそれぞれの魔法に使う様だ、完全に波長を合わせると最低限の魔力で最大限の効果が得られるらしい。
今回は隣の人に[ヒール]を使用したのだが傷が有るわけでもないので取り敢えず血行を良くなるように使ってみたところ、体が暖かくなって、肩が軽くなったと言っていた。失敗しても爆発するわけでもないのでみんなはいろんな人に使いあったが私の魔法が一番効くらしい、きっとイメージの差だろう。
そのあと魔力を回復するため休憩をしている間にそれぞれの属性に対応する魔法や注意事項を教えてもらった。たとえば木属性の回復魔法は周囲の植物から少しずつ魔力を分けてもらう魔力回復系だったが植物が少なかったり弱っていたりすると逆に魔力が減ったりする、逆に魔力が濃すぎるとうまく調整しなければ回復しすぎて体調を崩すという。
私は土属性の[アースヒーリング]という大地から魔力をもらい複数人を同時にゆっくりと傷と疲れを癒す魔法を、ルースは水属性の「キュアウォーター」という回復と弱い解毒効果のある水を生み出す魔法を覚えた。
ある程度それぞれの属性の回復魔法を使えるようになってから次のステップの攻撃と防御の魔法に入った。習い方は回復魔法と同じでイメージをもって波長を合わせる。私は[アースショット]と[アースウォール]を習った、名前のまんま土を撃ちだすのと土で壁を作る魔法だ、[アースショット]を広場奥の土の小山の手前に置かれた的に当てようと頑張っては居るがなかなか難しい、あと使ってみて気が付いたがこの魔法は土を生み出すのではなく地面から土を引っ張ってきて空中で固めて飛ばしている、[アースウォール]も某錬金術師のように質量保存の法則を守って周囲から土を集めている。この土壁1×1mの壁を魔力で維持していて、その間はそこそこの硬さを持っているが維持を止めると一気にもろくなり触っただけでぼろぼろ崩れていく、維持に使っていた魔力はほとんど戻ってくる様だった。
「[アースウォール]の使用魔力量はざっと20ほどで大きさや距離によって変わる、[アースショット]は一発2ほどで弾速は多少変えられるが魔力の消費量は変わらないっと、あとはこの二つの魔法は魔力の波長がちょっと違うだけでほとんど同じなのね、ん~・・・」
ふと思った事をやってみる事にした、的に向けて目の前に[アースウォール]で土壁を出して維持に使われている魔力を[アースショット]に合わせる、維持に回している魔力が大きいので複数の[アースショット]ができそうなので10発分に分割する。
「発射!!」
ドン!と重たい音の後に土壁から10発の土弾が射出された、土壁は殆どが弾の材料に成ったので直ぐに崩れ去る。飛んで行った弾は的を粉砕してその後ろの小山を削って土煙を上げている。
「・・・」
学生時代に同じ寮だった武器オタクからメタルストームという兵器を教えられていて、それをイメージした結果がこれだ、一発じゃなく複数を同時発射すればいいじゃないという大雑把なアイデアだが、ある人も言っていた、点ではなく面で攻撃しろと。
問題は壁が大きいと視界がふさがるから動いている目標には使えない、相手の攻撃を壁で防いだ瞬間に使えば至近距離で食らわせれるので反応装甲に近いかもしれない。
「なかなかの威力ですね☆」
茶目っ気たっぷりに言いつつ振り返るとキラッキラした目で見てくるルースと冒険者たち、「あらあら」と言いそうな感じで見ているクリューデさんが居た。
冒険者の人にどうやったのか聞かれたので、やり方を答えて土属性の得意な冒険者の方に再現してもらったが土壁からはポシュっという音が出て直ぐに落ちる土弾が出るだけだった。
聞いてみると土壁の維持に使った魔力を練ったが上手く行かなったらしい。多分、私が中級だから出来たのだろうから下手なこと言わないでおこう。
「冒険者の皆様、小さい女の子に負けている場合では有りませんよ、多少の資質の差はあれどもしっかりと練習すれゆっくりとでも強く成れるのですから」
クリューデさんのかけ声と共に冒険者の人たちは慌てて練習に戻った。
残ったルースにすごいすごいと言われながら、この新しい魔法の欠点を話してから、多分水属性でも同じ事ができると言うと直ぐに練習し始めた。
「割とイメージ次第で何とか成る見たいだからもしかしたらあれが出来るかもしれない」
[アースウォール]を直径10cmほどの円をイメージして垂直に土を抜きなが出てくるように使ってみるが失敗、多分発動そのものは上手くいったけど、空気圧の影響で抜けなかったんだろう。某プリンを逆さにしてもプッチンしないと出てこないと言ったらわかるだろうか?
「どうしたものかしらね」




