水晶の迷い道 1
水晶、それは鉱物を集めるミネラルハンターにとって始まりの宝石といっていい程の知名度と多様性を持つ自然界からの贈り物である、私こと#碑乃本鉱観__ひのもと こうみ__#は、母方のじい様から託された山にある2代続けて掘り進んだ坑道を更に掘り進んで水晶を探しております。
何故2代か、じい様からなら3代のはずでは?と思われたかと思いますが自分の父と母はこの趣味に理解を示してくれなかったのでじい様から同じ趣味を持つ自分が引き継ぐことに成ったのです。
じい様は40歳の頃バブルが起こり大金を手にした時にこの山を買い獲り麓に家を建てました、定年までは少しづつ、定年後はガッツリと当時高価だった手持ちの掘削機を購入して掘り進んでいたそうです。
ばあ様は無くなる前まで「あんひとは石に魅入られとる、けど家族は愛しとった、あんたも石を愛してもいいいから家族を愛しなさい」と自分に言い聞かせてくれていた。自分も家庭を持ったら大事にしていきたいが30手前で残念ながらそういった人はいない・・・まず自分が鉱物採集に行く場所に若い女の子は居ないのよね(泣)居る場所には居るかもしれないが自分は知らない、誰か教えてほしい。
・・・気を取り直して、何だかんだでおじいちゃん子だった自分が家と山を相続し水晶の坑道も一緒に受け継いだ。
坑道は幾つか分岐きているが一応山の敷地内に収まるように成っていてその中で水晶脈を探しつつ崩れないように掘り進んでいる。坑道内は空気の循環が滞るので入り口に設置してあるポンプで空気を送り込んでいるので酸欠になる心配は無い、ガス感知器も装備し、坑道内は補強を入れそうそう崩れないはず、そんな中ネコ(手押し車)を押し今日何度目かの往復作業を進める。掘れば目的以外の物が出る、そうした岩や土塊を運びだす作業が必要になってくる、その為掘っては運びを繰り返す。
ここ最近は細い脈しか出ておらず大きな脈やガマに当たらない。脈とは鉱物が集まった部分で帯状に広がり、その中にできた空洞がガマと呼ばれる、石英脈なら石英の元の二酸化珪素が解けだした熱水が岩の隙間に入り込みゆっくりと冷えていくと水晶が形成されていく、その中で形成しきらず残った空間がガマと言われ水晶がビッシリ付いた群晶ができる。あくまで自分の調べた範囲で簡単に説明したものなので間違いが有るかもしれないがおおざっぱにはこんなものだろう。
「そろそろ大きい脈に当たらないかな~」
一人で居る時間が長いと独り言が増えてしまうのが難点かもしれない、なんだかんだ言いながら今掘り進んでいる場所までたどり着き、ヘッドライトで照らした場所を掘削器で掘り進める、脈もないのでガンガン掘り進めていくと・・・
「やべ!!」
掘っていた周辺が崩れだし、部分崩落が起きたのかと思い工具を投げ出して逃げ出そうとするが、すぐに収まった。するとヘッドライト以外の光源が有ることに気が付いた、掘り進めた先に明かり、つまり山の外につながったことに成るが・・・
「山の中腹は過ぎてるけどまだ外に通じる場所なんか無いはずだけど・・・掘る方向が大きくずれてるのか?」
坑道の地図はじい様から受け継いで途中からは自分で書き足した物できちんと測量したわけでないから誤差はあるだろうがそれでも外に繋がるはずがない。開いた場所から外に出ると・・・
「何所ここ!?」
まるでジャングルのような鬱蒼とした森が広がっていた、ギャアギャアという鳥の鳴き声が聞こえて来るし、きっと夢だな、うん
頬っぺたをつねり痛みを感じながらゆめゆめと自己暗示を繰り返したが、急に意識が遠くなる。
ここで碑乃本鉱観の人生は幕を閉じた・・・
「申し訳ありません」「すまんのう」
二重の謝罪が聞こえてきて意識を取り戻す、まっしらけな空間に決して華美では無く上品で美しい宝石をちりばめた金銀細工の宝飾品を身に付けた綺麗な女性と髭モジャの背は低いが筋骨隆々としたおっさん?が居た。
「美しい」(宝飾品が)
「え?ありがとうございます」
(あ、なんか違う解釈された気がする、気付かれる前に誤魔化そう)
「え~と、ここは?あなた方はいったい?自分はいったいどうなっているんですか?」
視線は動かせるが手足がうごかせない
こほんと咳払いしつつ女性が答える
「私は女神アルフェンフリーデ、こちらの世界の主神をしております、こちらは地神デーガンケ、主に大地の有る場所を管理しています、それでここは神域であなたは魂だけの存在に成っています、申し訳ありませんがこちらの管理不足であなたは魔素中毒で亡くなってしまいました」
「魔素中毒?」
「詳しく説明しますと、あなたが掘っていた穴が偶然こちらに通じる次元の穴と合わさってしまい、こちらの世界にあなたが来てしまいました。こちらの世界に満ちる魔素と呼ばれる物は通常こちらに生きる生物には影響がないのですが、あなた方の居た世界には存在しない物でこの魔素を耐性のない生物が取り込むとぽっくり死んでしまうのです」
「やっぱり死んでたのか・・・」
(まあ最後に見たこともない美しい宝石を見れたからよしとするか、首飾りのは何だろう?拳程の大きさで正八面体に見えるけど・・・)
「本当にすまんのう、まさかあんな場所まで堀り進めておる者が居るとは思わなくてのう」
「え?あ、あんな場所とは?」
(宝石に見惚れてしまってた話に集中しよう、終わったらまたじっくり見るけど)
「鉱物をほぼ掘りつくした上にまったく関係ない場所を掘っておった様じゃからのう」
「あー・・・もう採りつくしてしまったのか、てかまったく関係ない場所掘ってたのかい!」
手足があればorzの姿勢で拳を地面に叩きつけていただろう。
「それでじゃ、そんなところまで人が来るとは思わんでの、別の空間の補修を優先しておったら今回の事態に成ってしまったのじゃ」
「今回はこちらのミスなのであなたを復活させようと思うのですが・・・」
「お!蘇らせてくれるのですか?」
そう言ったら二人が目線をそらした
「え~と申し上げにくいのですがあなたの体はちょっと魔獣に食べられてしまい骨だけに成っていまして、魔素だけなら取り除けたのですが発見が遅れてしまい・・・そちらの世界の神々とも協議したのですが魔力が無い世界だと肉体復活は聖人クラスじゃなければ肉体の再生は耐えられないそうでして、見てくれは何とか直して有るんですが、一つも動かせない人形の様な物しかできなかったんです。」
「つまり元の体はもう無いも同然と、ではどうするのですか?」
(美しい宝石を見れたけど何か要求できるならしておこう、貰える物は貰う主義だからね!)
「あなたにはこちらで転生をして頂こうかと考えています、記憶を持ったまま新しい肉体に生まれ変わることです、もちろんある程度高い能力も付加させて頂だきます」
「一つ質問です」
「な、何でしょうか?」
「そちらの世界に鉱石や鉱物、宝石の類はありますか?」
「は?はあ、有りますこの私の身に着けている物はだいぶ古いですが過去に供物として捧げられたものです」
「ならお願いします」
「いいんですか?もうちょっとこう聞くことが有るんじゃないですか、どんな世界なのかとか転生先はどうなるのかとか」
「異世界にも鉱物が有るなら探し見つけ集めなければ成りません、それが私の人生です死んででも生まれ変わっても変わりません!それにそんな美しい物を見せ付けられたら欲しくなるのは当たり前です」
「美しい物?・・・」
「分かりました、転生先の希望など有りますか?こちらはそちらで言うところのファンタジーな世界で様々な種族、魔物が存在します、宝石や鉱物関連ならメタルイーター系の魔物やドラゴンが居ますがオススメしません。やはり人種がオススメですね」
「魔物と言われるのが居るようですけど自分は生きて行けるのでしょうか?安全安心な日本育ちだから戦闘とか厳しいですよ、さすがに危険な中で鉱物採集は・・・それなら強い人外でもいいかな」
「大丈夫です、スキルや魔法、言語理解等を付けますし鑑定スキルもあるんで役立つとはずです」
「ワシから補足じゃが、魔物は魔素を多く取り込む生物の総称じゃが、まあ人に害をなすののが魔獣じゃの、メタルイーターは名前の通り金属を食らう者の総称じゃの線虫からトカゲまで様々な種類がおってドワーフにとってはある意味天敵じゃ、ドラゴンは魔物というには理性的で話し合いに応じることもあるのでの魔物というより神獣等として考えられておる、前者は生きるために食らうしかなく、後者は宝石等を集めるが繊細さが欠けおって力が強いからちょっとした鉱石なんぞはすぐに粉砕してしまうの、人種ならエルフやドワーフ等も居るが平均的な人間がオススメじゃの」
「そうですか、食べるだけも破壊しちゃうのも嫌なので人間でお願いします。」
「分かりました、では今から転生先を探しますので少し待っていて下さい。」
そういうと女神様の手元に本が現れぺらぺらとめくっていく。
「その本は?」
「魂の定着していない体のリストです基本的にまだ生まれてない胎児がほとんですが、中には魂だけが抜けてしまった者もいるのです・・・あら、この子なんかどうでしょうか。宝石商の子供で今年10歳に成ったのですが、数日前に暴れて走ってきた馬から幼馴染を助けた時に代わりに頭を蹴られ、その恐怖による精神的ショックと怪我が原因で魂が抜けたようです、回復魔法で命は取留めましたが魂はすでにこちらに来てしまったようです」
「一応聞いておきますがその子の魂を元に戻すことは・・・」
「残念ですが既に魂が一部崩れてしまってます、これでは元に戻しても廃人に成ってしまうでしょう、ただ・・・」
「ただ?」
「この子の魂をあなたの魂に取り込むことで記憶や感情をある程度受け継ぐことができます。初めは違和感が有るかもしれませんが時がたつにつれ違和感もなくなり完全に一つの魂として成長していきます」
(ん~・・・子供も可哀想だし記憶が有れば違和感なく過ごせるかな?赤ちゃんからスタートだと辛そうだし)
「その子の魂と会話はできますか?」
「会話はできませんがある程度意思疎通ができるはずです、呼び出しますか?」
「お願いします」
女神様が本に手を置き何かを唱えると弱い光を放つ光の塊が出てきた。あれが魂だろう、自分も見た目はあんな感じなのかな?
スーっと光が近付いてきて近くで止まる。
「こんにちは、これから君の体を使わせてもらおうと思うんだけども来るかい?君一人だともう体を動かせないみたいなんだけど」
はたから聞くと悪役が体の自由を奪ってるみたいだ・・・この子の魂が上下に激しく揺れてる、OKって事だろうか?
「女神さまこれは?」
「この子はもうほとんど考えれないはずですが親にまた会えると感じて喜んでいるようです」
微笑みながら答えてくれた。
「決まったようじゃの、そうじゃお前さんの迷い込んだ次元の穴は塞いで元の体は坑道の中にあるが向こうの神に頼んで早く見つかるようにしてもらってあるが何か他に気に成ることは有るかの?ある程度叶える様には頼んでみるでの、なんでも言ってくれ」
「ん~崩落や滑落で死んでもいいように遺言はしたためてあるし、父と母ももう亡くなって居ない、恋人もいない・・・あ!PCだけ吹っ飛ばすことできますか?」
男たるもの見られたくないデータの一つや二つ存在する
「PCがちゅうとあの箱かの、分かった掛け合っておくぞい」
鉱物は遺言に欲しい人に配分するよう書いてあるし持ってこれないだろうから諦めよう。諦めて異世界でもっと集めてやる。PCさえなければ後顧の憂い無く異世界に行ける。
「お願いします、他には特にないのでもう大丈夫です」
女神様はうなずくと本に手を置きまた何かをつぶやき本から光が放たれる
「それでは今からあなたとその子の魂を体に送ります、送った際に魂が融合されますのでそれが済み次第スキルや魔法を付与していきます。それでは新たな人生を楽しんで下さい、それと目が覚めてから近くに暴れた馬に乗っていたシスターが居るはずですのでその者は深く悔いているので許してあげてください」
目の前が真っ白になり何も見えなくなる際に女神さまは微笑みながら手を振って送ってくれた、地神様は何か唸っているように見えたが気のせいだろう。
「行きましたの」
「ええ、もっとこう怒鳴られるかと思いましたがまったく動じていませんでしたね」
「あやつの鉱物に対する熱意は死んだことなどどうでもよくなる程なのですな、ところで気に成ったことが有るのでですじゃがリストを見せてもらえませんかの」
「?、よいのですがどうかしましたか?気になることでも?」
「いつも些細なミスをなさるのに今回はまったくなかったからおかしいと思いましての」
女神は失礼なと思いながらも事実、他の神から小さいミスをよくフォローしてもらっているので何も言えなかったので黙って本を渡した、デーガンケはペラペラ本を捲っていき転生させた子供の情報が載っているページにたどり着きじっくり読んでいくと・・・額に手を当てた。
「どうしたのですか?」
渋い顔をしながらデーガンケは答えた。
「この子供は女児ですぞ!」
「え!、あ~あ~どうしましょうどうすればいいと思いますか!」
「もう完全に遅いですな・・・」
手をバタバタさせて慌てる女神と諦めて遠い目をしている地神
「取り敢えずスキル付与の際にまた会うことに成るからその際にまた謝罪せねばのう・・・」