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じいちゃん…どうしてだ…っ。

てへぺろ

 山の奥へと続く苔に覆われた石畳は忘れ去られた祠へと続く。

 太陽の差し込まない密閉された空間に目で見えるものは一切ない、はずだ。

 だがその例外。

 朧に溢れるほのかな光。

 源である刀が一振り、声なく声を上げた。


 あれはは…、佐久斗ですか。

 とっても可愛くてとっても愛情が湧いてしまう私の使い手になるお人。

 



 昨日、祖父が亡くなった。

 寿命であったそうが半年前に会った時の祖父はとても元気で、人生の黄昏の様子は全く見られなかったのに。

 とても優しく、大好きであった祖父が去年亡くなった祖母を追うようにしてだ。

 葬儀は地元の寺で行うため祖父の家…、もとい母の実家に滞在している。

 祖父は人望の厚い人であったため知り合いも多く、言い方が悪いが両親はその始末に追われこの家には僕一人だ。


 昨日十分悲しんだせいで、涙が枯れ泣くこともできないしこれ以上悲しんでも祖父が喜ばないだろう。


 母の実家はいわゆる田舎である。

 田舎といっても隣の家まで何十分もかかり醤油も借りられないというわけではない。

 田の水が輝き、大きく茂った森に風がそよぐと緑の力を感じさせるざわめきをあげ、夕日の景色は山々にマッチングしてもう最高!といった感じではあるが、若者もかなりいる。

 表すのであれば、小学校、中学校、高校が窮地に達することなくそれぞれで独立していると言えばわかるだろう。

 いま僕ら家族は百万人を超える市に住んでいるのだが母が田舎が嫌になり抜け出してきたわけではなく、母の実家の役職に囚われたくなかったからだと僕は思う。

 母親の父親、つまり僕の祖父はその田舎と呼べる場所にある神社の神主をしているのだが最近それを知った。

 親子仲に亀裂が生じていたのは随分と昔のことである。

 原因は祖父は一人娘である母に幼少な時から神社のあれやこれやと押し付けようとしたそうだ。

 母はそれをいたって普通のことであり自分に課せられた義務だと思っていた。

 だが数年の月日が経ち高校生になった母は周りとは違いすぎる自分に課せられた重圧、責任。

 今までの苦がそれだと気付いた時には行動をしていた。

 家を抜け出したのだ。

 金もほぼ持たない状態で抜け出すことなどほぼ自殺行為に近いものだが、この後よくできた作り話のように母は父と会い、一目惚れをし、二人は契りを結んだ。

 母に小さな頃から冒険譚に似せた様々な話を何度も何度も聞かされており一つ一つがとても興味深い。

 だがこの部分だけは父と出会えたことが嬉しすぎるせいで話を思い出すと、僕の眉が全力で寄ってしまうくらいロマンチックとも言えないピンク色に誇張されすぎている。

 少女漫画の斜め上をいきすぎていて、正直言うと気持ち悪いから思い出すのはやめておこう。


 喉乾いたなぁ、っと。

 さっき飲もうと思って注いどいたんだっけな…。


「はぁ。お茶うめぇ」


 二人が結婚すると決断し実家にそれを伝えるとなった時には案の定祖父から猛反対されたんだそう。

 だけど二人は結婚をし僕を産んだ。

 僕という初孫が産まれてからは手のひらドリルのように祖父の態度は急変し、僕がよく知る甘々なおじいちゃんだ。

 娘の仕事、娘の魅力。

 そういったことに遅くとも気づけたのだろう。

 だからこそ無理強いは良くないと思うことができた。

 僕が言える立場ではないかもしれないけど、祖父という個人の当たり前を他人に押し付けるのは良くなかった。

 今は押し付けたりすることはないから母との関係も回復している。

 皆んなハッピーだ。

 祖父は今までの反省から、遊びに来てくれないかなどの実家に帰るような話を僕は聞いたことがない。

 一緒に旅行に行くときはただの優しいおじいちゃんとして完璧に振舞っていた。

 僕がまだ小さく記憶が全く残っていないような頃に数度、神社に行ったことがあるのだそう。


 蝉が元気に鳴いている暑さの中、一筋とも呼べる涼しい風が肌をなで風鈴の冷たい音色を鳴らす。


「縁側やべー、床きもちぃ」


 日陰が生まれる縁側でナメクジみたいな体勢をとると木が体の熱を奪ってくれてすごく気持ち良い。


「はぁ、暇だなぁ」


 僕は高校生であるが授業を休んでまでこちらに来たわけではなく今は夏休みの期間で、始まってから今日で五日目だ。

 今日中に終わらせたい宿題はとっくのとうに早朝の内に終わらせ、明日の分にも手をつけた。

 

「……!、神社…。思い立ったが吉っていうし早速行動を開始する」


 嫌な思い出がある訳でもないし祖父が神主であったのに神社の中を隅々まで見るという貴重な体験をしないのは勿体無い。

 財布とスマホを持ち玄関へと小走りで向かい流れるように靴を履く。

 引き戸を音を立てながら開け都会程では無いほどよい暑さが周りに立ち込め、あることが頭に浮かぶ。


「水筒…もってこ」


 熱中症になるのは嫌だからね。

 肩掛けカバンに財布とスマホと追加で水筒を詰めて、もう一度指差し確認も行いパーフェクトな状態になってから外に出る。


「いってきまーす」


 踏み出した瞬間体が小刻みに震え、体の信号をキャッチした。


「膀胱に溜まった液体が出たいと申しておる」


 思い立った内に出かけられない…。

 家の中に駆け込みトイレもしっかりと済ませ、時間が少々経ってしまったが家の前の舗装された道に出られた。

 神社までは五分ちょっとですぐに着くからいつでも楽しめるが今しか楽しめない景色を脳に収める。

 まだ青々とした稲が風に揺れこすれ合っている様子はとても好きだ。


「はぁ、ある意味じいちゃんのおかげで楽しめてるんだよな」


 神社の周りは木々が覆うように囲んでおり、まるで正面以外の方向からの侵入を拒んでいるよう。

 石畳の階段は一段一段が低いため一段飛ばしで進み鳥居をくぐる。

 階段を登り終わり誰もおらず自然の音しかしない場所で呼吸を整えながら軽い達成感を感じている心境の中、顔を上げ目の前に映った光景に息を飲む。


「これは。どうして来たいと思わなかったんだ僕は…」


 木陰に囲まれている社には光が差し込みとても幻想的な光景を生み出している。

 これは僕のこの町でみる光景ランキング上位の稲穂たちを抜かす勢いだ。

 これ以上見れるのに見ておかない貴重な体験を逃すような失態を犯さないためにも社の中も見学せねば。


「正面の扉みたいなところから入るのはここの神様に失礼だし、裏口ないかなぁ〜…。あっ、鍵ないじゃん」


 常識的に考えれば貴重なものが置いてあるだろう神社の戸締りは田舎だろうとしっかりとするし、祖父の性格的にも鍵をかけることを忘れるなんて偶然は起きないだろう。


「じいちゃんしか鍵を置いてる場所知らないだろうな」


 一回帰って探してくるのもありなのだろうが、今日は下見だけにしとくか。

 わがままと言われそうだが、というか自分でもわがままだと思うがまた明日こればいい。

 これでこの街での暇つぶし要素が確保できるから。

 今日は外観だけでも目に焼き付けようと周りを歩いていると丁度社の裏側にあたる木々が他とは何か違っていることに気づいた。

 誰もが見ても必ず気づくだろう。

 気が反って大人がぎりぎり通れるくらいの道になっていた。

 まるでトンネルのようにして。


「ふ〜む。通ってみるか」


 いつもの僕であればやめておく。

 だが今は好奇心というか、探究心というか、それに似たあらゆる感情に体を任せたい。

 なぜかそんな気分なのだ。

 大量の葉が頭上を覆い尽くしているため奥へ進めれば進むほど暗くなっていき心細くなる。


「んっ?なんだこれ」


 少し広い空間に落ち葉がたくさん落ちている場所にたどり着くと、石段の上に木で作られた箱のようなものが目に入った。


「多分これ祠だよな。それにしてもなんでこんな所にあるんだ?」


 祠も神を祭るやしろだし神社の近くにあっても自然なのか。

 神がいるところはその神にとって住みやすいところだから他の神も住みたいと思うだろう。

 そこら辺のことは昔の人間というか僕や祖父のご先祖様にあたるかもしれない人しか知る由もないことで、深入りしても答えが出るはずがない。

 あっち建物は建前だったりして。


「わからん。まぁ謎解きに来たわけじゃないし」


 わからなくてもいい。

 その光景を目に焼き付けるだけでいいのだから。

 そう自分に言い聞かせ祠に背を向けたその時、背後から枝が折れた音がした。

 いや、枝どころではない。

 もっと丈夫な木を無理やり折った激しい音がは恐怖心を煽ってくる。

 やばいやばいやばい、くまとかのやばい奴かもしれないっ。

 取り敢えず冷静にナレェって、こんな状況で冷静になれるやつとか自殺志願者か武術の達人だけで僕はどちらでもない。

 はぁはぁ、目を合わせとけば多分容易に襲ってこないはずだ…。

 足がすくんでしまって動かすことができずともゆっくりと体をひねり目線を後ろへ向ける。


「こんにちは、辻咲 佐久斗」


「…は?……えっと、ど、どなた様?」


 一瞬安堵するが盛大な不安に駆られる。

 桃色の和装をした銀髪ロングの女性と派手にぶっ壊れた祠だったもの。

 てっきり自分の生死を圧倒的な力の下で決める権利をもつ生き物かと思っていたがまさか人間だったとは。

 取り敢えずこの方が挨拶できる人物だという上で冷静になれたから幾つもの不思議なことが引っかかる。

 何故何もいなかった空間に日本では珍しい髪色を持つ人が現れたのか、何故祠が盛大にぶっ壊れた理由と原因はなんなのか、何故この人は僕のフルネームを知っているのか。

 思案していると僕の返答に何か問題があったのか女性は悲しそうな顔で口を開いた。


「そう…ですか。あなたならと思ったのですが、自己紹介をしないといけませんね。私は虚空 桜、なんとなく消解の神をやっています」


「神?何をおっしゃっているのか僕にはさっぱりなんですが…」


「約束を忘れたとは言わせませんよ…?」


「は?えっ?」


「直接手にとってもらった方が早いですね」


 そういうと桜という女性は一歩下がりはっきりと聞き取れない僅かな声を出すと女性が消え、一振りの刀が宙に浮いていた。

 何これ怖い。

 幽霊とかお化けとかそういったはっきりとは認知できないゆえの恐怖じゃなくて、自分の身がどうなるかわからない本能的な恐怖。

 もう僕正気じゃないから意識を保ててるんじゃないかな…。


「さぁどうぞ」


「えっと、あなたは桜さんですよね」


「そうです。今疑問に持っていることは私を鞘から抜けば分かりますから」


「分かりました」


 全く分からない。

 頭が理解しようとしても常識的な法則から外れたものを相手にしているから何が正しい選択か一つも考えつかない。

 この状況を打破するにはもう言いなりになるしかないようだ。

 浮いている刀に恐る恐る手を伸ばし覚悟を決めがっちりと掴む。


「うっ…、はっ。ええぇぇぇぇ‼︎いやいやいや桜さん、人間の記憶力はそんなにありませんから!」


 僕が心からの叫びをあげると手にあった桜さんは人の形としてまた現れる。


「佐久斗なら覚えていると思ったんです」


「僕は平凡なただの人です!」


「だけど私を鞘から抜くことができたではありませんか」


「それは桜さんが僕を選んだだけであって!はぁ、もういいです。お久しぶりです桜さん」


 刀に戻った桜さんから沢山の記憶が濁流のように流れ込んで、体になじむようにして全てを理解できた。

 思い出したというか無理やり思い出させられた。


「はい。それにしてもとても背が伸びましたね。きっと私じゃなきゃ気づけませんよ」


「そりゃあ成長しますし」


「成長しても佐久斗は佐久斗ですよ」


 桜さんは僕が記憶が曖昧ではっきりとはわからない頃、一時期ここの神社でお世話してくれた方だ。

 祖父も桜さんが神だと理解して自然と振舞っていたから僕が桜さんを人ではないなんて気づけるはずもない。

 赤ちゃんだったし。

 それにあの約束をお互いに指切りをも交えて約束してしまうなんて仕方なくは無いがやらかしてしまった。

 赤ちゃんだったし。

 僕の人生ノーマルエンドが良かったのに…。


「はぁはぁ、我慢できません。やりたい…やりたいのです」


「はいはい」


「ふふふ、佐久斗。さぁ私を使って異端を消し去りましょう!」


「知的判断も何も下せない赤ちゃんに約束をさせる鬼畜から逃げても無駄か…。やるよ、どうせならバットじゃなくてハッピーにしてみせる」


 まじで波乱万丈になるなこれ。

恋人つなぎ特有の手のつなぎ方って、なんていうんでしょうね。

友人と会話をしている時恋人と思わしき、というか恋人でなくてはあんな体が触れ合う繋ぎ方はしないでしょうね。

まぁとにかくその握り方をしている人を見かけたわけですよ。

それで僕の口からなんて漏れたと思います?

貝合わせですよ貝合わせ。

で、口から漏れた本人(僕)は自分で言っておいて自分が一番びっくりしながら、アワビとアワビが合体している百合な光景を想像したんですよ。

笑っちゃいますよね。

笑えますよね。

何故か友人数人からは白い目で見られましたけど。


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