6 無口な少女
路地裏にあった裏口の扉を抜け、そこにあった階段を登る。
登ってすぐにまた扉があり、女の子が手招きで俺を扉の中へ案内する。
その部屋には、1つの机と本棚、そしてベッドが設置されていた。
どことなく生活感があり、どうやらこの女の子の部屋と見て間違い無さそうだ。
「・・・適当に座って」
「あ、ああ」
俺はその場で座り、胡坐をかく。
それにしても、女の子の部屋に入るなんていつ以来だろうか。
しかも相手はロリ。下手すりゃお縄なんじゃないのか?
それにしても、可愛くない部屋だ。
女の子の部屋なんだから、クマのぬいぐるみとか、花が飾ってたりとか、可愛さがあってもいいと思うんだけど。
生活必需品のみを揃えたような部屋だな、なんとも殺風景だ。
女の子はそのまま机の前の椅子に座ると、そのまま本を読み始める。
え?俺は無視?連れて来て、連れて来ておいて無視っすか!?
「あ、あの~・・・」
「・・・何?」
この女の子のお陰で、無事”奴ら”から逃げることに成功した。
この子に感謝しなきゃいけない。お礼を言わなくちゃいけない。
それに、この重い空気に耐えられない。
口を開くのは少しつらいが、やむを得ない。
「えっと・・・ありがとな、匿ってくれて」
「・・・別に」
女の子は俺に背中を見せながら、そして本を読みながら俺の問いかけに答えた。
それにそっけない返事、どうやら気難しい子のようだ。表情をあまり出さないタイプだろう。
そしてまた、空気が重くなる。
俺は頭を捻り、女の子への質問を考える。
「ここは君の部屋?」
「”君”じゃないわ」
「?」
「・・・チロル」
ああ、名前で呼んで欲しかったのか。
それにしてもまだ本を読み続けている。人と話すときは目を見ないといけないんだぞ?学校で習わなかったのか?
「わかったよ、チロルちゃん。それで・・・」
「チロル。”ちゃん”はいらない」
お?ちょっと声に抑揚がついてきたぞ?
でもまだ俺に背中を見せたままだ。
ここはなんとしても俺に心を開かせなければ。
「わかったわかった、それで、チロル様は・・・」
「ピキッ」
ん?なんだ?今の効果音は?
椅子を引きずる音と同時に、女の子が椅子から立ち上がる。
それと同時に川で怪物に襲われた時と同じぐらいの恐怖感が襲う。
「ご、ごめんなさい!!チロルさん!悪気は無かったんです!」
「”さん”もいらない!敬語も不要!」
女の子・・・じゃない、チロルはようやく俺の方を向き、ビシッと指をさした。
軽いジョークのつもりだったが、これはチャンスだ。
今の一連の流れで確実に空気が軽くなったのを感じる。
俺は軽くコホンと咳払いをする。
「じゃあ改めて、助けてくれてありがとなチロル。ところで、ここはどこなんだ?」
「・・・見ての通り、私の部屋。」
よし、質問に受け答えのできる体制を作ることができた。
これは一気に謎を解き明かすことができる大チャンスだ。続いて質問を投げつける。
「この町は一体なんなんだ?」
「・・・”ガゼル”。数々のマジシャンや魔道師を生み出した魔法専門の町。」
「魔法専門・・・?道具屋のおっさんがマジシャンと貴族の学生街とか言ってたな、そうなのか?」
「ん」
チロルは首を縦に振る。
「ところで、なんで俺を助けたんだ?」
「・・・。」
しまった、黙りこんでしまった。
こういう質問はもっと後でしておくべきだったかもしれない。
「悪い悪い、なんか悪いこと聞いちまったかな。じゃあ俺を追いかけていたアイツら、お前知ってるか?」
正直、これが一番聞きたかったことだ。
俺、なんか悪いことしたか?思い当たる節がまるで無いのだが。
ひょっとして道具屋のおっさんの差し金か?
チロルがウーンと唸りながら腕を組んで悩んでいる。ちょっと可愛い。
「頼むチロル!、教えてくれ!俺は何も悪いことはしていない!何か知っているなら教えてくれ!」
俺の想いが通じたのだろうか。チロルは腕組みを外し、口を開く。
「・・・ガゼルの調査団、隊長のクロス・ハント様。だと思う。」
「だと思う?」
「・・・実際に見たのは初めてだった。隊長はいつも城の中で仕事をするらしいから。」
よし、これで敵の正体がハッキリした。ガゼル、この町の調査団の隊長・・・は!?
「あのさ、一応聞くけど、その隊長って偉いの?」
「・・・すごく偉い。学校の教科書に載ってるもの」
「え?なんでそんなお偉いさんが一般人の俺を捕まえようとしているんだ?」
「・・・それは私にもわかる」
さて、謎が深まるばかりだ。学校の教科書にも載るほどの有名人が何故・・・ってあれ?
「わかるの?理由」
「多分。というか間違いなく」
え?俺わからないんだけど。ひょっとしてこの子、天才か何か?
「なんで?」
「貴方がダラス様だから」