3 初披露
~前回のあらすじ~
町を求め、歩き出した長谷川悠。
川を見つけ、一息着くことができたがその川の化け物に襲われる。
そして、逃げるために闇雲に走った先に、念願の町を見つける。
屈強な男2人が少年の前に立ちはだかる。
その男の一人が口を開く。
「見せろ」
「・・・は?」
何をだ?俺は早く町に入りたいのだが。
町の前に立っているところを見ると、この2人は門番か何かなのだろうか。
それにしても服装がスゴイ。中世のヨーロッパを題材にしたアニメ「テルロマ」に出てきたキャラクターが着ていた服と似てる。
「あの、何を・・・?」
「はやくしろ」
ひょっとして、通行許可証か何かが必要なのだろうか。
町に許可証が必要なんて聞いてないぞ!
だとしたら町に入れない上、ここで立ち去ると不審に思われるだろう。
ほら、門番さんの2人の顔色が変わり始めている。
まずい。なんとかしなきゃ・・・。
思っていたその時、
「あの~すみません」
後方から声。
そこにいるのは2人の男女。見るからにカップルだ。
さっきの声は女性のものだろう。
服装はやはり「テルロマ」に出てきてた奴そっくり。
新婚さんなのだろうか、手をつないでいる。
「入ってもいいですか?」
「見せろ」
「はい」
そう言うと彼女は自分の右手の平を上に向け、何かをつぶやいた。
一瞬、俺は目を疑った。
火だ。彼女の手から火が現れたのだ。
彼女の手の平が燃えている?
いや違う、彼女が自分の手の平の上に炎を作りだしているようだった。
ライターとか、マッチとかとは違う。その炎はまるで生きているようだった。
彼女の手の平の上にある炎は、穏やかで明るく、鮮やかな赤色を作りだしていた。
ふと横を見ると、男の方も手の平に炎を作っていた。
こちらの炎は青く、力強さを感じられる炎だった。
「魔法・・・?いやまさか」
思わず口にする。
そんな馬鹿な、ありえないと思いたかった。
ひょっとして・・・?
「おい、入っていいぞ」
門番は道を避け、カップルは町の中へ入っていく。
「次はお前だ、見せろ」
2人は俺の方を向き、何かを要求する。
「門番さん、今の2人は何ですか?」
「え?何って、マジシャンだろ?」
「あーなるほど」
これですべて説明がついた。
おそらく、この町でマジシャン(手品師)大会の類が開かれるのだろう。
つまり、「見せろ」とはその参加資格、つまり手品を見せろということだろう。
さっきのカップルも手品師だったのか。
「はやくしろ!お前、もしかしてノーマルか?」
マジックからはもう足を洗ったのだが、まあいいだろう。
元日本チャンプの力を見せてやる。
地面にある「アレ」を拾い、右手を門番の前でちらつかせる。
「はい、種も仕掛けも在りません。」
そのまま、さきほどのカップルがした事と同じように、手の平を上にする。
「ここで手をぐっと握ります」
門番2人の目線が右手に集まる。
「そして手を開くと・・・!?」
勢いよく開いた手の平。
そこに先ほど拾ったタンポポが地面の土と一緒に現れたのだ。
「まだ腕は落ちちゃいねえな」
本来、花は強く握ると萎れたり茎が折れたりするのだが、力加減で調整することができる。
これがプロとアマチュアの差なのだ。
どうだ見たかと言わんばかりのドヤ顔と共に、門番2人を見る。
驚愕した門番の顔、この顔が見たかった。
そのまま土と一緒に、タンポポを自分の足元に埋めなおす。
それを見るや否や、先ほどとは打って変わった態度で。
「すみませんでした!!」
「ど、どうぞ中へ!!」
屈強な見た目をした男2人が俺に頭を深々と下げている。
やばい、ニヤニヤが止まらない。ポーカーフェイスの練習もするべきだったな。
胸を張って堂々と町へ入る。
しばらく歩いたところから後ろを向く。
さっきの門番がまだ頭をこちらへ向けて下げている。いい気味だ。
それにしても、あんな簡単なマジックであの扱い。
レベル低いなぁ、きっと面白くない大会なんだろうな。
そうだ、その大会に出場しよう!
きっと優勝景品や賞金がもらえるかもしれない!
7年のブランクがあるが、さっきの2人のお客さんの顔が忘れられない。
もっと驚いた客の顔が見たい。そう思った。