1 風の香り
人間は、困難に強い動物である。
そう教えてくれたのは父だった。
ありがとう、父さん。でも、今回ばっかりは無理だと思う。
俺は一度閉じた目をもう一度開けた。
・・・うん、夢じゃない。知ってた。
目の前に広がるは青い空、そして草原。
そして草原の周りは森だろうか。自分が把握できることはそれくらいだろう。
夢・・・じゃなさそうだ。感覚がそう言ってる。
もし夢なら、ここまで草の香りや風の感覚を自分の想像力で再現できるわけが無い。想像力の無さには定評があるのだ。
兎に角、ここはどこだ?
俺は誰・・・?いや覚えてる。ハセガワリョウ・・・長谷川悠だ。
今ちょっと間違えたって?多分聴き間違いだ。
そうだ、こんなときこそ冷静になるのだ。
とりあえず荷物を確認。ポッケにあるのは財布、スマホ、そして2980で買ったイヤホンだけ。
スマホで電話をしようにも、画面の右上に圏外マーク。
こんなことになるなら、缶詰の1つや2つは常に持参するべきだったと後悔。
そんなことより、俺はこれからどうすればいいんだ?
えっと・・・町、町を探そう!どっかの本に書いてあった!遭難したときは町を探すんだ!
まぁ肝心の町の方向がわからないのだが、どんなことでも目的は持つもの。
これも父の教えである。
とりあえず闇雲に歩いてみる。
すると足元の草が無くなっていることに気がつき、さらにはそれが横1本の線のように繋がっていた。
道だ!この道を辿ればどっか町へ着くんだ!と、思う。
17歳、長谷川悠は町を求め走りだす。