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プロローグ
彼がステージに上がると、会場は暖かく迎えてくれた。
彼の手には可能性があると誰もが言った。
彼の両親、先生、友人達は笑ってくれた。
だがそれは思い出という箱の中。
気づけば彼は17歳になっていた。
朝の妖怪である「睡魔」に押しつぶされそうになるところをすんでのところで回避し、ベットから起き上がる。
この角度だと、机に飾ってある写真立てが嫌でも目に付いてしまう。
あれから7年。その写真の真ん中には10歳の少年が巨大なトルフィーを持って、笑顔を見せている。
「全日本マジシャングランプリ 優勝 長谷川悠」
嬉しかった。それは間違いなかった。
この写真に写っている少年は「マジック」を愛して止まなかったのだ。
しかし、それは7年という時間と共に零れ落ちてしまったようだ。
意味も無い日々はまだこの先も続いているのだろうか。