第0話 朝焼けの花
「なあ――」
あまりにも生々しく響いた懐かしい声が、ダイヤを浅いまどろみから引きあげた。
ふと古ぼけた壁掛け時計を見やる。針が指し示すのは五時二十分、ズレを考えれば五時四十分頃だろう。
五時四十分、あの日も、朝焼けの空を眺めていた。
『砲撃座標453-184』
「突撃第一分隊、総員着剣」
『砲撃開始』
大地を揺るがす砲撃と、爆音。
そして――。
「突撃――ッ‼」
笛の合図と共に全員が駆け出す。
この中で数名生き残れるかさえ分からない激戦の連続で全員が疲労し、その足取りは重い。
硝煙と血しぶきと、銃声と断末魔。
「戦車隊突破しろ‼」
『たッ助け――』
R-Ⅴ型強襲戦車が敵歩兵を踏みつぶしながら鮮血のレッドカーペットを作り出し、地獄へダイヤたちをいざなう。
「総員突撃――ッ‼」
『なあ、ダイヤ』
「——どうした?」
「俺を――殺してくれ」
左腕を失い、軍服を血で染めた親友はそうダイヤに頼んだ。
痛みの果てに辿り着く死と、親友の手に殺される死。
どちらがいいかは一目瞭然だ――しかし――。
ダイヤは刹那の逡巡の果てに――トリガーを引く。
朝焼けの空のもとに一輪の花が咲き、散った。