3 戦の影
空が夕焼けに染まる中、俺達は、服を泥で染めていた。
「重すぎるだろ、これ……」
「イグナは軟弱だからな~~]
「お前もさして変わらないだろ……」
「「騎士様方はか弱いんだな~~」」
と、ごつい男たちが言う。まあ反論できないんだけど。
土嚢を三十個運んだだけで地面にへたり込むとは、我ながら情けない。
午前中に話した作戦の準備中だが、「土嚢で壁造って迎え撃ちましょう」とか、作戦でも何でもない、基本的な事を言ったので、「それだけ?」などと言われてしまった。
「お前達は休んでろ、後はやっといてやる」
男の一言に俺たちは口をそろって返答した。
「「おねがいします!!」」
ごつい男たちは、疲労の色を見せず、せっせと働いている。
「お水どうぞ」
少女が革の水筒を渡してきた。先ほどは泣いていて幼く見えたが、今見てみると、俺とあまり変わらない年のように見える。
「君はいくつだい?」
「女性に歳を聞くなんて、紳士さに欠ける騎士様ですね」
「うっ……………………」
黒髪を肩まで垂らした彼女は丁寧に指摘してきた。
「十五ですよ」
なんと…………俺と二つしか離れてねえじゃん。
「それより、何か作戦らしい作戦ないんですか?」
「ない」
俺の即答に目を丸くした少女は、「軍人らしくないですね」と、心に突き刺さる一言。
「もう軍人じゃないしな」
口を挿んできたイルドは、どこか遠くを見つめていた。
「俺たちどうなるんだろうな……」
「まあ、軍には居られないよな、最悪のケースだとこの国にすらいられなくなるかも……」
「そん時は亡命しよう亡命」
俺の発言に対し苦笑したイルドは、あっけらかんとした様子の少女に対して
「名前を聞いてなかったね、名前は?」
「イリア」
「いい名前だね」
そこまで話したら俺達を呼ぶ声がした。
「おーい、終わったぞー」
「「ありがとうございましたー!!」」
まさか半日で終わるとは………村の中心に矢倉、周囲に土嚢で造った防護壁というなかなかの改造を短時間で出来たのは、チームワークの良さのおかげであろう。
「じゃあ、見張りの三人は、矢倉に上っていただいて、何かあったら笛で知らせてください」
「「「おー」」」
三人同時に答える仲の良さに、口元を緩めつつ矢倉に上っていく三人を見届けた。
「晩御飯の用意ができてるから、シャワー浴びたら村長邸の食堂に来てね」
「「おう!!」」
二人そろって元気よく答えた俺たちは、風呂場まで急いだ。
シャワーを済ませた俺達は晩飯を食うべく、食堂の扉を開いた、するとそこには、異常に長いテーブルと、その上に並べられた豪華な食事、すでに全員集まっているようで、空いている席は奥のほうしかない、
忘れていたが俺は村長なのだ、我ながら偉くなったものだ。
そんなことを考えながら、奥の席に座ると、相棒もそれに倣い座った。
「「「いただきます!!」」」
全員で言うと、目の前のごちそうにかぶりついた。
食後のデザートを食べ終え、村人との談笑を楽しんでいると、甲高い笛の音が村中の空気を切り裂いた。