0 プロローグ
凄まじい爆音と共に、俺の左腕が吹き飛ばされた。
衣服には血が滲み、胸につけられた勲章も、紅く染められている。
俺の体から力が抜け、地面に倒れこむ。
こんなところで死ぬために騎士になったわけじゃないのに。
左肩から血があふれ出る。
とうとう誰にも必要とされないまま、最期の時が来てしまったようだ。
齢十八にして戦場に散る英雄というのも、なかなか美しいじゃないか。
無理矢理自分に納得させると、ふと目を左肩に向けた、むき出しになった骨と肉が、ぐちゃぐちゃになっているのが鮮明に確認できた。
「これは……子供の頃、転んで膝を擦りむいたのとスケールが違うなあ」
誰にも聞こえないであろう最小の声でつぶやいた。
後方から足音が聞こえてきた。
恐らく、止めを刺すべく来たのだろう。
敵国の英雄の首を取って、せいぜい喜んでろ、どうせ俺一人で戦の勝ち負けが決まるわけでもないしな。
せめて最後は、英雄っぽい名言残してこの世を去ろう、そう決意した俺は、現時点で残されているありったけの力を振り絞り、そいつに向かって叫んだ。
「て、帝国に、栄光あれ‼」
最初噛んだし、一般兵も言いそうだけど、まあ良しとしよう。
「あの」
女の声だ、優しく、透き通った声は、それだけで痛みを和らげてくれた。
声のしたほう顔を向けると、赤毛のストレートヘアーを背中の中ほどまで垂らした女性が、俺に声をかけている、視界がぼやけて、はっきりは見えないが、夕暮れの空と重なってか、美少女的なオーラを出している。年は声から推測すると大体同い年であろう。
返事をしようとしたが、もう声が出ない、意識が遠のいていく。
人生の最期に美少女の声が聞こえただけ良しとしよう。
そう思った刹那、俺は意識を失った。