彼と別れる、別れる
彼女らと別れた後、彼と並んで帰っていた。「お邪魔したかな」というと「全然」と言われた。彼が「連絡先、渡されなかった?」と突然聞いてきた。私がハッとした顔を見せたので、やっぱりと彼は言い、「あれ破っといて」と頼んできた。しつこくて困っているんだ。でも連絡先を渡してきた人以外、大阪に来たときお世話になった人でむげに断れないんだ。「だから捨てといて」と彼はとても冷たい表情で言っていた。私は彼にいつかこのような顔をされるのでは無いかと少し怖かった。
私が就職活動に追われている時、彼も今までよりもっと授業に追われていた。2人で家にいるのにお互いあまり話さなくなった。私は彼を忘れていたわけではないのだが、彼は私を忘れていたのかもしれない。彼が勉強会と言っては家に帰らない日が多くなっていった。しばらく家に帰らない日が続き、ある日彼から着信が入った。「今日は帰る。でも話がある」
何を話されるのかと思って、私は動揺を抑えきれなかった。顔に出ていただろうけど、その反面、彼はとても緊張した様子で同時に何かを決めたといったような顔つきをしていた。彼はゆっくりと話し出した。「将来、いろんな菓子を扱う会社をやりたい」そう言った。製菓の専門学校を出ても希望通りの職種に就けるとは限らない、そこで技術を持った人の受け皿になるような会社をつくりたい、それで学費を貯めたいからここを出て自分の給料のほとんどを貯金したいと彼は私に告げた。出ていくのは今から3か月後の9月には出ていきたいと、それがまるで死刑宣告のように聞こえた。あぁ、もうこの生活を初めて半年以上経っていたのか。
そこからその三か月はすぐに過ぎていった。彼は自分の要求を押し通したことに申し訳なさを感じていたが、せねばならぬことが多すぎた。私も一人では就職活動をしながらこの家にはいれないので、実家から通うことにした。そして部屋を解約する前々日、久しぶりに彼と過ごした。私のリクエストで彼はケーキを作り、私は他の料理とワインを用意した。いろんなことがあったね。と思い出話をしている最中、彼は泣き出した。ごめん、我儘を聞いてくれてありがとう。私は彼を抱きしめ、「大丈夫、あなたならやっていける。」この言葉を、彼の温もりを私は一生忘れない。
解約の日、父と母が車で来た。彼は私の両親に挨拶をした。近くの喫茶店で様々な話をした。彼の携帯に連絡が入り、時が来たことを教えてくれた。もう私は彼と一生会うことは無いだろう。なのに、彼の「またね」という言葉に泣いてしまった。
住んでいる距離が遠くて、尚且つ中々会えないと隠しごとをしていても明るみに出にくい。あれから彼としばらく連絡を取っていたが、今は絶えてしまった。もうあの暮らしから1年が経った。私は不動産屋に就職した。久しぶりに共通の友人である5軒目の彼が3人で飲もうと言ってくれている。そのとき、私は彼をまっすぐ見ることが出来るのだろうか、彼の顔を見て泣かないだろうか、なのに心はこんなにウキウキしている。いつの日か隠し撮りした彼の寝顔を見て、そう思った。(終)
読んでいただきありがとうございます。
このサイトで投稿するのがほとんど初めてで、至らぬ点あったと思いますがご了承ください。
BLも恋愛物も初めて書きました。ここでも至らぬ点あったと思いますが、寛大なお心で許してやってください。お願いします。