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彼の眼に私は写っていない

 ドアを開けたら、部屋が突然明るくなって、乾いた音と火薬のにおいが鼻についた。彼が目の前で笑顔になっていて「誕生日おめでとう」と嬉しそうに言った。そうか今日は私の誕生日かと理解した瞬間、さっきまでのことを思い泣いてしまった。今、彼はどんな顔をしているだろうか。引いている?変な奴だと思っている?どうしようどうしたらいいんだろう。なのに彼は困ったような笑顔で、「泣かないで、今日は自分で作ってみたんだ、ケーキ!」と手を引っ張りテーブルまで連れて行った。涙を拭き、テーブルを見ると小振りで可愛いケーキがあって、あって、それだけしか無かった。あ然としていると、彼はケーキしかないんだと白状する。時間がかかっちゃって他に手を出せなかった。と言う。作ろうとしても下手なのになんてことを言っているんだろうと考えると無性におかしくて笑ってしまった。


 ケーキを食べた後も、今日何で泣いたのかってことを彼は一言も聞かなかった。私はこんな日常を壊したくないと思った。当たり前のように2人で笑って過ごすんだ。そして彼の笑顔を守るんだ。そう静かに決心した。


 年度が明けて、春になった。学年が一つあがった。就職という文字がリアルに迫っていた。彼はお菓子職人になるのだろうけど、私は文系学生、何にでもなれるし、悪く言えば何かになれる保証はどこにも無い。大学にいても気分がよくないので、早々に帰宅した。家に帰っても気分は晴れることが無かった。彼はオリエンテーションがあり、帰りが遅くなるそうだ。久しぶりに一人ご飯だ。作るのも億劫なので、外食しようと考え、近くのファミレスに行った。


 そこで彼に会った。会ったというよりは彼と専門学校の友人が食事しているところに出会ってしまった。彼たちは気づいていないが、友達なのか疑問に思った。いくらお菓子作る専門で女子が多くても、彼以外の人5人が女性なのはどうなんだろうと思った。私は彼に隠れるようにチーズハンバーグセットを平らげた。そして出ようとした時、彼らと会計の時ばったり出会った。彼はいつもの笑顔で私に偶然だねと声をかけた。私はそれに苦笑いで応えた。向こうの女性陣たちが私は何も要求していないのに察したようで、自己紹介を始めた。ここではなんなので外でと私は言い、会計を済ませた。外で彼女らの一人が連絡先を渡してきた。小さな声で「私、彼のこと好きなんです。同居人さんに協力してもらえれば、ありがたいです。」と言い、小さなメモ帳を押し付け他の女性陣と共に帰って行った。私は鈍器で頭を殴られたような感覚に陥った。(3話終)

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