彼との生活は楽しくて
私と出会ったのは、5軒目の友人が私の知り合いで、「関西出身のやつで家賃が高くて困っている奴がいる」と紹介してくれた。私は大阪の学校に通っていた。出身は大阪なのだが、学校は最北部にあり、実家は最南部にあるため真ん中を取って大阪市に住んでいる。早く家を決めたいがあまり、家賃を特に見ずに決めずにキタ・ミナミに交通の便の良いところで決め、思っていたよりも高い家賃に限界を感じていた。
一緒にご飯を食べに行き、好きなアニメの話題で盛り上がり(家賃を稼ぐために働きっぱなしだったので、最新アニメではなかったが)、そのまま一緒に住むことになった。独り暮らしの身としては少し広い部屋に住んでいたので、シェアするのには困らなかった。どちらかに彼女がいたわけでは無かったので、女を連れ込むなんでことも無かったし、家賃は2人で働けばたいしたものでは無かった。酒乱でもなく、2人とも自分の限度は知っていた。
最初は口数も少なかった互いも、段々自分のことを話すようになっていった。故郷のこと、実は未だに誰にも話せない秘密があること。たくさん酒のつまみにして話した。彼は秘密に対しての追及をしなかったし、私もしなかった。アニメ鑑賞会もした。レンタルショップで魔法少女が出てくるアニメ映画を借りて何度も何度も見た。大阪のことを彼よりも理解している私が地図片手キタを案内した。地下街で迷って2人で迷子になった。大きな本屋さんでコーヒー片手に本を選んだ。コーヒーをこぼして店員さんに謝ったけど、彼は購入するといって千何百円のハードカバーを自腹で買った。映画も見た。人間の子供がバケモノに育てられるという話だったけど、成人男性が2人して泣いた。カラオケも行った。そこで初めて彼が私より2つ年下であることを知った。でもそんなことはたいしたことでは無くて、彼といるのがいつしか大学の友達といるより楽しくなっていった。彼は私と遊びながらも将来何をしたいか、どうすればそれが叶うかということを探し続けていた。家で一人になりたい時は自然と肌で分かって、私が家を離れ、私が一人になりたい時は、彼が家を離れた。その間、あてもなく無くフラフラとして晩御飯の時間になると帰った。彼はお菓子の専門学校にいるのに愕然とするほど料理が下手くそだった。だから料理当番はいつも私。彼はサラダの盛り付けだけ。
いつしか年が明け1月になっていて、肌寒い日々が続いていた。私は彼をとても大切に想っていた。彼も親友くらいには思っていてくれただろう。でもそれだけでは物足りない自分が確かに存在していて、こんな感情は初めてでたまらなくなって家を飛び出した。携帯片手にどこか分からない公園のブランコに座って、考えていた。彼と過ごすのは大学の友達と過ごすより何百倍も楽しくてうれしくて、満たされる。だから彼のことはおそらく好きだ。その「好き」が「愛している」なのかそうでないのかが分からない。とても苦しくて心が壊れてしまいそうだった。彼の匂いが好き、彼の少し高い声が好き、彼が笑うあの顔が好き。だけど、そんな彼を「好き」になるのはなんだかいけない気がした。ひとしきり考えて、今は分からなくてもいいじゃないかと思って、家に帰った。(2話終)