洗脳の力
とても平和な世界だった。
食べ物の争いも無く、領域の争いも無かった。
魔の者は、時折里に下りては果物を置いて帰っていたのだとか。
寒さの酷いときは、里に下りてきた魔の者を家に招き、暖かい食事をとっていた。
とても美しい自然に、楽しそうな声が響いていた時代が確かにあったのだ。
しかしある時、勇者と名乗る者が現れた。
その者は、魔の者が悪だと言い切り、周囲の言葉を無視して魔の領域に踏み込んだ。
勇者を名乗る者は、圧倒的な武力と、この世ならざる知識を用い世界を変えた。
洗脳の力
それが勇者の力だった。
魔の領域の者たちは、勇者に操られた。
そして、その手で崇拝していた王を殺させたのだ。
王を殺した後はお払い箱だと言われ、追い討ちを掛けられた。
「最後の一匹になるまで殺しあえ」
これが勇者の捨て台詞だった。
洗脳されていた者たちは泣きながら戦い抜いた。
最後の一人は泣きながら笑っていた。
この後、しばらくして勇者は殺された。
人の国の3分の1の人間と共に。
それからは度々魔王が現れるようになった。
人に害をなす存在と認識された魔王は口々に言う。
「王の敵を討つ・・・と」
人の領域にはこんな言葉が残った。
「魔の者は見つけたら駆除せよ。」
当然、魔の領域にも同様の言葉がある。
全ては最初の勇者に狂わされてしまったのだ。
正義の名の下に自己満足をぶつける勇者。
敵討ちを語り、自己の存在をアピールしたいだけの魔王。
それらは全てヨヅルの敵、今回もそうだ。
この世界に余計な知識を持ち込んだ。
勇者は敵だ。




