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95話

 翌日。

 良心の呵責に苛まれている『ミリオン・ブレイバーズ』の連中と、成長してしまったロイナを囲んで、ヒーロー達が何とも言えない顔をしていた。

「ええと、本日はお集まりいただきありがとうございます。今まで俺の都合で集まりを延ばして頂いた事をお詫びします」

 ということで、最初に俺が挨拶をした。

 単純に、嘘の為である。

「もう体は大丈夫なのか?」

「はい。ご覧のとおり」

 出落ち戦法で、普通に立って話している俺の幻影を生み出してヒーロー達に見てもらい、更にその幻影を歩き回らせたり、俊敏に動かしたりしてすっかり元気になったというように信じてもらった。

 その為、今は3か月11日前の状態と大体同じぐらいの体調に戻っている。

 ……他人事みたいだけれど、つくづくずるい異能だよなあ、と思う。


「……で、これが例の結果か」

 ヒーロー達が何とも言えない顔をするのも分かる。

『ミリオン・ブレイバーズ』の連中は、今やすっかり人が変わったようになってしまっているのだ。

 今、彼らを拘束しているのは彼らが暴れたり脱走したりするからでは無い。

 彼らが勝手に自殺しようとするのを止める為である。

「こいつらは今、意志を折られた所です。俺達がヒーローで在ろうとしてソウルクリスタルを手に入れるように、こいつらはこいつらの意志によってソウルクリスタルを手に入れた。……どんな意志だったかは分かりませんが、それが折れて、こいつらはもう悪事を働く気が起きなくなったみたいです」

 多分、自己顕示欲とか、権力欲とか、金への執着とかそういうものじゃないだろうか。

 いや、分からないし分かりたくも無いけれど。

「それと同時に、ソウルクリスタルを損失する感覚を知ったことで今まで知らないふりをしていた部分を直視せざるを得なくなったんでしょう。今は良心の呵責に耐えかねて自殺を図ろうとする有様なので拘束してあります」

「そいつぁすげえな……」

「この変貌っぷりは凄いですよね」

「いや、お前らもソウルクリスタル砕けたら分かるぞ。分かってほしくも無いけどな」

 ヒーロー達は『ソウルクリスタルが砕ける』という事への恐怖を新たにしたらしい。

 その中で恭介さんが微妙な顔をしているけれど……恭介さんは元々がヒーローらしい理由で得たソウルクリスタルでも無かったみたいだし、例外でいいだろう。多分。


「……そして、こいつらのソウルクリスタルを『食った』のがこの子です」

 そこで、古泉さんがロイナを真ん中に連れてくる。

 ロイナは双子によって事前に叩きこまれていた通り、ぺこん、と頭を下げてみせた。

「……アイディオンなんだっけ?その子」

 ヒーローは当然、アイディオンを憎む人たちである。

 だから、当然、アイディオンであるロイナと、ロイナを保護していた『ポーラスター』への風当たりは強いものだと思っていた。

 いたのだが。

「……ふつーの人間に見えますねー」

「お嬢ちゃんお名前は?」

「ロイナ、です!」

「可愛い!」

「ぷにぷにしてるぅ」

「お肌もっちもちやでもっちもち」

「若いっていいわあ……」

 主に女性ヒーローに人気だった。


「……なんだ、女ってのはガキなら人間でもアイディオンでもいいのか」

「まあそういうふうにできている面もあるでしょうね」

 そして、男性陣にもそこまで不評では無かった。

 理由としては、1つに、今、ロイナが普通に生活していて、俺達に危害を加えていないという事。

 2つ目に、双子……つまり、仲間のヒーローを守ってくれたという事。

 3つ目に、彼女もまた、『ミリオン・ブレイバーズ』の被害者である、という事。

「……こうして見ると、アイディオンと人間の違いって何なのか分からなくなってくるな」

「もっと成長したら分かる面もあるかもしれん」

 そして、シビアな見方では……ロイナを見ることでアイディオンとは何か、という、今まで人間が誰も分からなかった事が分かるかもしれないから……いわば、実験対象としての保護を望む面があるからだ。




「おい、『スカイ・ダイバー』。お前、あのアイディオンの子に聞くことは聞いたのか」

「一応、な」

 ロイナと……いや、ロイナで遊ぶ女性陣も一応、ただ遊んでいるだけでは無い。

 ロイナの注意を引くことで、俺達が話し合うタイミングを作っているのだろう。

 ……いや、本気で遊んでるのかもしれないけれど。

「アイディオンってなんだ、とは聞いた。が、あの子自身も、人間とアイディオンの区別がついているようには思えない」

「おいおい……」

 古泉さんは俺が寝ている間に、一通りロイナにそのあたりを聞いているらしい。

 しかし、ロイナ自身がまだ喋る(というか伝える)ということが苦手な事もあり、今一つ要領を得なかったのだとか。

「ただ、人工的に作られた、っていう意識はあるらしいな」

 ロイナは人造アイディオンだ。

 カプセルの中で生まれて、育って、研究資材として使われてきた。

「……それ、逆に言えば人造じゃないアイディオンってのがいるんだろ?」

「いるんだろうなあ。……それこそ、ロイナに聞いても分からないさ。あの子が知っているのは自分の事と、自分の育ての親みたいな1人の女性研究員の事ぐらいだ。そもそもアイディオン、というもの自体、あの子は碌に知らなかった。俺達と違うという事がちゃんと分かったのも最近になってからだ」

 古泉さんが答えると、『ライト・ライツ』はやれやれ、というような表情で肩を竦めた。

「アイディオンってのは育つ環境によって……いや、そもそも育てるもんなのか、アイディオンってのは」

「さあなあ。……人造と天然の違いなのかもしれないし、単純な個体差かもしれないからな、一概には何とも言えないさ」

 人造アイディオンはソウルクリスタルから作るらしい。

 それは『意志』を人造することが難しいから。

 そして、人造ソウルクリスタルは人造アイディオンから作られる。

 人造ソウルクリスタルはある程度、オリジナルよりは劣化するらしい。

 ……俺達が今分かっているのはその程度だ。

 そして、それらを継ぎ合わせていけば、なんとなく、アイディオンとは何なのか、分かるような気がしないでもないのだ。

「意志、か」

 俺達のソウルクリスタルは、俺達の意志によって生まれる。いわば、俺達の魂だ。

 そして、アイディオンも同じように、意志から生まれるのだとしたら。

 ……答えは出そうにない。

 まだ、俺達には分からないことが多すぎる。結論を出すには早すぎる。

 ……だけど、アイディオンが人を殺すから、俺達は人を守る為にアイディオンを殺す。

 その図式を変える気は無い。




「俺は『ポーラスター』の負担にならないならこの子はこのまま『ポーラスター』で預かっているのがいいと思う」

「いや、うちに……!このふわふわもちもちぷるぷるの可愛いのを是非うちに……!おんなのこ……おんなのこ……」

「『ガール・フライデイ』さん。うちにそんな余裕はありません。……『スカイ・ダイバー』さん。どうですか。金銭的な援助なら最悪、俺達からもできると思います。募金のような仕組みになりそうですが、それでよければ」

「ああ、大丈夫だ。うちはあくまでこの子の託児所扱いだからな。保護者は別にいるし、金銭的な援助はその人から受けているんだ」

 ……尚、純度99.9%のエルピスライトは、早速恭介さんによって一部が既に使い込まれているらしい。

 俺が寝ている間に俺以外のメンバーのカルディア・デバイスは改良済みなんだとか。

「そうか、なら、あとは時間と手間の負担だが……大丈夫そうか」

「俺達がロイナの面倒見るから大丈夫です!」

「僕達に任せてください!」

 双子が嬉しそうに声を上げる。一時はロイナを『処分』する羽目になるかも、と青ざめていた2人だ。ロイナを引き続きうちで預かることが決まってほっとしているらしい。

「そうか。ならこの件は『ポーラスター』に一任する。いいか?」

 ……ということで、ロイナについては他のヒーロー達にも共通の認識ができ、正式にここに居ることを認められたのである。




「そういえば、アイディオンって位だしロイナちゃんも戦えるの?」

 不意に、1人のヒーローがそんなことを聞いてきて、俺達は顔を見合わせた。

「考えたことも無かったな。今までは本当にちいちゃい女の子だったし……」

 そして何より、依頼主の所有物、俺達にとっては保護の対象でしか無かったのだから、戦わせるなんて以ての外だったのだ。

「ロイナ、ロイナは異能、使える?」

 ソウタ君がロイナに尋ねると、「異能?」とロイナは首を傾げる。

「他の人にはできない事だよ。ほら、俺とソウはカジノ、作れるだろ?古泉さんは色々逆さまにできるし、茜さんはキスで色々やるだろ?そういうのだよ」

 コウタ君が説明を重ねると、ロイナは暫く難しい顔で虚空を見つめる。

 ロイナは何か考えるとき、いつもこういう表情で虚空を見つめるらしかった。

 もちろんこれも、ロイナがソウルクリスタルを食ってからの事だ。

「うん」

 そして、ロイナが出した結論は、是。

 当然といえば当然だけれど、なんとなく驚きでもある。

「そっか。ロイナはどんなことができるの?」

「えっと……おまんじゅう?のまわりの、みたいな……のを、私達にあるやつ……ええと、それを変えられる?の」

 ……。

 成程、本当に、『伝える』という事に難がある!


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