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93話

「……それって、真君の異能と、同じ……?」

「そうとしか考えられない。多分、あいつが傷つかないのは幻影でそうしてるからだ。……ほら、『ミリオン・ブレイバーズ』の残党を捕まえるときに俺がやったやつ」

 飛んできた剣が刺さっても、その剣を『見えなく』して、俺の傷も『見えなく』する。

 それだけで、無傷の俺が出来上がるのだ。

「多分、避難する前に街の人達も見てる。だから、『嘘』をばらすのはここに居るヒーロー達だけじゃ足りないんだ」

 それこそがこのアイディオンの幸運だ。

 避難してしまった街の人達も既に騙されている。

 例え、ヒーロー達が戦いの中で違和感に気付いても、嘘を見破っても……街の人たちの数には勝てない。

 守るべき街の人達が嘘を信じているせいで、ヒーロー達は永遠に嘘に勝てないのだ。

「……分かった。伝えてくる」

「恭介さんは、とにかく時間稼ぎをお願いします。それから、会えたら茜さんにも協力を仰いでください。茜さんが今、逃げ遅れた人達の救助をしてるはずなので」

「了解です」

 桜さんと恭介さんが飛び出していき、俺もシルフボードを起動させる。

 ……それでも、半分は賭けだ。

 なんにせよ、時間が無い。




 総合体育館は、シルフボードを全力で飛ばせばすぐ辿り着いた。

「落ち着いてください!並んで入場をお願いします!」

「押さないで!大丈夫です!今、ヒーロー達が戦っていますから!」

 ……想像はしていたけれど、そこは混乱の渦中だった。

 逃げ惑う人々は身の安全を確保しようと動き回り、幾人かのヒーローやヒーロー協会の人たちが必死に統制しようとしている。

 ……でも、単純だ。

 彼らに話を聞いてもらう為に必要なのは、とにかくインパクト。次に、都合のいい内容の話。

 話の内容は実に都合がいいし、そして、とにかくド派手にするために必要なエフェクトには事欠かないのだから。

「皆さん、聞いてください!」

 なので、とりあえず俺はカルディア・デバイスの拡声機能をONにして叫び、光りながら、浮いた。


 急に大きな声が聞こえたらとりあえずそちらを向くだろうし、発光しながら宙に浮いた人がいたらまず見るだろう。

 実際、多くの人々は俺を見た。

「あのアイディオンを倒す方法が見つかりました!ついでに街も元通りになりますし怪我した人も治ります!」

 都合のいい内容に人々が警戒するより先に、立て続けに説明してしまう。

「あのアイディオンの異能は『幻影を生み出して人に信じさせる異能』か、それに準じたものです。それを破る方法は簡単です、あのアイディオンが今までに行ったことが全部『幻影』だったと見破ることなんです!」

 理解が及ばない人たちが顔を見合わせてざわめき始める。

 それに被せるように、ひたすら説明を重ねていく。

「今、皆さんは『アイディオンによって街が破壊された』、『アイディオンによって怪我人が出た』というように認識しているはずです。でも、それは全部『嘘』でしかありません!実際は街は破壊されておらず、怪我人も出ていません!皆さんはアイディオンに騙されていたんです!……でも!安心して下さい!」

 安心させるように、安心させるように、と意識して、笑顔を浮かべる。

 達成感とか、希望とか、そういうもので満たされた笑顔を意識して浮かべる。

 声もそれに合わせて明るく。でも、微妙に疲れが出ていてもいいだろう。俺は『真実を伝えるために必死にここまでやってきた』のだから。

「今、皆さんが『アイディオンがやっていたことは全て幻影だった』と認識することで、アイディオンが掛けた幻影は全て消えます!全部元通りです!アイディオンも無力化されてすぐ倒されるでしょう!」

 若い世代ほどすぐに認識してくれる。

 一部からは早速歓声が上がる。

 まだ理解できていない人達に向けて、まだ説明を重ねる。

 とんでくる質問に1つ1つ答える。

 それはどこまでも俺達に都合が良くて、どこまでも明るい『嘘』である。

 ……だから、それが真実として浸透するまでに、そう時間は掛からなかった。




 正直、アイディオンの異能について、確証は無かった。

 本当に『嘘』の異能だったとしたらそれで説明は通るけれど、逆に、本当に『鉄壁の防御と多彩な攻撃』の異能だったとしても、説明は通るのだ。

 或いは、もっと別な何かだった可能性もある。

 つまり、アイディオンの異能が『嘘』の異能だという決定的な証拠はどこにもなかった。

 それでも俺がそう判断した……いや、そう『判断したと伝え、行動した』理由はただ1つ。

 アイディオンの異能がどんなものだったとしても、俺の異能は『嘘』の異能だからだ。

 ……アイディオンの異能が『嘘』の異能なら、人々の誤解を解くだけで突破できる。

 逆に、そうでなかったとしても、俺の異能で、『アイディオンの異能は嘘の異能』という『嘘』を信じさせれば同じことなのだ。

 アイディオンの異能がどんなものだったとしても、俺が人々に説明することで、アイディオンの異能は『嘘』の異能になる。

 そして、それを突破する方法も、多くの人が信じてしまえばそれが真実になる。突破できる。より多い人数に信じさえして貰えれば、幾らでも。

 だから俺はより多い人数がいるであろう総合体育館の方に行き、ヒーロー達に伝えるのは桜さんに任せた。

 全ては俺が『嘘』を破る、という『嘘』の為。

 ……勿論、その時俺が払うコストは相応な物だろう。

 だから、賭けだった。

 どのタイミングでコストを支払わされるかは分からなかったし、下手なタイミングで寝てしまったらこの『嘘』は届かない。

 また、この『嘘』が失敗したら、俺達は1つ切り札を失う事になるのだ。

 ……端末が鳴る。

 古泉さんからだ。

 ……なんの報告だろうか。

 いや、俺に連絡する暇があるって事だから、交戦中じゃない。なら、間違いなくいい報告なんだろう。

 その報告を聞きたかったけれど、端末に手を伸ばしたところで、ぶつり、と意識が途切れた。




「また来たの?暇なのね」

 目の前に、女の子がいた。

「来たくて来てる訳じゃないんだけどね」

「それでも来てるじゃない」

 怒っているのか、馬鹿にしているのか。

 どちらにせよませた表情を浮かべて「しょうがないんだから」と口をとがらせる女の子に、俺としては苦笑するしかない。

「ねえ、ねえ、前、あなたの願い事、聞いたよね」

「聞かれたっけ」

 ぼんやりする記憶の中を手繰っても、あちこちに霞がかかったようで何もはっきり思い出せない。

「聞いた。そしたら、『内緒』って!」

 そう言われれば、そんなやり取りをしたような気もする。

「だからね、考えてみたの!あなたが何を願うのか」

 女の子の炎色の目が、俺を射竦める。

 どこまでも真っ直ぐで透き通って優しくて柔らかくて鋭くて容赦がない。

 そんな目で俺を見て、女の子は、それを口に出した。

「『世界が自分の思い通りになりますように』」

 一瞬、無機質にすら聞こえる無邪気な声に、どきりとする。

 無邪気だからこそ、性質が悪い。

「違う?」

「身に余る願い事は考えてないよ」

 思わず女の子から目を逸らすが、女の子は追いかけるように俺の顔を覗きこんでくる。

「うそつき」

「ああ、俺は嘘吐きだよ」

「知ってる。……そうじゃなきゃ、私が生まれてないじゃない」

 思考が霞に阻まれて追いつかない。

 ただよく分からないまま、女の子が尖らせた口を緩めて、笑みの形に変えていくのを見ていた。

「あなたにとって嫌な事、世界から無くしたいんでしょう?全部嘘だったことにしたいんでしょう?」

 全部嘘だったことに。

「……ああ、そうだ、ね」

 それは、驚くほどすとん、と俺の中に落ち着いた。

 俺が何を望んでいるのか、どうして望んだのか、分かった気がした。

「できるよ」

 女の子の姿が掻き消える。

 そして、それと同時に、俺の肩に柔らかい重みがかかる。

「できる。私が手伝ってあげる。あなたの望みを叶えてあげる。その為に私はいるの」

 耳元で、大人びた声で囁かれる。

 振り返れば、もう、そこには誰もいなかった。




 結論から言えば、Lv100という驚異の超高レベルアイディオンを迎えたにもかかわらず、損害はほぼ0、死者0、という、およそありえない結果になった。

 ……というか、今は『アイディオンのレベルは嘘だった』という事になっているらしい。

『Lv100』は嘘で、本当は『Lv30』だったとか。

 それでも十分に高レベルだが、そちらの方が高い説得力を持つならその方がいい。

 事実、それで3か月と10日経った今日、全く支障は無いのだから。


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