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91話

 昼過ぎに古泉さんが起きてきて、昼食を簡単に摂った後、ヒーロー達の招集が行われた。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。……緊急の招集にも関わらずこの速度で集まったって事はやっぱりどこも閑古鳥、ってことだよなぁ」

「馬鹿言え、お前らと『スターダスト・レイド』がやばそうだ、って聞いて待機してたんだよ」

「依頼が無いことを待機って言うのはどうかと思うけどー」

 冗談を言い合いながらも、全員の視線は床に向けられている。

 やっと捕まえた、今回の元凶とも黒幕とも言える連中だ。もう逃がす気が無いのはどこも同じだった。


「さて、本日の議題はお分かりの通りかと思うが、こいつらの処遇についてだ。ヒーロー協会に突き出すのかどうか、或いは私的制裁を行うか。どういう処遇にすべきか意見が欲しい」

 古泉さんが発言を促すと、早速ヒーローの1人が手を挙げた。

「ぶっ殺して死体をヒーロー協会に突き出す」

「その心は」

「これ以上何かしないとも限らないだろ、早めに殺しとくに限る」

 成程、これ以上の被害拡大を防ぐための最善策だろう。

「それ、罰する事にはならないんじゃないかな」

「罰するっていうんだったらぶっ殺す時にぼこぼこに伸してやればいいんじゃねえの。というか、殺すって事自体が罰になると思うんだが」

 いや、間違いなくそうなんだけれど。

 ……なんというか、それは違う気もする。

 殺す、というのは、ある意味永久の極刑なのだから、罰としては最上かもしれない。

 けれど、そこに意味を求めるなら、殺す、という手段は罰というより処理に近い。

 だから、それはなんだか違うんじゃないか、という気がしてくるのだ。

「殺さないとなると、管理が面倒だぞ」

「ヒーロー協会に任せちゃうのも手ではあるけどねぇ」

 しかし、具体案となると、特に何も出てこないのだ。

「『スターダスト・レイド』のヒーローはどう思う」

 古泉さんが促すが、彼らもどうしていいか分からない、という状態らしい。

「罰とかは置いておいても、一発ぶん殴ってやりたくはある。でも、それは俺達個人の問題であって、それとは別にきちんとした制裁があるべきだと思う」

 個人的な恨みと、罰は別、ということらしい。

 多分、俺もその感覚に近い。

 ……これは、どうなんだろうな。

 恨みを晴らすための口実として正義を持ち出したいだけなのか、個人的に恨みを晴らす度胸が無いのか。

 それとも、俺達はわきまえている、という事なのか。

 ……でも、どんな理由で、どんなことをするにしても、どんな意図がそこにあるとしても、それを選択するのは俺達で、こいつらはそれを選択されるだけの事をしてしまったのだ。

 それは、俺の中で変わらない事実である。


「他に意見がある人は?」

 詰まった議論を動かすべく、古泉さんが促すと、桜さんが綺麗に真っ直ぐ手を挙げた。

「ソウルクリスタルを、砕けばいいと思う」

 そして、やはり桜さんは、そう言うのだった。


「ソウルクリスタル、っつったって、こいつらにソウルクリスタルがあるのかよ?」

「無いものは砕けないんじゃないか?」

 そしてやはり、午前中に俺達の間で出た反論が飛び交うが、桜さんはもうそれに答えを準備していたらしい。

「無ければ作ればいい。……うちのヒーローの中に、それができる人がいるから」

 ……そして、桜さんはじっと俺を見る。

 ああ、うん……成程。

 確かに、そういう嘘を吐けば、可能か。

 問題は、それのコストがどの程度な物なのか、という程度だけれど……こればかりは何とも言えない。

 ただ、多分、寝ている期間は27日よりは少なくて済むだろう、というような気はする。

「できるのか?」

「できます」

 ここで否定したら、できることもできなくなってしまうのでとりあえず肯定する。

「……そういえば、俺達のソウルクリスタルを治す手段を用意してくれたのも、君だったか」

「ああ!砕けたソウルクリスタルを復元できたのって、その人の異能だったんだ!」

「あ、違います!違うんです!」

 しかし、俺の異能を『ソウルクリスタルをどうこうする異能』だと勘違いされたら、本当に俺の異能がそういうものになってしまいかねないので、そこは否定する。

 異能が変わってしまったら、ソウルクリスタルを作れなくなるだけじゃなくて、『スターダスト・レイド』のヒーロー達の命まで危ないのだ。

「俺の異能とは別なんです。詳しく話せないんですけれど、とりあえず今は、こいつらのソウルクリスタルを作り出す手段がある、ってだけにしておいてください」

 あくまで申し訳なさそうにそう言えば、皆それで納得してくれたらしい。話の分かるヒーロー達で良かった。

「つまり、俺達が議論すべきは、こいつらのソウルクリスタルを砕く、ということの是非だけだな。……俺はいいと思うぞ。一度ソウルクリスタルが一部分とはいえ砕けた身としては、あれこそ罰として相応しいと思う」

 そう言ったのは、『マーブル・ウォール』だ。

 ……彼はソウルクリスタルの一部が砕けて、それでも尚ヒーロー業を続けているヒーローだ。

 ソウルクリスタルが砕ける、という事は、古泉さんに言わせれば『心が折れる感覚』なんだそうだ。

 ……恭介さんは全くそんなこと無かったみたいだけれど。恭介さんの場合、折れた心が、いわゆる心のマイナス面だったんじゃないだろうか。

「ヒーローでも無い人のソウルクリスタル砕いて、何かになるんですか?」

「ああ。ソウルクリスタルは俺達の意志そのものだ。砕けるとな、心が折れるような、凄まじい絶望感とか、虚無感とかに襲われるぞ。俺の時はヒーローになろうと思った時の心がぽっきりいく感覚だったな」

 経験者の話に全員が耳を傾ける。

 重みが重みだし、もしかしたらこれから先、俺達が味わうかもしれないものの話とあり、ヒーロー達は神妙な顔でそれぞれ何かを思っているらしかった。


「……ただ、こいつらのソウルクリスタルを砕いてもそうなるか、と言われると微妙じゃないか?こいつらに『折れて痛い心』があるとは思えないんだが」

 そして、『マーブル・ウォール』がそう桜さんに問いかけ、桜さんは俺を見た。

 ……はい、なんとかします。

「それでも、野望はあるはずです。そうじゃなきゃ、アイディオンと手を組む、なんてことはしないと思うし。……それほどの行動力になった意志なら、折れれば相応のショックはあるでしょう。それに、そういう心が折れてしまえば、もう悪さもしないでしょうし」

 こいつらが何を思ってヒーロー達を犠牲にしたか、と言ったら、多分、金の為だ。

 しかし、何故アイディオンと組んだのか、と言ったら多分、金以上の何かの為だ。

『ポーラスター』や『スターダスト・レイド』のヒーロー達への復讐か、権力への渇望か。

 そういった心でこいつらは行動していたわけで、それがいきなり折れたら、こいつらはまともに立っている事すらできないんじゃないだろうか。

「成程な。……どうだ、とりあえずこれで一回、やってみないか。それで失敗するようだったらまた考えようじゃないか」

「とりあえず1人だけやってみて、ってことにしようよ。ほら、それの影響で廃人になられたら罰がそれこそ死刑しか無くなっちゃう」

 ……と、まあ、こんな具合に、『ミリオン・ブレイバーズ』の連中の処遇が決まったのだった。




「じゃあ、早速やってみてくれないか」

 ということで、早速それが始まった。

 俺は俺が吐いた嘘が十分に効果を発揮している事を信じて、足元に居る『ミリオン・ブレイバーズ』の残党の1人に手を翳す。

 ……そして、まずは光だ。それっぽい方がいい。

 それから、形を決めなきゃいけないけれど、それはできるだけ俺が決めたくはない。

 だから、色とりどりの光が一点に集まって凝集していく様子をイメージして、幻影を動かしていく。

 そして、その光の中で石の輪郭を作り出すのだ。

 色とりどりの光に覆われたそれに、はっきりした色も形も定めない。

 けれど、それは段々と形をとるようになり、最終的にはビー玉位のサイズの石になって、俺の手の上に落ちてきた。

「おー、それがこいつのソウルクリスタルか」

 俺達のソウルクリスタルの半分程度の大きさしかないそれは、俺達のものとも、アイディオンのものとも違う雰囲気を持っていた。

 むしろ、これを見て、俺達のソウルクリスタルとアイディオン達のソウルクリスタルは似ているんじゃないか、と思わされる、というか。

「解析するのも無粋かな。……じゃあ、早速だが、砕こう。『エレメンタル・ナイト』。やってくれるか」

「はい。勿論」

 そして、何が起こるのかも分からずただ恐怖する『ミリオン・ブレイバーズ』社員を一瞥すると、『エレメンタル・ナイト』はそのソウルクリスタルに強い火をぶつけた。


 ぴし、と音がしたのは、そのソウルクリスタルが割れた時の音だったのか、それとも。


「全員伏せて!」

 突如、桜さんの鋭い声が響き、咄嗟に俺達は身を低くする。

 その次の瞬間、窓ガラスが割れ砕け、その側を何かが猛スピードで通り抜けていくのが一瞬、見えた。

 それと同時に来るであろう暴風に身構えるが、それはいつまで経っても訪れない。

 見れば、俺達の中でただ一人立っていた桜さんが小さく息を吐いて構えを解いた所だった。

 風を操って被害を留めたらしい。

「ありがとう。助かったよ。……けど、あれは……」

 桜さんが割れた窓ガラスを踏まないように、宙に浮いてバルコニーへ出て、辺りを見回す。

 そして、一気にその表情を変えた。

「街に、アイディオンが!」

 その言葉を理解するより早く、全員体が動いた。


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