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88話

「真君。どうだった」

 古泉さんが待ちきれない、というようにソファから腰を浮かせる。

 ……実質、殆ど何も収穫が無いようなものだ。

 だけれど、ここで一歩間違えたら、俺達はきっと死ぬことになる。

 だから、俺はこう報告するしかない。

「こいつが使った異能は『フィールド内の人を全員仮死状態にする異能』だったみたいです」


 ここで俺が『フィールド内の人達を全員殺す異能』なんて言ったら、今、俺の『嘘』で生きている『スターダスト・レイド』の人達がどうなるか分からない。

 なので、俺は真実について黙っていざるを得ない。

「使用者も含めて仮死状態にする異能だったみたいですが、箒山は異能の実態を知らなかったみたいです。騙されて使わされたみたいで」

 ここは間違ってない。箒山は実際、異能が何なのか知らなかっただろう。

 知っていたらきっと使わなかっただろうし……もし知っていたとしても、実際に今箒山は『生きている』のだから、知っていた情報が誤りだったと考えるしかないはずだ。

「つまり、騙して使わせないといけないような代物だった、って訳か。仮死状態、ね。……フィールド内の人間を全員仮死状態に近くする、となると、使用者が払うコストもそんなものか。……『ミリオン・ブレイバーズ』の他の連中はもしかしたら箒山を殺すつもりで使わせたのかもな」

 古泉さんの言葉に、一瞬背筋が凍る。

「実際、俺達が間に合わなかったら『スターダスト・レイド』のヒーロー達は死んでいた可能性が高いしな」

 ……も、杞憂だったらしい。

 やはり、『現状』は強い。

 現状、『スターダスト・レイド』のヒーロー達は助かっているのだ。

『現状』から逆算して、『フィールド内の人を全員殺す異能』だったと考えることは難しい。

『フィールド内の人を全員仮死状態にする異能』だと信じる方が簡単で、筋が通る。よって俺の『嘘』は崩れない。

 ……或いは、古泉さんの事だから、何か気づいていてもおかしくは無いけれど。

 けれど、こうしてふるまってくれている以上、俺は藪蛇にならないようにするのがベストだろう。


「相手はソウルクリスタルを量産できる手段を持っていた訳だ。また同じ手を使われないとは限らない。対策が必要だな」

「一番いいのは俺達がフィールド展開しとくことだろ?」

 コウタ君とソウタ君がフィールドを展開しておけば、相手が同じ異能を使って来た時に相殺されるだけで済む。

「フィールド系が3つ以上来た時にどうなるのか分からないんだけどね……」

 相手はソウルクリスタルを量産できる。

 それは、何度でも同じ異能を使ってくる可能性と同時に、同時に複数の同じ異能を使われるという危険性でもあるのだ。

「実験してみたい所だが、そんな暇も材料も無さそうだな。これ以上連中に逃げ続けられるわけにはいかない」

「桜には悪いけど、すぐ出た方がいいかもね。あーあ、最近私、活躍できてないしなー、頑張んなきゃ」

「俺も実戦投入ですか」

 ……もし、同じ手を使われて、それに俺が巻き込まれたら今度こそ何もできないだろう。

 また、俺が巻き込まれなかったとしても、死んだ人を生き返らせる……いや、『死ななかった事にする』為には、嘘を信じてくれる人が必要なのだ。

 そして何より怖いのが、今、『スターダスト・レイド』のヒーロー達が生きていると信じている(と思いたい)『ポーラスター』のメンバーが、うっかり真実を知ってしまう事だ。

 真実を知らなかったとしても、嘘に疑いを持ってしまったら、それだけでもう『スターダスト・レイド』の命に関わる。

 ……俺達が信じている間は、彼らは生きている。箒山が使ったソウルクリスタルは、『フィールド内の人を全員仮死状態にする異能』だったことになる。

 そのバランスを崩さずに『ミリオン・ブレイバーズ』の残党を全員捕まえる、なんて、できるだろうか。

 ……俺なら相手の異能がどんなものかもう分かっている。対処もそこそこにできるだろう。少なくとも、『フィールド内の人を全員仮死状態にする異能』だと思っていたら突然『フィールド内の人を全員殺す異能』と戦う事になった、なんてことは避けられる。

 ……俺だけでなんとか戦えるようにすべき、だろうか。

「古泉さん」

 真実を言う訳にもいかないし、相談もできないし……どうしたものか、と悩んでいたら、桜さんが声を上げた。

「この作戦、私と真君にやらせてほしい」




「……それは真君の異能に関わることか」

「そう」

 桜さんが頷くと、古泉さんは眉根を寄せる。

 そして、少し考える素振りを見せて……すぐやめた。

 古泉さんの事だ、考える事自体が俺の異能を破ってしまう可能性に思い至ったんだろう。

「真君。君も、そうした方がいいと思うか」

 だから、代わりに、俺にそう尋ねてきた。

 ……考える。

 俺と桜さんだけで挑むことの最大のデメリットは、戦力の不足だ。

 桜さんは、1対1、制限時間なしの状況なら、ほぼ必ず勝てると言ってもいい。

 火力こそ低いものの、100%の命中率、100%の回避率は伊達じゃない。

 また1対1じゃなくても、戦力差があれば十分に多数相手でも戦える、らしい。

 ……けれど、今回は相手の手の内が分からない以上、できるだけ速攻で制圧してしまいたい。

 時間をかける訳にはいかなくて、となると、桜さんの異能は相性があまり良くない。

 ……いや、それでも、生身の人間相手なら投げナイフ1本で動きを止めること位できるんだろうけれど。

 けれど、相手が回復系のソウルクリスタルを持っていない訳が無いし、『戦闘不能』にするには少し足りない。

 今回みたいなケースで一番有効な攻撃は……多分、茜さんのキスだ。

 寝かせてしまうなりなんなりすれば一瞬で『戦闘不能』だ。

 いや、そういう状態異常系に対して対策がある可能性もある訳だけれど……。

 単純な火力や人手だけでなく、戦力の多様性が失われる、という事もデメリットか。二重三重の対策を潜れる可能性がどんどん少なくなる。

 けれど、常に一瞬先が見える桜さんと、ある意味で多様性なら他に引けを取らない戦い方ができる俺だ。

 少なくとも、他のメンバーと組むよりは余程勝率があるだろう。

 桜さんなら、一瞬先に死が見えたら動けるだけの能力があるだろうし、一瞬前に動けるような準備をしておけばより安全だ。

 そして、あとは俺がなんとかすればいい。

 というか、そうするしかない。

『スターダスト・レイド』のヒーロー達の命、そして、『ポーラスター』のメンバーの命の危険を減らす為だ。この程度、何とでもしてやる。

 ……そして、『信じさせる』ことについては、非常に使い勝手のいい道具がここにはあるのだから、それを有効利用すればいい。

「古泉さん。俺と桜さんと……箒山を連れて行きます」

 間違っても、人質には使えないだろうけれど、そういう意味でなら十分箒山は価値がある。




 場所は『ウェブ・センス』の異能で分かったから、すぐに向かえた。

 桜さんはいつも通り風に乗って空を飛び、俺はきっちり拘束した箒山を抱えてシルフボードを走らせる。

「真君、もし何か見えたらすぐに動かなきゃいけなくなるかもしれないから……できるだけ、私の側を離れないで」

「分かった。俺は、初手で相手の異能を全部封じるフィールドを展開する。不意を突けばいけると思う。それから……もしかしたら、桜さんも俺の異能に巻き込むことがあるかもしれない。その時は……ええと、深く考えないで」

 お互い、打ち合わせできることがあるとしたら、この程度だ。

 後は、なるようになると思うしかない。


『ミリオン・ブレイバーズ』のオフィスは今、廃ビルと化している。

 街の中心部にあるにもかかわらず、人が出入りすることも無ければ、見向きされることも無い。

『ミリオン・ブレイバーズ』の罪科を示すように、そこにただ存在しているだけなのだ。

 そして、中心街からでは無く、そこから一本、路地裏に入った所。

 丁度オフィスビルの裏に回り込む道の先にあるマンホールの中に、その空間は存在していた。

「……懐かしいような気がする」

 尤も、ここを移動用シャトル抜きで移動する事なんて初めてなのだけれど。

「真君は、ここにいた、んだもんね」

 そこは、俺が『ミリオン・ブレイバーズ』に居た時の、居住区だった。


 一度、徹底的に監査の目が入った場所だが、だからこそ、今は捨て置かれている。

 何かの証拠になりそうな品は押収された後だろうが、しばしの隠れ家にはなるだろうし、もしかしたらここに来て移動用のシャトルや、他の何か……足になりそうなものを取りに来たのかもしれない。

「なんだか皮肉だな」

 思わずそう言ってしまえるのはここで決着をつける自信があるからだ。

 ここが奴らの終点だと、素直に今、俺はそう思えていた。


 迷いなく進んでいくと、人の気配が感じられる部屋の前に来た。

 がさがさ、と音がするのは、食料でも漁っているのかもしれない。

 俺と桜さんは無言で頷きあって、一気に中に入る。

「動くな!」

 俺が中に入ると、中にいた5人ほどの人がぎょっとした。

 そして、すぐに懐に手を入れる。何かのソウルクリスタルを使おうとしているんだろうけれど、遅い。

「フィールド展開!お前たちが使う異能を全て封じる!」

 そして、相手が何かするより先に、幻影を一気に広げて、何も無い、真っ白な空間を作り出す。

 いくらソウルクリスタルがあって、無限に、ありとあらゆる異能を使えたとしても、使うために動けなければ、意味が無い。

 異能があっても、それを使いこなせるとは限らないし、こいつらの場合、そもそも使えるとも限らないのだ。


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