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87話

「……なら、後はこいつから聞いた方がいいでしょうね。……お、真君。もう大丈夫なのか」

 古泉さんが俺に気付いて、手招きする。

 そして、ジェスチャーで耳を貸すように指示され、従うと、声を潜めて耳打ちされた。

「真君、今からそこに転がってる『ミリオン・ブレイバーズ』の社員から話を聞こうと思ってるが、『スターダスト・レイド』のヒーロー達は居ない方がいいか?」

 声を出さずに頷くと、古泉さんは少し考えて、続けた。

「俺もいない方がいいだろうか」

 ……どうするか、考える。

 俺の『嘘』を信じている人と、真実を知っている人のバランスは……うん、危険だ。

 逃げた『ミリオン・ブレイバーズ』の残党がどのぐらいいるのかは分からないが、状況によってはそいつらが真実を知っている可能性もある。

 なら、1人でも多く、この場にいる人たちには『嘘』を信じていてもらわなきゃいけない。

「はい。俺だけで、できれば」

「そうか……しかし、こいつも今こそ何もしないが、タイミングを見計らって何かやらないとも言えない。真君1人じゃ危険じゃないか」

 それは分かっている。

 けれど……ああ、うん。じゃあこうしよう。

「耳栓を付けた桜さんに同席してもらいます」

 桜さんなら、一瞬先の未来が見えるから、音声が聞こえていなくても有事の際にはすぐに反応して対処してくれるだろう。

 それに、桜さんは隠された真実こそ知らないものの、『嘘』が『嘘』だと知っている。

 適任だろう。

「そうか、分かった。じゃあ、桜ちゃんが帰ってき次第、やってもらうよ。場所は……ここだとアレだな。1階の空き部屋、使ってくれ」

「桜さんが帰ってくるまではここに転がしておいていいですか?見張りは多い方が安心できるので」

 うっかり運んで、俺の目しかない時に逃げられでもしたら事だ。

「ああ、分かった。……ま、床に転がしておく分には多少邪魔な程度だしなぁ」

 ここに居るのは、『ポーラスター』と『スターダスト・レイド』のヒーロー達、そして、『ミリオン・ブレイバーズ』の職員らしい1人。

 ……単純に、アイディオンと繋がっていた、とか、アイディオンを街に侵攻させた、とか、罪の無いヒーローの卵たちを使い捨てにして見殺しにした、とか、ソウルクリスタルを加工していた、とか、そういう点で、『ヒーローとして』……いや、『人間として』許せない部分は大いにある。

 が、個人的な恨み、となると『ポーラスター』は、俺が直接ちょっとお世話になった程度だし、それがきっかけで俺が『ポーラスター』に来れた訳だからそこまででもない。

 しかし、『スターダスト・レイド』は、全員が元・『ミリオン・ブレイバーズ』のヒーローだ。

 つまり、ソウルクリスタルを合成されたり、家族や借金を盾に従わせられていたりしていた訳で……その恨みは相当な物だろう。

 話を聞くまでは手出しできない、という事で何もされていないが、もし用済みとなれば、この職員が相当な目に遭うであろうことは簡単に想像できた。


「ところで、仁田はどうしたんですか?」

 なんとなく気になって、『エレメンタル・ナイト』に聞いてみる。

 金鞠さん達がいた研究所に攻め込んだ時に捕らえた『ミリオン・ブレイバーズ』関係者だが、今は『スターダスト・レイド』に預けてあったはずだ。

「ああ、あれなら普通に生かしてます。言いたいことは言いましたけど、暴力はまだですね。まだやらせなきゃいけないこともあるかもしれないし……全員捕まえたらその時考えればいいかな、と」

「それでこいつ以外に逃げられたんだから本当に情けないよ。……ごめんなさいね。その代わりと言ったらなんだけれど、場所は分かるようにしてあるから」

 隣にいた女性……『ウェブ・センス』が、俺に糸のようなものの端を持たせた。

 ……すると、途端に分かるのだ。

『ミリオン・ブレイバーズ』の残党が辿った場所、今どこに居るか、今、何をしているか……。

「やられる前にね、なんとか糸を繋げたの。まだ気づかれてないみたいだから、暫くはこのままでも捕捉できる」

 成程。念のため、古泉さんや茜さんにも糸の端を持ってみてもらう。

「おー、成程ね。そっかー……どうする?叔父さん、もういっそヒーロー全員で押しかけて行って御用する?」

「いや、どういう手で『スターダスト・レイド』のヒーロー達がやられたか分からない以上、あまり迂闊に動くのもな」

 ……なんにせよ、桜さんが帰ってきて、情報を聞き出してから、という事になりそうだ。




「ただいま」

「あ、桜!お帰り!早速で悪いんだけど、これ付けて、真クンがこいつ尋問するの、見張っててくれる?」

 早速も早速だし、碌な説明でもないのに、桜さんは1つ、こくん、と頷くと、鞄を茜さんに預けて耳栓を付けた。

「あ、じゃあよろしく。……ごめん、俺1人だと何かあった時に対処できなさそうだから」

 桜さんにそう言ったものの、桜さんは耳栓を付けていたため聞こえていない。

 聞こえていないはずなんだが、なんとなくニュアンスは伝わったらしい。こくん、と桜さんは1つ頷いた。




「さて、じゃあ聞きたい事を聞かせてもらうぞ」

 桜さんと一緒に、『ミリオン・ブレイバーズ』の社員を担いで部屋に入る。

 桜さんは黙ってドアの鍵を内側からかけて、俺の後ろに黙って立つ。

『カミカゼ・バタフライ』の名は知れている。そして、その必勝ぶりも。

 桜さんが変身して黙って立っているだけで、『カミカゼ・バタフライ』を知るものには凄まじいプレッシャーとなるのだ。

『ミリオン・ブレイバーズ』の社員は、怯えているのか大人しい。

 猿轡を外して喋れるようにしても、文句を言ったりする元気は無いらしかった。

「じゃあ、とりあえず名前から」

「箒山……」

「ソウヤマさんね。まずはこれを付けてもらう」

 とりあえず、茜さんに借りたおもちゃの手錠(おもちゃの割に矢鱈リアルなんだけれど、というか、なんで茜さんがこんなもの持ってるのか気になるんだけれど、それは置いておいて)を箒山の手にかける。

「これが付いている間、異能は一切使えない。使い捨てのソウルクリスタルですら発動できないから諦めるんだな」

 一応、身体検査して、ソウルクリスタルの類を隠し持っていないかは確認してあるみたいだけれど……例えば、体に埋め込んである、とか、そういうレベルになるとどうしようもないのでこういう措置を取った。

 やっぱり、安全を期すに限る。


「……じゃあ、とりあえず、お前が使った異能は何だったのか、『スターダスト・レイド』のヒーロー達がお前の所に来てからどうしたのか、他の連中はどこに居るのか、あたりかな。全部吐いてもらう」

 俺の得意技である、火の幻影を指先に灯す。

 最初に信じてもらわなきゃいけないから、まずは遠く離れた位置で火を出すに留める。これを近づけてやるのはその後だ。

「まずは、異能についてだな。……ソウルクリスタルの使い捨てか?お前の自前の異能か?」

「俺のじゃない!これを使え、って、渡されて……」

「効果は?」

「分からない。……最強の異能だ、って聞いていた……でも、使ったら急に胸が苦しくなって、それきり、何も……気づいたらもうここに転がされてたし……」

 ……一応、あの状況から考えて、こいつも一度死んだ、と考えられる。

 俺の異能で生き返ったにしろ、とりあえず死んだ、と。……そう考えると、あまり気分の良くない話が浮かび上がる。

 多分、異能自体はフィールド系で……その場にいる人を、自分を含めて全員殺す、というような、そういう異能だったのではないだろうか。

 つまり、こいつは騙されて自爆させられたのだろう。それなら、他の連中が逃げているのも分かる。

「『スターダスト・レイド』のヒーロー達と会ってすぐにソウルクリスタルを使ったのか」

「あ、ああ。使うなら早い方がいいだろうから、って……」

「何故その『最強の異能』のソウルクリスタルは他の奴じゃなくてお前が使った?」

「俺が一番若かったから、体力がある方がいいだろう、っていうことで……俺が」

 成程、一番切りやすい尻尾だったわけだ。

「あの、これから俺は……どうなるんだ?」

「それは俺が決めることじゃない。他の『ミリオン・ブレイバーズ』の奴らはどうした」

 ここにきて今更言いよどんだので、指先の火を大きくして、ほんの少し近づけてやると、慌てて喋り出した。

「知らないんだ。俺が足止めして、追いかける事になってて……その……やっぱり、俺、置いて行かれたのか……」

 ……落ち込むにしろ、それこそ今更じゃないんだろうか……。

「お前が使ったソウルクリスタルは他にもあったか?」

「知らない。ソウルクリスタルの管理をしていたのは本那さんと札場さんだったから……」

「他にどんな種類の物があった」

「本当に知らないんだ。前、瞬間移動する異能のソウルクリスタルと、衝撃波を出すソウルクリスタルは使った事があったけれど……」

 ……これ以上は無駄か。

「そうか。また聞くことがあるかもしれないがこれでとりあえず終わりだ。寝てていいぞ」

 シャボン玉を意識して、紫色の幻影を出してぶつけると、なんと、説明するまでも無くそれだけで寝てしまった。

 こいつ、思い込みが激しくないか。いや、騙す側としては楽でいいんだけど……。

 ……だから、仲間にも騙されたんだな、多分。


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