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84話

 恭介さんが受けたダメージはアイディオンにもそっくりそのまま与えられる。

 そして、アイディオンが奇しくも恭介さんの異能をコピーして咄嗟に使ってしまった為に、アイディオンが受けたダメージは恭介さんにそっくりそのまま与えられることになる。

 そしてそのダメージはまたアイディオンへ。

 それはまるで合わせ鏡のように。

 ……恭介さんの力はそんなに強くない。

 一撃でソウルクリスタルを破壊できるレベルの身体能力は持っていないが……合わせ鏡の様になってしまった異能によって、一瞬で数百、数千もの刺突がそれぞれのソウルクリスタルを攻撃することになったのだ。

 一度突いただけではなんともならなかったであろうソウルクリスタルは、それによって破壊されることとなった。




 初めて、ソウルクリスタルが破壊されるところを見た。

 砕けたそれは情緒も無く、ただばらばらと地面に落ちて、光になって消えてしまう。

 〈ば、馬鹿なっ!貴様、正気か!?〉

 アイディオンは地に膝を付いて、がたがたと震えている。

 無理もない。ソウルクリスタルの破壊は異能の破壊。俺達ヒーローにとっては、ヒーロー人生そのものの破壊なのだ。

 アイディオンにとってもそれは同じだろう。

 しかし、恭介さんはそんなアイディオンとは対照的で、至極あっさりとした表情を浮かべているだけだった。

 軽く胸を押さえる程度で、眉ひとつ動かさない。

 〈何故、貴様は……己の魂を砕いて、平気でいられる!?〉

 恭介さんはアイディオンに答えず、手を握ったり開いたりして不思議そうな顔をしている。

 〈……ば、けも、の……め……〉

 ソウルクリスタルを失ったアイディオンは倒れ、光となって消えた。


「恰好、多少はつきましたか」

 恭介さんが振り返るや否や、茜さんが飛び出して行ってタックルをかますように恭介さんに抱き付く。

 そして恭介さんは吹き飛ばされることなく茜さんを抱き留めた。

 ……。

 茜さんに吹き飛ばされることなく、抱き留めた。

「……おーい、とりあえず進むぞ。あまり時間をかけて逃げられても癪だ」

 なんとなく納得がいかない光景に全員で首を傾げながら、とりあえず俺達はその場を後にすることにしたのだった。




 奥へ進んだ所にあった記録端末らしきものや、人造ソウルクリスタルを回収した所で、他の事務所のヒーロー達もやってきた。

「奥で繋がってたみたいだな。そっちはどうだった」

「ま、無傷とは言えんがなんとかなったさ」

「そちらにも高レベルのアイディオンは出ましたか」

「うん。出た出た」

 合流してお互い無事を確認した後、回復が必要な人には茜さんがキスして、最深部の探索を行った。

 記録端末の類や人造ソウルクリスタルを一通り回収して、その後は抜け穴等を探す。

 残党狩りに来たのにまた逃がしたら意味が無い。徹底的に探して、抜け穴や残党がもう無い事を確認して、俺達は脱出した。

 基地を爆破で潰してもらって、これで一段落、という所か。

 回収したものの解析は他所が任されてくれるらしいので、あとは俺達で片付けることを片付けるだけだ。




「早速『他人のソウルクリスタルで変身できるカルディア・デバイス』試してきます」

 事務所に戻るや否や、恭介さんは部屋に閉じこもった。

 ……本人のソウルクリスタルが破壊されたことで干渉が無くなり、使えるようになるだろう、ということだったので、恭介さんは帰り道の間もずっと静かににやにやとしていた。

 多分、内心はしゃいでたんじゃないだろうか。いや、分からないけれど。

 一応、俺達全員徹夜で朝帰りなんだから、まずは寝て欲しいと思うけれど……まあ、しょうがないか。

 そんな恭介さんを見送って、俺達はというと、金鞠さんとロイナを交えて机を囲んでいた。

 寝るのはこの話の後でも十分だろう。


「金鞠さん。依頼の中間報告をさせていただきます。とりあえず、あなたが居た研究所は分室も含めて爆破してきました。中にいたアイディオンは掃討済み、研究員は救助済みです。中にあった情報類や人造ソウルクリスタルの類は回収済みです。そして、『ミリオン・ブレイバーズ』の職員については1人確保。他は今、別の事務所が担当しています」

『スターダスト・レイド』からまだ連絡は無いが、その内連絡が来るだろう。

 そっちの処理も終わったら、金鞠さんとロイナの護衛1週間、の為にあと4日、俺達は彼女らを守るだけだ。

「一応お伺いしておきますが、1週間が終わったらお二人はどうするつもりですか」

「目立たない所で部屋を借りて、暫くは身を隠しておくつもりです。ロイナの教育もあるし……蓄えはそこそこにあるので。……その内、研究に戻りたい気持ちもあるんですけれど、場所が無いだろうし……それは諦めてます」

 金鞠さんの話を聞いて、そうですか、と古泉さんは頷く。

 それと同時に、茜さんにちょっと何か身振りをすると、茜さんは1つ頷いて席を立った。

「それで、部屋のお心当たりは」

「ええと、適当なマンスリーのアパートメントを探すつもりです。中心部から外れた位置で……」

「そうですか。じゃあ、具体的に決定している訳では無い、と」

「はい」

 そこまで聞いて、古泉さんはにっこりした。

「そうですか。もし働くとなったらロイナちゃんの託児も必要ですね。それに、金鞠さんとロイナちゃんの安全がまだ完全に保証されたわけでもない」

 脅すような文句を連ねた後に、古泉さんは身を乗り出した。

「うちの事務所の一階にはまだ空き部屋があるんですよ」




「どーせ俺達閑古鳥だもんな。ロイナの面倒だったら俺達が見るよ。3人居ればダイアモンドゲームできるしサンマもできるし」

「僕、サンマやるぐらいだったら4人揃えたいな……」

「あ、金鞠さんの働く所見つかるまでは面子に入れられるんじゃねーの?金鞠さん、麻雀できる?」

「え?え?あ、あの……」

 コウタ君とソウタ君はゲーム相手としてロイナを気に入っているらしく、古泉さんの提案に金鞠さんより先に喜んだ。

 ロイナもにこにこと笑顔を浮かべて嬉しげにしている。

「いや、金鞠さんの就職口はあるからね?……ね、金鞠さん。ソウルクリスタル研究所で働く気、無い?例の白衣の事もあるし、研究機関に持ってこーと思うんだけど、うちが懇意にしてる所が丁度変なの好きなとこでさ」

 茜さんがそう言いながら恭介さんの部屋から出てきた。

 多分、ソウルクリスタル研究所の日比谷所長と連絡を取っていたんだろう。

 ……或いは、恭介さんの独断かもしれないけれど。恭介さんも日比谷所長と仲がいいみたいだし、恭介さんが大丈夫と言えば大丈夫だろう。

 ……例の、人造ソウルクリスタルに関する研究を書き込んだ白衣。あれは今、古泉さんが管理しているけれど、あれの解析、実践もやるなら、どうせ研究施設に持ち込むなり、金鞠さん1人で何とかできるだけの設備を用意するなりしなければいけないのだ。

 だったら、信頼できる施設……俺達も度々お世話になるソウルクリスタル研究所を頼るのが手っ取り早いだろう。

「うちからソウルクリスタル研究所へ行くためにはちょっとシルフボードに乗らなきゃいけないが……恭介君が安定性の高い奴を作ってくれるだろう、多分。……ということで、どうですか、金鞠さん。寝床と食事、託児所と有事の護衛に今なら就職先もご用意できますが」

 古泉さんがそう持ち掛けると、金鞠さんは少し考えて……1つ、頷いた。

「あの、では……よろしくお願いします」


「1週間の護衛については、『ミリオン・ブレイバーズ』の職員を全員処理した時点で解消ということにさせてください。それから、その、今後もし何かあった時にお願いする護衛に関しては、その都度」

「いーよいーよ。一緒に住むことになったんだし、そういう遠慮なしね!」

 つまり、これからは依頼、という形では無く、お願い、という形で護衛する、と。そういう事になるんだろうけれど。

「え、あの、それじゃあ、『ポーラスター』さんのメリットが……」

 金鞠さんが困惑するのも無理はない。

 金鞠さんは『ポーラスター』で働く訳じゃないし、金鞠さん達にとって『ポーラスター』は大家、という事になるのだ。……他に護衛とか託児所とかも付くけど、大体は、大家。

 だから、タダで部屋を借りる、という事に抵抗がある、という事なのだろう。

「……エルピスライト、の分だから、大丈夫」

 しかし、そんな金鞠さんの言葉に、若干気まずげに桜さんが呟く。

 純度99.9%のエルピスライト。簡単に億単位の値が付くであろうそれを貰ってしまっている以上、むしろ負い目は俺達にある位なのだ。

「……うん。私達さ、ああいうもの貰っちゃって何もしないの、気持ち悪くてさ……」

「割と皆貧乏性ですよね、ここ」

 常にアイディオン狩りの火の車経営だからか、『ポーラスター』は妙に貧乏性であった。

「まあ、それだけじゃない。単純に投資だと思って頂ければ。……これからうちはますますアイディオンに狙われるでしょうし、戦闘の機会も増えていく。その為にソウルクリスタル研究、および俺達のパワーアップが必要不可欠なんです。ですから、もしこれでもまだ気になる、と仰るなら、研究の結果を『ポーラスター』にフィードバックしてください」

 うちにも恭介さんという研究者だかなんだかよく分からない立場の人がいることにはいるけれど、金鞠さんとは分野が違いそうだ。恭介さんは工学寄り、金鞠さんは理学寄りなんだろう。

 ……これから先、俺達がもっと強くなろうと思ったら、俺達が鍛錬を積むか、装備を強化していくか。

 その装備面を金鞠さんにお願いしたい、ということなのだ。

「そういう事でしたら……その、でも」

「エルピスライト……」

 ……結局、金鞠さんは桜さんの気まずげな上目遣いで陥落した。




 早速、金鞠さんをソウルクリスタル研究所へ紹介に行く、という事で、古泉さんと茜さんが金鞠さんと一緒に出掛けて行った。

 念の為、ということでロイナも連れて行く念の入れようだ。

 ……彼女もアイディオンな訳だから、研究の対象になるのかもしれない。

 日比谷さんは真っ当な人だし、金鞠さんもいるから、あまりにも非人道的な類の事はしないだろうし、ロイナの事を考えて行われるだろうけれど。

「……真さん」

 そして、4人が出て行って十数分後。

 恭介さんが部屋から出てきた。

「あ、恭介さん。どうでしたか?変身」

「……できませんでした。……まだなんか、干渉するみたいで……」

 ……ソウルクリスタルを砕く、という暴挙に出たにもかかわらず、恭介さんは『他人のソウルクリスタルで変身』できないらしい。


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