81話
その日の夜、俺達はまた出撃した。
アイディオンの残党狩りである。
「『ミリオン・ブレイバーズ』の残党の方は『スターダスト・レイド』に任せてある。俺達はアイディオンの方だな」
あくまで人間、変身できたとしてもそこまで強くない『ミリオン・ブレイバーズ』の幹部たちに関しては、『スターダスト・レイド』が名乗り出たので彼らに任せることになった。
俺達はアイディオンを倒しに行く。
「この戦いが終わったら俺、全員分のカルディア・デバイス改良するんです……」
「やめて恭介君、死亡フラグ立てないで、お願いやめて」
エルピスライトの入ったペンダントを眺めながら恭介さんが妙ににこにこもといにやにやしているので、茜さんでなくても不穏な物を感じてしまう。
「……うん、恭介君には全員分のカルディア・デバイスを改良してもらう訳だからな、死んでもらったら困るんだからな、恭介君」
「俺もこれを残して死ぬつもりはありません」
心配そうな古泉さんも他所に、恭介さんはひたすらエルピスライトのペンダントを眺めてうっとりしている。
……うん、エルピスライトへの執着がこれだけあればどんなに死亡フラグを立てても死なない気がする。
廃墟になって捨てられたビル街の一角に、それはあった。
最早お約束のように、地下に空洞があり、そこにはアイディオン達の秘密基地が存在していた。
「よくもまあ、こんなに廃墟を開拓したものだな」
人目につかないから、こういう場所の方が何かと都合がいいんだろうけれど、それでも完全に人が来ない訳でもないし、一旦廃墟になってガレキが散乱しているような場所をこうまでするのは骨だっただろう。
一体、どれぐらいの年月がかかっているのだろうか。
……いや、そういう異能でもあるのかもしれないけれど。
そういう、『一瞬で建築する』みたいな異能があるなら、そんなソウルクリスタルが量産できるのなら、是非欲しい。
そうしたら復興も、防衛の為の建築も、あっという間に終わるだろうから。
地下は迷路めいた造りになっていた。
入ってすぐ、道が分岐していた。
「どうする」
「ま、俺達を分断させる為の罠だろうな」
地の利は相手にある。
そして、俺達が攻めてくることも十分予期できたはずだし、どんな仕掛けがあっても不思議では無い。
「えー、じゃあ私達一緒にまとまってた方がいいですかねっ?」
「いや、別れましょう。俺達が罠にかかるリスクもありますが、相手を取り逃がすリスクもある。各事務所も、最悪Lv20後半程度までならアイディオンと交戦してもそこそこの精度で勝てるはずです。どうしても劣勢になったら『瞬間移動』できるんですから」
前回、俺達が廃墟塔の地下に潜った時、アイディオンや、あそこにいた研究者たちが作っていたと思われる人造ソウルクリスタル。それらは全て、俺達の手の中にあった。
特に瞬間移動のソウルクリスタルは使う機会が多いからか、大量に生産されて保管されていたのだ。
俺達全員が2つずつ持っても余るほどの数があったので、まあ、有効利用してしまってもいいか、という結論になったのだ。
……本当だったらこの辺りもまとめてヒーロー協会に提出すべきなのだろうが、如何せん、大手との兼ね合いもあるし、『ミリオン・ブレイバーズ』と他の大手が繋がっていないとも限らない。
よって、俺達はこの件のアイディオンの残党、『ミリオン・ブレイバーズ』の残党を狩りつくすまではソウルクリスタルが人造できるという事実を公表しないことに決めている。
「前回は『ビッグ・ディッパー』ばかり暴れてたし、その前からずっと『ポーラスター』が活躍してるしさー、俺達にも暴れさせてよー」
「そーですそーです、最近『ポーラスター』ばっかりずるいのです」
「もっと狩らせろ」
……何かあっても連絡はできるし、脱出もできる。
そして何より、暴れ足りない、と。
……そういうヒーローらしからぬ声によって、俺達は各事務所ごとに、別の道を選ぶことになった。
そうして、俺達は選んだ道を進んでいく。
道に入って少し進めば、アイディオンとの交戦に……ならなかった。
「静かだな」
「残党が少なすぎるとか?いや、無いよね、そんなの」
「前みたいに最深部に大物が居るパターンでしょうね」
多分、それを予期して恭介さんは今日、付いてきているんだろう。
普通のアイディオンしかいないなら、恭介さんは来ない方がいい。
……本当だったら、大物がいるパターンでも来なくていいのが一番いいんだけれど。
ひたすら進んでいった先で、やっとアイディオンと遭遇した。
〈来たか〉
そのアイディオンは振り向くと、にやり、と笑ったような気がした。
カルディア・デバイスの機能で見て見ると、レベルは22、と表示された。
……戦闘力が低めなんだろうけれど、異能によっては戦闘力なんて要らない訳だから、このレベルも実はあまりあてにならなかったりする。
……ただこの時点で、普通に殴り合いになったら古泉さんが勝てる相手だ、という事は分かった。
「悪いが、お前にはここで死んでもらうぞ、アイディオン」
〈死ぬのはそっちだ〉
前口上もそこそこに、コウタ君とソウタ君が手を取り合って、いつも通り、カジノを出現させる。
「俺達のカジノへようこそ!さ、殴り合いなら思う存分やってくれよな!」
そして、いつもの巨大チェス盤上に俺達は立っていて、突然の変化に驚いたらしいアイディオンが隙を見せたその瞬間、古泉さんが勢いよく拳を叩きこんだ。
勢いよく吹き飛んだアイディオンは白のキングにぶつかって止まった。
間違いなくあれは致命傷だ。
……致命傷、だったはずだ。
古泉さんの拳はアイディオンの腹に突き刺さって、確かに、アイディオンを吹き飛ばした。
……しかし、アイディオンは何事も無かったかのように立ち上がって、そして、その手を握ったり開いたりして、何かを確かめる様な挙動をした。
〈……これはいいな。一度に2つも、か〉
そのセリフの意味を考えるより前に、アイディオンは俺に向かって跳躍してきた。
咄嗟にシルフボードで躱すが……アイディオンは、ありえない軌道で俺に向かってくる。
まるで、空中でアイディオンに働く重力が『反転』したかのように。
ある意味、どこまでも『ありえない』ものの、見慣れたその挙動だったからこそ、それもなんとか紙一重で躱せた。
〈すばしこい奴だな〉
「お前みたいなのろまからしたらそうだろうな!」
ついでに、鉄パイプでアイディオンを思い切り殴りつける。
……ダメージは入った。しかし、それはすぐに回復されてしまった。
〈ならお前は後回しだ!〉
そして、俺の後ろに居た茜さんにアイディオンは向かい、茜さんを攻撃した。
「よそ見するなよっ!」
吹き飛ばされた茜さんと入れ替わるように古泉さんが立ち向かい、アイディオンを殴り返す。
アイディオンは吹き飛んだものの、やはりすぐに回復してしまい、こちらに向かってくる。
……そして、あろうことか、古泉さんに投げキスした。
「ちょ、ちょっとおっ!何よそれっ!」
二重三重の衝撃を受けたらしい茜さんが叫ぶが……その投げキスは古泉さんの体を痺れさせたらしい。
そして、その隙にアイディオンはコウタ君とソウタ君を殴り飛ばす。
〈これは使いようが無いか……くそ〉
そして、アイディオンの投げキスは次に、俺を狙う。
……ここまで来れば、俺達にも分かった。
このアイディオンの異能は、俺達の異能をコピーする異能なのだ。
そして、ともすれば、絶対にコピーさせてはならない異能がある。
……『カオス・ミラー』、恭介さんの異能は、絶対にコピーさせたら、勝てない。