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78話

 恭介さんは、部屋でひたすら何かやっているようだった。

 部屋のドアには『立ち入り禁止(茜さんもです)』と書いてある。

「うわー、本気だ。恭介君、本気だ。私まで立ち入り禁止だ。入るけど」

 茜さんは外に出て行ってしまった。……多分、窓から入るつもりなんだろう。

「恭介さん、やっぱり気になるんでしょうか、戦闘力……」

「Lv2、だっけか」


 ……恭介さんはこの『ポーラスター』内で最弱だ。

 それは『自分の状態の変化を相手にも反映させる』という、攻撃に転化しようとするなら自滅必須の異能のせいでもあるし、恭介さんのソウルクリスタルが身体能力の強化に殆ど働かないせいでもある。

 元々がインドア派みたいだから、そういう理由も含むのかもしれないけれど。

「古泉さんが強くなっちゃったから……余計、気になるんだと思う……」

 ましてや、新しくカルディア・デバイスを改良する手段が手に入ってしまった今、全員の能力が底上げされるのは間違いない。

 以前、恭介さんは、古泉さんのカルディア・デバイスで変身を試みた事がある、というような事を言っていた気がする。

 ……その時は猛烈な頭痛と吐き気に襲われて結局変身できなかったらしいけれど……今回、仁田が使っていたのは『他人の』というか、人造のソウルクリスタルだ。

 恭介さんにも使えるのなら、恭介さんの戦闘力を上げる手段になり得る。

 ……もし俺が、戦闘力が著しく低かったとしたら、やっぱり必死になるだろう。

 非戦闘員とはいえ、周りが全員そこそこには戦えるんだから、どうしたって気になると思うし……ヒーローでいる以上、恰好はつけたい、と思う。




 それから俺達は金鞠さんとロイナを引き取ってきた。

 やはり、うちで見ているのが一番安全だろうし、責任も持てるだろう。

 そして、聞きたい事もあった。

「金鞠さんは、『他人のソウルクリスタルで変身できるカルディア・デバイス』について知っているんですよね?」

「え?そんなものが?……ごめんなさい、多分、それをやっていたのは別の部署だわ」

 恭介さんの負担を減らすためにも、少しでも手がかりを……と思ったのだが、金鞠さんの担当では無かったらしく、詳しくは金鞠さんも知らないようだった。

「ただ、『ミリオン・ブレイバーズ』の幹部で、あの廃墟塔の地下で会った事のある人は全員、自分のソウルクリスタルを持っていなかったことは確かです。だから、使ったとしたら他人の……或いは、人造のソウルクリスタル、なんですよね、きっと」

「他人のソウルクリスタルで変身ってできるの?吐いたりするんだよね?」

 恭介さんが試みた時には吐いた、と、古泉さんが言っていたような気がする。

「できません。……いえ、やろうと思えば多分、できない事は無いんです。でも、結局それって、他人の魂ですから……」

 魂、か。

 ……魂って、なんなんだろう。

 古泉さんの奥さんの魂が古泉さんを助けたり、古泉さんの意志が古泉さんをもう一度ヒーローにしたり。

 茜さんを文字通り、『変身』させたり。

 ……そういうものが、魂、なんだろうか。

「自分のものでは無い魂で自分を変えるなんて、相当相性が良くない限りできないと思います。自分の根幹や、強い意志があるのに、別のものを使おうとしたら……その齟齬で苦しむことになるでしょう」

 根幹、強い意志。

 成程、それがソウルクリスタルなら、確かに他人のものなんて使えないだろう。

「え、逆に相性が良ければできんの?」

 しかし、茜さんはそこじゃなくて微妙に違う所で引っかかったらしい。

 ……確かに、なんとなく……自分と同じような意志を持っている、気の合う人のソウルクリスタルだったら……使えなくも無い、気がする。

「理論上は。……この辺りの分野って、理詰めで解けないっていうか……その、アイディオンの科学って私達の科学と凄く異なるんです。哲学みたいなかんじで……なのでよく分からないんですけれども」

 そもそも、ソウルクリスタルというもの自体、実体があるのかないのか微妙なものだし、そこに俺達の科学は通用しないことが多い。

 最近では『ソウルクリスタル工学』とか、そういう部門の学問も出てきたみたいだけれど、人間はそもそも、ヒーローになれるようになってからまだ、ほんの十数年程度しか経っていないのだ。

 今までの価値観とは異なるものを急に理解できるわけが無い。

 ……けれど、なんとなく、感じることはできる、と思う。

 少なくとも、茜さんは何かを感じたらしい。ふむ、と頷きながら、妙に楽しげに目を輝かせていた。




 恭介さんは夕食時にも出てこなかった。

 茜さんは案の定、窓からの侵入を試みていたらしい。

 しかし、窓には鍵がかかっていて、カーテンまで閉めてあったらしく、断念した、との事。

「ま、明日の夕方になっても出てこなかったら窓割ってでも押し入って引きずり出すけどさ。恭介君の気持ちも分からないでもないし……うー、難しいね」

 茜さんは尚更複雑なんだろう。

 いつにも増して難しい顔をしている。

「気にするな、というのも無粋だろうしな。無茶はしないでくれ、としか言えないが……それも本人にとっては大きなお世話だろうしなぁ……」

「とりあえず、夜食……用意しておく?」

 微妙に頭を抱える俺達を脇目に、桜さんはお湯を沸かしてうどんの乾麺を茹でることにしたらしい。

 茹でておいておけば恭介さんが食べるだろうし、食べなかったら明日の昼にでも食べればいい。

 どちらでも使えるように、桜さんは薬味のネギも刻み始めた。

「……ねー、叔父さん。多分私さ、今、恭介君の世話焼かない方がいいよね?」

「だろうなぁ。……悪いが、真君、何かあったら恭介君の事、頼めるか。俺だと遠慮するだろうし、茜だと嫌がるだろうし」

 ……あのすべてを諦めながら地底で生きる事を決意しているかのような恭介さんにも、プライドはあるだろう。

 だから多分、あまり今は茜さんを見ていたくないはずだ。

「分かりました。明日の夕方になっても出てこなかったら窓を割って押し入る係も俺がやります」

「助かるよ。すまないなぁ」

 古泉さんは苦笑しながら、どこか楽しげなような、痛ましげなような。

 ……うん。

 男はつらい。


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