77話
「おーい、『スカイ・ダイバー』!そっちは済んだみたいだな!」
「『ライト・ライツ』!なんだそれは!」
「急に中々歯ごたえのあるやつが来てな!戦利品だ!」
『ライト・ライツ』さんが持っていたのは、遠くからでもそれと分かるサイズの……ソウルクリスタルだった。
「そのサイズってことは、相当な強さだったんだろう?」
その大きさは、『ライト・ライツ』さんの手を超え、腕に一抱え、というレベルだ。
こんな大きなソウルクリスタルだったのだから、さぞ強力なアイディオンと交戦したのだろう、と思ったのだが。
「いや、正直、この大きさの割には拍子抜け、という所だ。Lv20程度の強さはあったかもしれんが……」
古泉さんが倒した『赤い鎌のアイディオン』のソウルクリスタルは精々古泉さんの両手に収まるサイズ、Lv30アイディオンのソウルクリスタルは両手に余る位のサイズだった。
どう考えても、サイズとレベルが合っていない、という事になる。
「人造の上で、合成したりしてるんだろうなぁ」
……こう言ってしまうと身も蓋もないが、やはり、人造物は『天然物』に比べて劣るのだろう。多分。
そうでも無ければ、納得がいかない。
「あ、『ポーラスター』の皆さん!」
達成感に満ちた笑みを浮かべて駆け寄ってくるのは、『エレメンタル・ナイト』。元『エレメンタル・レイド』だ。
……彼は、古泉さんが俵担ぎにしている人を見て、瞬時に顔を険しくした。
「見たことがあるか?」
「あります。……仁田という人です。俺の担当だった人ですよ」
古泉さんに運ばれる間も、時々茜さんに投げキスされて眠りを深くされているのが、却ってこの人にとっては幸運だっただろう。
ぎらり、と光る『エレメンタル・ナイト』の視線に晒されて、恐怖を感じないわけがないだろうから。
「……一応、こっちの双子の賭けの結果を強制するから、情報は全て渡してもらう予定だ。それから、こいつの自由も賭けさせたから、何かしようと思うなら何かできるが。どうする」
「ひとまずはそちらにお任せします。身柄を置いておく場所が無い、という事ならこっちでお預かりしますが。……ただ、少なくとも一段落するまでは殺さないで欲しいです。できれば。何か害になるようならそうは言っていられませんけれど」
「そうか。分かった。多分大丈夫だと思うけどな。……色々決まったらまた連絡させてもらうよ」
『エレメンタル・ナイト』の言っている事は、助命では無い。
殺さないでほしい、というのは……楽にしないでほしい、という事だろう。
殺すギリギリで甚振り続けたい、とか、そういう事じゃなくて……単純に、正しい裁きを、という事だ。
……『エレメンタル・ナイト』の理性的な対応は立派だと思う。
一旦、古泉さんと恭介さんと双子が事務所に戻って、仁田、とやらを置きに行った。
そのまま恭介さんはカルディア・デバイスの解析等に勤しむらしい。
楽しそうなので何よりだと思う。無理はしないでほしいけれど。
……そして、残った俺達はというと、この地下研究所に残ったソウルクリスタルやそれに準ずるもの、情報の類を根こそぎ回収していた。
ここに戻ってきた『ミリオン・ブレイバーズ』関係者やアイディオンに回収されないように、細心の注意を払って研究所中をくまなく探した。
「よーし全員出たなー?じゃあいくぞー、3、2、1、ふぁいあー!」
探索が終わって、情報らしいものやソウルクリスタルを全て回収した後、廃墟塔は爆破された。
何かを残してしまっている可能性が捨てきれない以上、こうやって埋めてしまうのが最善だろう、という事になったのだ。
……ちなみに、この爆音と廃墟塔の爆破跡が見つからないなんて思っていない。
なので、先手を打って……人造では無いソウルクリスタルいくつかを提出し、『ここでアイディオン達と戦闘になり、廃墟塔を壊してしまった』という証言をすることになっている。
ただでさえ大手と俺達は利害が一致しないのに、大手の中に今も『ミリオン・ブレイバーズ』とのつながりがある所が無いとも限らないのだ。
隠せるなら隠し通してしまった方が賢明だろう。
「ただいまー」
俺達が事務所に戻ると、既に仁田は目を覚ましていた。
「お。お帰り。どうだった」
「うん。とりあえず情報とソウルクリスタルの処分は『ノヴァ・ブレイズ』に任せてきちゃった」
処分、とは言ってあるが、とりあえず預かってもらっている、という方が正しい。
捨ててしまった方がいいのかもしれないが、何かの時には証拠としてあげられる物があった方がいい。
また、研究を俺達の手で進められるなら、進めてしまってもいいのかもしれないし、恭介さんはその気でいるだろうし。
「そうか。こっちはこっちで大体聞きたいことは聞けたな。近々、また出撃だ」
仁田は俺達の会話の間、ずっと項垂れていた。
「で、こいつ、どうすんの」
「どうしようなぁ。うちに置いておくにはちょっと……」
ちょっと、の後に古泉さんは仁田に見えないような角度で、口の動きだけで『金鞠さんとロイナちゃんがいるから』と、俺達に言う。
金鞠さんとロイナは今、『ビッグ・ディッパー』に預けっぱなしてある。
下手に仁田と鉢合わせしたらまずいだろう、という配慮だ。
「じゃ、やっぱり『スターダスト・レイド』に預けてあげた方がいいかな」
「そうだな。うちじゃ手に余る。運搬してこよう。情報は双子君から聞いておいてくれ」
仁田は『スターダスト・レイド』と聞いた時に顔色を変えた。
……自分が『ミリオン・ブレイバーズ』に居たヒーロー達に何をしたかの自覚はあるのだろう。
存分に反省すればいいと思う。
古泉さんが仁田を抱えて出て行ってしまったので、双子から情報を聞く。
「聞いたこと、っつってもなー……とりあえず、他所の研究所とかアジトとかの場所だろ?それから、他の『ミリオン・ブレイバーズ』のメンバーの居場所の心当たりだろ?それから、組んでたアイディオンについてだろ?で、研究内容は碌に知らなかったからそれはパスだったな」
「場所は地図に書き込んでおきました。どうぞ」
地図を見せてもらうと、町中のあちこちに隠れ家が点在しているようだった。
その多くは廃墟と化したエリアにあるが、中には中心部に近い位置にもある。
よくもここまで蔓延ったものだ。感心すらしてしまう。
「組んでたアイディオンについては、知らない事のが多かったな。……所詮は只の雑魚い人間だから、アイディオンとしても正体明かして全面的にお付き合い、なんてしたくなかっただろーしな」
「アイディオンと組む、とは言っても、どちらかといえば『ミリオン・ブレイバーズ』が従属していたような形だったみたいです」
当然と言えば、当然だろう。
アイディオンが正体やそのほか諸々の情報を『ミリオン・ブレイバーズ』に明かしてやるメリットは無い。
研究をさせたいなら、それに関する情報だけ与えればいいのだから。
「……『ミリオン・ブレイバーズ』が、アイディオンと組んだ目的は、お金の為?」
「ま、金と……そのついでに名声も、ってかんじじゃねえの?聞いた限りではそんなかんじだったけどよ」
桜さんの質問に、嫌そうな顔でコウタ君が答える。
「つまり、マッチポンプ?」
「そうですよね。アイディオンに技術提供することで、アイディオンは強くなって人を襲うようになる。ヒーローは太刀打ちできなくなるから、そこに技術を持ち込めば高く売れるし、名声にもなるでしょうし」
アイディオンを強くした所で、武器……ソウルクリスタル人造の技術を人間側に高く売りつけるつもりだったんだろう。
……そこまでしてするような事か、と思う。
金と名声の為に、わざわざ人が死ぬようなことを、するものか、と。
何のために、ヒーローが居るんだと……ヒーロー企業があるんだと、思っているんだろうか。
『ミリオン・ブレイバーズ』の人達は、大切な人がアイディオンに殺された事が無いのだろうか。
全て、自分とは無縁な話だと思ってでもいるのだろうか。
それとも……アイディオンと取引している間は、自分達は殺されないから、とでも、思っていたのかもしれない。
哀れではあるが、同情はできなかった。
「……ところで、恭介さんは」
桜さんがきょろきょろ、と応接間を見回すが、そこに恭介さんの姿は無い。
古泉さんと一緒に帰ってきているはずだから、居るはずなんだけれど。
「あー……恭介さん、部屋にこもってる」
「あの、仁田が装備していたカルディア・デバイスを解析してるみたいです。……自分のもの以外のソウルクリスタルで変身する方法が見つかるかもしれない、って、言ってました」