76話
開いたゲートの先のがらんとした部屋。
机や棚があるだけで、机の上には幾つかのソウルクリスタルらしいものがごろごろと置いてある。
人造のものだと分かっていても、あまりにも無防備に置いてあるそれをなんとなく痛ましく思ってしまう。
ソウルクリスタル、というものは俺達にとってそういうものなのだ。
そして、そんな部屋に居たのは1人の人間だ。
「く、くるな!くるな!」
しかし、その様子や恰好からして、明らかに研究員やその類の人では無い。
「『ミリオン・ブレイバーズ』の幹部か」
俺が見たことのある人ではないが、多分そうだろう。
「ちょうどいい。別に命を取ろうって訳じゃない。ただ、聞きたいことがあるだけなんだが」
古泉さんが一歩、友好的にすら見える笑顔を浮かべて近寄ると、そいつは途端、持っていたソウルクリスタルを使った。
慌てて古泉さんが止めようとするが……そいつの足元の床に穴が開いて、そいつはそこに沈んでいった。
後にはただの床が残るばかりだ。
……壁抜け、床抜けの異能だったらしい。
「全く、しょうがないな」
そして、古泉さんは床に拳を振り下ろし……穴を開けた。
「よ、っと。……もう少し大きくないと俺が通れないな」
そして2、3発、拳を打ち込むと、床には穴が開いて地下の通路らしいものが下に見えるようになる。
「さて、行こうか」
古泉さんが床にあけた穴を、古泉さんが先頭に下っていく。
「……暗いな」
「こんな事もあろうかと真さんのカルディア・デバイスにはライトが仕込んであるんで起動してください」
階段の先は暗かったが、恭介さんの言う通り、いつの間にかおれのカルディア・デバイスにはライトが仕込まれていた。
恭介さんの指示に従って操作すると、たちまち明りが点く。
……SEに始まり、いろんな嘘を吐くための小道具がカルディア・デバイスには仕込んであるけれど……だんだん俺のカルディア・デバイス、10徳ナイフみたいになってきてないか……?
照らされた通路を進む。
走って逃げているらしい足音が聞こえているので、俺達も走って……飛んで進む。
もしこの先が外への隠し通路にでもなっていたりしたら厄介だから、さっさと捕まえてしまうに限る。
「く、来るな……ひぃ!」
当然、あっさり追いついた。
俺達だって伊達にヒーローやってる訳じゃない。
「さて、じゃ、俺達のカジノへご招待だ!」
ある程度接近したところで、コウタ君とソウタ君が異能を発動してフィールドを作り上げた。
いつもの煌びやかなカジノが現れた所で、完全に『ミリオン・ブレイバーズ』の幹部の1人を、俺達は捕らえたのだった。
「な、なんだ、ここは!」
「ここは俺達の『フィールド』だ。意味位分かるだろ?」
フィールド、と聞いて顔を青くするあたり、流石にソウルクリスタルの人造を行わせていただけの事はある、という所だろう。
その程度の知識も無かったら逆にびっくりだ。
「ここで今からお前には『賭け』をしてもらう。拒否権は無い」
……コウタ君とソウタ君の異能は、『賭けを行うか否か』『賭けのゲーム』『ベットするもの』のどれか1つしか、コウタ君とソウタ君は強制できない。
けれど、そこに俺の異能が干渉すれば、それもまた可能なのだ。
『コウタ君とソウタ君の異能はそういう異能なのだ』という嘘を吐けば、それはそういうふうに働く。
俺が『ミリオン・ブレイバーズ』の幹部らしいそいつにそう宣告すると、そいつは後ずさりしながらなんとか逃げる隙を探し始めた。
「無駄です。僕たちのフィールドから出る為には、僕達の許可があるか、ゲームが終了するか、どちらかの条件が必要なんですから」
これは本当だ。
……嘘は、真実と混ぜられると余計に見破れなくなる。
何が嘘で何が真実なのか分からないままでいる以上、相手は俺の嘘を嘘だと看破する事は出来ないだろう。
「賭けてもらうものはあなた自身の自由、あなたの命の自由と、あなたが持っている情報全てです」
今回はこのベット内容について、双子は『強制力』を働かせている。
だから、ここを覆すことはできない訳だ。
「お、俺の自由、って」
「負けたらラチカンキンさせてもらうからな、ってこと。俺達の異能の効果がある以上、賭けの結果は絶対だからな?負けたら絶対にあんたは逃げらんねーよ」
『ミリオン・ブレイバーズ』幹部の目が泳いで、カジノ内のポーカー台や、ビリヤード台、場違いな碁盤……等を見回す。
「お、俺はそれを賭けるとして……お前たちは何を賭けるんだ」
「いや、別に何も?」
「僕達に勝ったらあなたは……そうですね、情報を吐く前に楽な方法で自害する選択肢が与えられますよ」
双子が組織仕込みらしい詰め寄り方で『ミリオン・ブレイバーズ』幹部を追い詰めていく。
「ま、そういじめてやるな。……さて、ゲーム内容は……シンプルに殴り合いでいいだろう?」
古泉さんが示す先は、例の巨大チェス盤である。
あれから微妙に改修が行われたらしいチェス盤は、駒が端に整列した形になっていた。場所を広く取れるように、ということらしい。
「俺は碁でもいいが。なんなら3目ぐらいハンデをくれてやってもいいぞ」
古泉さんは碁の方も自信があるらしい。
……一回ぐらい、古泉さんが打っている所を見て見たい気もする。
「い、いや、殴り合い。殴り合いでいい。単純に死んだ方が負けってことだろう?」
そして、意外な事に『ミリオン・ブレイバーズ』幹部はそう申し出た。
碁の方がまだ勝ち目があると考えても良さそうなものだけれど。
「いや、降参、または戦闘不能、が条件だな。死ぬ直前にゲームセットだ。フィールドの中で死んでも現実世界で死ぬわけじゃないが、死亡体験なんてしたくないだろう?」
古泉さんが笑ってそう言うのには一応、訳がある。
……万が一、俺の嘘が何らかの形で作用して……『死んだ』と信じられてしまったら、こいつに死なれてしまうからだ。
情報ごと死なれたら困る。そういう意味で、死ぬことはない、とちゃんと相手に伝えておく必要があったのだ。
「分かった……それでいい」
相手の了承が得られた時点で、本当にコウタ君とソウタ君の異能は発動する。
2人の異能は確実に相手を縛り、結果を強要するのだ。
……さて。あとは古泉さんに任せて俺達は観戦すればいいだけだ。
場所を巨大チェス盤上に移して、古泉さんと『ミリオン・ブレイバーズ』幹部の殴り合いが始まる。
「こ、後悔するなよ?俺は勝つ。勝って、それから、フィールドを出てすぐに全員殺してやる!」
……開始直後、そんなことを言いながら、『ミリオン・ブレイバーズ』幹部は……首輪のようなそれを起動させた。
「強化ソウルクリスタルの実験台にしてやるからな!」
何やら、急に強気になったそいつは……みるみる、姿を変えていく。
体は鎧で覆われ、その手には大ぶりな剣。
明らかに、変身だった。
「……あれ、違う。あの人のソウルクリスタルじゃ、ない……?」
その様子を見ていた桜さんがそんなことを、ぽつん、と呟く。
「見たかんじ、相当大きなソウルクリスタル、使ってるかんじですけど……合成した奴、ですかね」
「強化、とか言ってたし、ま、人造物なんじゃないの?分かんないけど」
……見て、違和感があった。
明らかにあれは、あの人の力じゃない。あの力に見合うだけのものを、あの人が持っているような気がしないのだ。
どこか虚ろで、どこかミスマッチな、そういう印象を受ける。あの大剣だって、まともに使えるのか怪しい。
「おー、立派になったなぁ」
そんな相手を目前に、古泉さんは笑みを浮かべたまま、余裕を崩さない。
「このっ!」
そんな古泉さんに激昂して、相手はその剣を古泉さんに振り下ろし……剣を、砕けさせてしまった。
「こんな鈍らでよく戦う気になったよなぁ。今からでも碁に変えないか?」
しかし、次の瞬間には槍が現れ、古泉さんに向けて振られていた。
古泉さんはそれを難なく避けて、一気に間合いを詰める。
「ま、俺はどっちでもいいが」
そして、胸のあたりを殴りつけて……『ミリオン・ブレイバーズ』幹部の体を吹き飛ばした。
「古泉さん!そいつのカルディア・デバイス、調べたいんで壊さないでください!」
恭介さんが悲痛な声を上げると、古泉さんは笑って、大丈夫、というようなジェスチャーを返してきた。
立ち上がれずにいる……戦意を喪失しかけているらしいそいつに古泉さんは近寄ると、腹に拳を叩きこんだ。
フィールドが解け、古泉さんが賭けに勝ったことを知らせる。
「ま、相手がどんなに強いソウルクリスタルのカルディア・デバイスを持っていようがな、自分の魂でもないのに上手く使える訳がない。碌に戦闘経験も無いような奴なら尚更だ。一応、こっちは戦いの日々を送ってる訳だ。負ける訳がないな」
すっかりその場に放心しているらしい『ミリオン・ブレイバーズ』幹部に茜さんが投げキスして眠らせる。
「さて、コウタ君とソウタ君の異能があるから逃げ出しはできないはずだけど、一応、縛っとこっか」
また穴を通って地下を出て、適当にテーブルクロスを裂いてロープにして、手足を縛りあげる。
これで回収しなければいけないものは回収できた。
あとは、他の事務所が戦っているであろう他のアイディオンを倒して、帰って情報を得ればいいだけだ。
そして……ここに居なかった、他の『ミリオン・ブレイバーズ』関係者やアイディオン達の居場所を聞き出し、根から掃除していくのだ。




