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75話

 恭介さんが帰ってきたのはその日の夜になってからだった。

 疲れ切ってますます生気に乏しくなった恭介さんだったが、『純度99.9%のエルピスライト』を見た瞬間、ゾンビめいた生命力をあふれさせたのだった。

「それ……全員分のカルディア・デバイス作り替えられますねやったこれでまた俺徹夜できる」

「恭介君!恭介君駄目!駄目だかんね!やらせないかんね!」

 ぎらぎらと暗い輝きを目に迸らせてエルピスライトに近寄ろうとする恭介さんを茜さんが押さえ、古泉さんがひとまずエルピスライトの入ったロケットペンダントを回収した。

「じゃあ、これはこちらで。……本当にいいんですか」

「はい。どうせ私に使えるものではありませんし、お金は幾らでもなんとでもなりますから」

 金鞠さんがそういうなら、ということで、報酬は有難く前払いで頂いてしまう事にした。

「……ま、いずれは恭介君に頼んで全員分のカルディア・デバイスを作り変えてもらう事になるとは思うが、今はその時間すら惜しい。早速だが、深夜に出るぞ。早い方がいいだろう」

 金鞠さん達が逃げてきた訳だから、向こうもきっと、もうすぐにでも動くだろう。

 告発されてもいいように行方をくらまそうとするか……打って出ようとするかもしれない。

「とりあえずいつもの事務所には話を通してある。ゴーストタウン・エリアの廃墟塔に一気に雪崩れ込めば、まあ、そんなに悪い結果にはならんだろう」

 古泉さんはいつの間にか、金鞠さんから例の廃墟塔の地下の地形を聞き出していた。

 どこに何があるか、どういう部屋があり、どういう仕掛けがあるのかは全て把握済み、という訳だ。

「……確認になりますが、金鞠さん。俺達は人造アイディオンの命の保障はできません。襲い掛かってきたら殺さざるを得ないし、そうでなくても戦闘に巻き込んで殺す可能性は十分にある。全てを守りながら、という事は無理でしょう」

「はい。それで構いません。……仕方ないと思います」

 俺達がロイナを殺さないのは、単純に今、害を成さないからだという事でしかない。

 襲い掛かってくるようなら殺さざるを得ないと思っている。

「俺達は研究員の命を優先させるつもりです。それから、アイディオンの掃討、『ミリオン・ブレイバーズ』関係者の捕縛。そういう優先順位で動きます」

 研究員は、金鞠さん以外にもあそこにたくさんいるらしい。

 多くは、『ミリオン・ブレイバーズ』で研究員として働き……真実を知ることなく研究を続けていたか、なにかを盾に脅されるかしてそこに残っていた人たちだ。

 彼らを戦闘に巻き込まない事が、今回の1つの目標でもある。

「彼らの事、何卒、よろしくお願いします」

 同僚たちの安否は気になるのだろう。

 不安そうな顔で、しかし、俺達を信頼している目で、金鞠さんはそう言って頭を下げた。





 軽く夕食を摂り、俺達は例の廃墟塔へ向かった。

 金鞠さんとロイナは、他所のヒーローと一緒に留守番だ。

 そのヒーロー……『サウザンクロス』の『マーブル・ウォール』は、特に守ることに対して優れたヒーローであるらしい。

 だから、金鞠さん達を守ることもできるし、『金鞠さん達から』守ることもできる。

 ……念の為、まだ俺達は2人を警戒していた。

 2人にそのつもりが無かったとしても、利用されていないとも限らない。何がどうなるか分からない以上、2人も敵であるという前提で動いた方が安全だった。


「じゃ、さっさと突撃しよーぜ」

 今回はコウタ君とソウタ君にも出番があるからか、2人はそわそわ、わくわく、といった様子だ。

 アイディオンの方はともかく、『ミリオン・ブレイバーズ』の方は、2人の異能で賭けをしてもらって、情報を全て賭けて貰う必要がある。

 情報を聞き出す、という事に置いて、コウタ君とソウタ君の異能は優秀だ。

「くれぐれも気を付けろ。何かあったらとりあえず茜の所まで退避するんだ。いいな?」

 この中で1人、全く茜さんの助けを必要としない古泉さんがそう言う。

 ……すっかり現役ヒーローに戻ってしまった古泉さんは、エースの名を欲しいままに暴れるつもりらしい。

 茜さんは「年甲斐も無いよね」と拗ね気味だ。茜さん自身の戦闘力がそこまで高くないことも要因なんだろうけれど。




 廃墟塔の中、階段を飛んで猛スピードで下っていく。

 速いヒーローはもう最下層についてしまっているかもしれない。

「よーし、良い具合だな」

 そして、俺達の8割程度が最下層に到達した頃、鉄の扉が開いた。これを操作しているのは『イリアコ・システィマ』の『ユピテル・メカニカ』さんだ。機械や情報系の異能を持っているらしく、この役を買って出てくれた。

 ……出てくれなかったら、古泉さんが鉄扉を殴り壊す予定だったらしい。

 なんというか、色々な意味でやめてほしい。


 侵入するとすぐ、レーザー光が飛んで来るが、それもすぐに収まる。

 ハッキングは順調に進んでいるらしい。

 逆に、それ以外の……向かってくるアイディオン達はどうしようもないので、俺達が戦うしかない。

 ……兵力は殆ど無尽蔵のはず。

 金鞠さんが把握していただけでも、人造のアイディオンも含めてその数は1000に達するらしい。

 大して、俺達ヒーローは50人余り。

 当然これだけでは、勝てる要素はあまり無い。

 ……しかしそれは、いきなり50対1000に持ち込まれたときの話だ。

 現在、ハッキングにより、施設内のあらゆるゲートが閉じている。

 つまり、アイディオン達は分断されているのだ。

 そのまま各個撃破を心がけていけば、十分に勝てる見込みはある。

 ……問題は、その内の何割が瞬間移動系のソウルクリスタルを所持しているか、なんだけれど……それは、いつもヒーロー達を運搬してくれるヒーローさんがなんとかしてくれているらしい。

 移動系の異能を持っているらしく、相手の移動を妨害することもできるんだとか。

 それから、アイディオン達がソウルクリスタルを無尽蔵に使ってくるであろうことについては一応対策済みだ。

 ヒーロー達には、『状態異常を無効化する装備』を配布してある。

 ……当然、嘘だ。

 嘘だが、信じて貰えればその人にとっては真実になる。

 その人にだけ働けば状態異常は回避できるんだから、それで済んでしまうだろう。

 その様子を材料に、アイディオンに新たな嘘を吐くこともできるかもしれない。

 とにかく俺は、戦う前に嘘の材料にできそうな種を撒いておくことが重要なのだ。

 戦いは準備の段階で既に始まっているのだから。




 俺達はアイディオン達と戦いながら、奥へ向かっていた。

 金鞠さんの話ではそこには常駐している『ミリオン・ブレイバーズ』の人間が居るはずで、俺達はそいつを捕縛して情報を得なければならない。

 アイディオン討伐はそこそこ順調に進んでいた。

 苦戦も想定の範囲内に収まっているし、何より……アイディオン達は、数が多くても、レベルは低かった。

 作りたて、という事なのだろうか、Lv4程度の雑魚がうろうろしてはあっさり倒されるのも珍しくない。

 そして、高い方も、それでも精々10前後。

 桜さんなら1人で十分倒せる範囲だし、古泉さんなら楽しんで倒せる範囲だ。

 100体ぐらい束で掛かってくるでも無い以上、そこまで苦戦する相手でも無いようだ。

 俺と茜さんは、比較的高レベルなアイディオンは2人に任せて、ひたすら低レベルのアイディオンをなぎ倒していく役に従事した。

 コウタ君とソウタ君、恭介さんはそんな様子を見ながら、アイディオンの落としたソウルクリスタルを回収する係だ。

 時にはそれを適当に使いながら、回収作業を進めていく。


 ……そんな勢いだったので、危惧していたよりも早く、アイディオンは片付いた。

「大丈夫ですか!」

「もう大丈夫ですよー」

 そして、研究員たちの救助も着々と進む。

 そちらはどちらかというと、他所の事務所に任せて……俺達は『ミリオン・ブレイバーズ』の人間を探すことに専念する。

 今、この施設から瞬間移動で出ることはできない。

 だから、施設を出るには出口から出るしか無く、しかし、あらゆるゲートはこちらの手に落ちている。

 ……袋のネズミを捕まえるのは、そう難しくは無かった。


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