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71話

 2人が鉄扉を抜けた直後、鉄扉はまたアナウンスと共に閉じる。

 未だに状況がよく把握できない俺達の前で、1人は肩で息を吐き、もう1人はけろりとした顔で俺達を不思議そうに見つめている。

 肩で息をしている方はまだ若い女性だ。白衣とメタルフレームの眼鏡が印象的だ。研究員、というのはこの人だろう。

 一方、俺達を見つめている方は……簡素なワンピースを着ている、小さな女の子だった。

「あ、あの……『ポーラスター』の方、ですか?」

 眼鏡の女性が息を切らしながら話し始める。

「はい。……あなたが依頼者ですね?」

 古泉さんの言葉に女性が頷く。

 そして、俺達の背後で鉄扉が、ガン、と音を立てて軋んだ。

「……時間が無さそうだ。とりあえず、事務所で詳しくお話をお伺いします。よろしいですか?」

「は、はい!……あの、とりあえず一旦、町の中心部に移動しても、いいですか?」

 女性は白衣のポケットから、手のひらに乗る程度の石……ソウルクリスタルであろうそれを取り出して見せた。

 恐らく、瞬間移動系の異能なのだろうけれど……そうでは無い可能性も、十分にあった。

「……申し訳ないが、私達としてもあなたを信用しきれないのです。町の中心部に出て、追手を撒いてから、ということでいいですね?」

 古泉さんは、失礼、と断ってから女性を横抱きにした。

「よし、真君。そっちの女の子は頼んだ!このまま地上へ出て、町の中心部に出る!ついでにスーパーで鮭の切り身を購入してから戻るぞ!」

 そして、古泉さんは地上目指して飛んでいく。

 俺も女の子を抱き上げて、地上へ向かってシルフボードを飛ばすことにした。




 桜さんが最後尾を務めてくれた。

 時折ナイフを投げたり、風を起こしたりしていたから、多分追手が居たのだろう。

「追手はあなたを追っているんですか?それとも、あっちの女の子?」

「両方です。私は情報を持っていますし、あの子は……その証拠そのものです」

 ……『証拠そのもの』は俺の腕の中で、やはり不思議そうな顔をしている。

 普通の子供では無い、という事はすぐに分かった。

 俺がシルフボードで飛ばしても、ほんの少し楽しそうにするばかりで、怖がって泣き叫んだり、やたらはしゃいだりすることは無かったのだ。

「そうですか。……じゃあ、交換した方がいいな。真君、パスだ」

「え、きゃ、きゃああっ!」

 古泉さんは空中でその女性を俺に投げ渡してきたので、俺も腕の中の女の子を古泉さんに放る。

 そんなことをされて、女性は悲鳴を上げたが、女の子の方はというと、怖がりもしない。むしろ、少しばかり楽しそうですらあるのだ。

 古泉さんは女の子をキャッチし、俺も女性を空中で受け止める。この程度は朝飯前だ。

 ……女性には悪いけれど、多分、古泉さんはこの女性が咄嗟にどういう反応をするか、試したんだろう。

 女性はと言うと、俺の腕の中ですっかり恐怖に固まっていた。

 多分、演技では無いだろう。

「よし。じゃあ鮭の切り身と一緒に彼女らの着替えも買ってこよう。真君と桜ちゃんはお姉ちゃんと一緒に服を買いに来た体で。俺は娘と、って設定でいこう。桜ちゃん、俺の左のポケットに財布が入ってる。すまないが中から適当に持ってってくれ」

 桜さんは古泉さんに近づいて、言われた通りに財布を開けて……。

「古泉さん、5672円しか入ってない」

「そうか。じゃあそっちのお姉さんは印象を変えられるような……髪留めとか、そういうので頼むよ」

 桜さんは財布から千円札2枚を抜き取ってから財布を戻し、俺の横についた。

 尚、この間も俺達は高速で空中を移動しているので、気を抜くとお札が飛んでいきそうだったりする。




 いつものスーパーの近くの、建物の影に着陸して、まずは女性に白衣を脱いでもらう。

「眼鏡、外しても平気?……眼鏡が無いだけで、印象は変わる、と思うから……」

「あ、じゃあ、外しますね。……ちょっとぼやけるけれど前は見えますから、平気です」

 白衣を脱いで眼鏡をはずすと、ひとまず女性の印象は変わった。

 リブ編みのセーターに細身のジーンズ、という恰好は街に十分溶け込めるものだろう。

「じゃあ、とりあえず……2000円内で印象を変える、っていうと……どうしたらいいんだろう」

「真君、鮭も買いたい」

「一切れ80円だったから、4切れで……あ」

 ……この女性と、女の子の分も追加か。

「じゃあ、桜さんにもレジに並んでもらって5切れ買うとして、400円か。1600円内でなんとかなりそう?」

 俺はこういうことに詳しくない。

 つくづく、茜さんの協力が欲しい場面だ。

「あ、あの、髪型を変えて、あとは上だけでも変えられれば……お金は後でお返ししますので」

 これに関しては女性がなんとか出来そうだったので、任せることにした。


 ショッピングモールに入って十数分で、女性の買い物は終了した。

 髪ゴム1本と、ふんわりした印象のブラウスを買って着替えると、大分印象が変わって見える。

 白衣はブラウスを買った時に貰った袋に入れて持ち運ぶことにしたらしい。

「……できれば、白衣は捨てていった方がいい、と思う。発信機が付けられたたら、厄介」

 桜さんはそう提案したのだが、少し困ったように女性は首を横に振る。

「発信機は確認してありますから大丈夫。……ごめんなさい、この白衣に、色々隠してあるんです」

 桜さんは何気なく袋の中を覗きこみ……女性が少し、中の白衣をつまんで見せると、桜さんの目が少し見開かれた。

「そうなの。これが私の生命線なんです」

 うんうん、と桜さんは頷いて見せた。……何が見えたんだろう。




 それから桜さんから80円を貰って、俺は鮭の切り身を1切れ買う。

 ……桜さんと女性は、一緒に4切れ買ってくることになっている。

 会計を済ませてレジの横で待っていると……古泉さんが、さっきの女の子を肩車しながら鮭の切り身他、野菜などを入れた袋を持って歩いてくるのが見えた。

「そっちも終わったか?」

「はい。……今、6番のレジで会計してます」

 そちらを見ないように古泉さんに言うと、古泉さんもそちらをさりげなく窺う。

「大分印象が変わったな。……これなら町の中をのんびり帰っても平気そうだな」

「その子も大分変わりましたね」

 古泉さんの肩の上でにこにこしている女の子は、さっきまでの簡素なワンピース姿では無く、どこにでも居そうな格好をしていた。

 ……ただし、女の子はどこにでも居る訳では無いレベルで容姿に恵まれているから、そういう意味では目立つけれど……古泉さんも美形だから、逆にしっくりくる。

「俺達は先に戻ってる。後からのんびり帰ってきてくれ。撒けてないと思ったら適当に寄り道するなりしてくれて構わない」

「分かりました」

 ということで、古泉さんと女の子は楽しげにスーパーを出て行った。

 ……2人はまるで親子のようで……古泉さんの過去を思うと、少し切ない。




 俺達はぶらぶらとのんびり、徒歩で戻ることにした。

 ……当然、廃墟エリアに入ったらもうその意味も無いので、ある程度までは、という事になるが。

「人を隠すなら人の中、って、本当なんだな」

 人通りの多い街の中心部の大通りを、俺達は歩いている。

 人通りの多さからあっという間に俺達は街に溶け、ただの通行人になることに成功した。

「すみません、すみません」

「真君……置いてかないで……」

 ……この女性も桜さん同様、あまり人ごみが得意な性質では無いようだ。




「……真君、一旦、どこかに寄り道した方がいい」

 そして、歩きはじめて数分で、桜さんが視線を鋭くするようになった。

 追われているらしい。

「そうだな。……人通りの多い所で撒くか、人通りの少ない所で倒すか」

「倒す」

「分かった。……じゃあ、こっち」

 桜さんと簡単に打ち合わせしながら、女性を連れて、人通りの少ない方へ向かっていく。

 ビルとビルの隙間、裏路地に入った所で、それは来た。

「真君!上、お願い!」

「オーケー!」

 上から2人、前後から会わせて3人。

 女性を守るようにしながら、俺は変身する。

『Magician_standby……』

 選ぶのは魔法使いの方だ。

「燃えろっ!」

 変身を済ませてすぐ、上からやってくる追手を火柱の幻影で迎え撃つ。

 咄嗟に躱したらしい1人は逃がしたが、もう1人の方には大きく火傷を負わせることができた。

 もう1人の方は、火の壁を展開して追い込んでいく。

 一度火を信じてしまえば、いきなり展開される火の壁に相手は翻弄されるしかない。

 ある程度追い込んだ所で火の壁で四方を囲み、下からの火柱で仕留めた。

 ……仕留めた人は、不思議な事に……光になって、消えてしまった。

 後にはソウルクリスタルが残る。

 ……まるで、アイディオンみたいだ。


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