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65話

 古泉さんがそう言った瞬間、何名かが表情を変えた。

「見つかったのか!」

「多分な。外れかもしれんが、まあ、多分そうだろう」

 ……見つかった?

 ボス級が……古泉さんが、探していたアイディオン、ということか?

 ……死ぬ未来が見えているにもかかわらず、倒したい相手、か。

『赤い鎌のアイディオン』と聞いた時の古泉さんの表情と……古泉さんの、左手の薬指を触る癖が、不意に頭に浮かんだ。

 けれど、迂闊に何か言えそうにない。

 俺の予想が当たっていたら、きっと、古泉さんにとって話しづらい事になるだろうし、俺としても聞きづらい事になるだろうから。

「分かった。じゃあ、今回もボス級アイディオンの討伐は『ポーラスター』に任せる。倒し方は問わないが……『スカイ・ダイバー』。勝てない戦いにはするなよ?」

「分かってるさ」

 古泉さんはにやりとして着席する。

 事情が良く分からないらしいヒーロー達は、周りのヒーローに何か聞いているのか、ひそひそとした囁きが聞こえはするが、古泉さんの申し出に反対する人は居なかった。




 その後、とんとんと会議は進んでいった。

 次に攻め込む場所は、前回の様に出入り口が複数ある訳でもないので、全員で一斉に突入する形になるらしい。

 そこで、『ポーラスター』はひたすら奥へ進むことを優先し、他のヒーロー事務所が足止めをしてくれる、という事になっている。

 俺達は、前回同様の戦法でいくのが一番いいんだろうけれど……そこは、古泉さんとよく話さないと駄目だろうな。

 一番効率がいいのは勿論、双子のフィールドで戦う事なんだろうけれど、今回は多分……。


 案外あっさりと終わってしまった会議の後、古泉さんに色々なヒーローが声を掛けてから帰っていった。

 しくじるなよ、とか、気負うな、とか、良かったね、とか、頑張れ、とか、色々だ。

 古泉さんは1つ1つに応えて、帰っていくヒーロー達を見送った。




 ヒーロー達が全員帰った後、俺達は全員で、紅茶を目の前に食堂の机を囲んでいた。

 暫く、誰も何も喋らなかったけれど、その沈黙を破ったのは案の定、茜さんだった。

「叔父さん。一応聞くけど、今回、私達は手、出さない方がいいんだよね?」

 どこか責める様な響きすら感じられるような茜さんの声に、古泉さんは薄く笑う。

「そうだな。そうしてくれると嬉しい」

「は!?だって、相手は超高レベルのアイディオンなんだろ!?」

 コウタ君の言いたいことは分かる。

 そんなアイディオンに対して1人で何とかなるのか、という。

「コウタ君、俺が死ぬと思うか?」

 そんなコウタ君に古泉さんがそう冗談めかして言えば、口ごもったコウタ君の代わりに、恭介さんが口を開いた。

「俺は思いますけど。……古泉さん。現実的に考えて、1人でどうにかできる問題じゃないんじゃないですか。それこそ、桜さんの『見た』未来そのものになってもおかしくない。それでも、やるっていうんですか」

「……ごめんな」

 恭介さんの言葉に対しても、古泉さんは困ったような、申し訳なさそうな笑みを浮かべたままだった。

「叔父さんってさぁ、ほんとに馬鹿だと思うよ。悪い意味で。……止めても聞かないんでしょ」

「……俺がいなくてもこの事務所が回るようにしていくさ」

「そういう問題じゃなくて!」

 声を荒げて立ち上がった茜さんは、そこで言葉を探すようにして……言葉が見つからなかったのか、うつむいた。

「ごめんな、茜。……ちょっと出て来るよ。夕飯までには戻る」

 古泉さんは茜さんの頭に手を置いてから、食堂を出ていった。




「……桜。真クン。それから双子クン達もさ」

 暫く放心したようにしていた茜さんは、急に俺達を呼んだ。

「気になるでしょ」

 ……何が、とは、聞かなくても分かる。

 コウタ君とソウタ君も、困ったように顔を見合わせている。

 桜さんは……じっと、茜さんを見ているだけだ。

「気にならないと言ったら嘘になります。でも聞かないだけの分別はあるつもりです」

「……そっか」

 俺が答えると、茜さんは席を立って、ふらり、と食堂を出ていった。

 俺達が困惑していると、何かを手に持って茜さんは戻ってきた。

 それを食卓の上に置いて、俺達に見せながら指で一人の人を示す。

「ん。この写真のさ、この人。……って、ま、見りゃわかるか。叔父さんの、お嫁さんね」




 結婚式、の写真、なのだろう。

 今より幾分若い古泉さんと、その隣の、ウエディングドレスの女性。

 ……なんというか、ある意味、一番見たくなかった写真かもしれない。

 この写真だけで、古泉さんに何があったか、大体分かってしまった。

「見りゃ分かると思うけどさ。この人……私の、叔母さん。アイディオンに殺されたんだよね」

 綺麗な人だ。

 笑顔の明るい人で……今、古泉さんが時折見せる陰は、きっと……この人が居なくなった反動なんだろう。

「叔母さんを殺したアイディオンが、『赤い鎌のアイディオン』。……レベルは、24。このアイディオンと戦った時に、叔父さんのソウルクリスタル、砕けてるんだ」

 つまり、この時古泉さんのソウルクリスタルの『1つ目』が壊れた、という事なんだろう。

「この時、叔父さんがどういう状況だったのか、っていうのもさ、私も良く知らなくて、日比谷所長とか、恭介君からの伝聞でしか知らないんだよね。……相当酷かったんでしょ?」

「俺より暗かったですね」

「あ、そりゃホントに酷いね。……ってことでさ。その後、叔父さんが何故か『2つ目の』ソウルクリスタルを手に入れて、またヒーロー始めたらしいんだけどさ……目的が、ま、分かると思うけど、仇討ち。1回目はともかく、2回目に叔父さんがヒーロー始めた理由って、叔母さんの仇討ちだと思うんだよね」




「いーなぁ。古泉さんは大事な人を殺したアイディオンがどれか分かってて」

 ぽつり、と、コウタ君が零す。

「僕達は……1体のアイディオンだけを憎む、なんて、しようが無いから……ちょっとだけ、羨ましい、ような……」

 ソウタ君の言いたいことも分かる。

 ただ1体のアイディオンが分からないから、アイディオン全体を憎むしかない。

 そうして、ヒーローとして漫然とアイディオンを殺すしか。

 ……そこに意味が無いわけは無い。

 アイディオンを倒す事で救われる人が居ることは絶対に間違いない。

 個人的な事情に置き換えることもできない訳じゃない。

 前向きに考えるならば、『二度とあのような事が起こらないように』とでも言いかえられるかもしれない。

 けれど……けれど、それは自分から大切な人を奪った者への、直接的な復讐にはなりえないのだ。

「もし、俺が俺とソウタの親を殺したアイディオンを知ってたらさ、そいつのこと、殺しても殺したりない位に殺してやりたくなると思う。だから、俺は古泉さんの気持ちは……分かる、と思う」

「でもさ、それで、単騎出陣を許せるわけじゃないじゃん。私は許せないよ。叔父さんをわざわざ死なせたくない」

 Lv24のアイディオンと、単騎で戦うなら……余程特殊な、一発逆転系の異能でもない限り、勝率は無いに等しい。

 ましてや、古泉さんは異能があったとしても、あくまでメインは『物理で殴る』事だ。

 正気の沙汰とは思えない。

「普通に考えて古泉さんが抜けた時、俺達の戦力はがた落ちなんで。大体、事務、誰がやるのかっていう」

「……ヒーローが要らなくなる世界には、まだ、遠いから……」

 俺達としても、古泉さんに居なくなられたら困る。

 だから、古泉さんには単騎出陣、なんていう真似はやめてほしいんだけれど。

「復讐自体は、さ。別にいいと思うんだ。私も叔母さん殺した奴、ぶち殺してやりたいし。でも、わざわざそれを単騎でやる必要はないと思うんだよね。そこんとこって、どうなんだろ」

「……勝機が、ある、っていう事、なのかな」

 一人で、Lv24のアイディオンに勝つ、方法……となると、全く思いつかないんだが。

「叔父さんが巨大化して戦えるようになるとか?」

 いや、流石にそれは無いと思う。

「古泉さん、自爆するつもりじゃないよな……?」

「ちょっと、コウ、やめなよ……」

「それは俺の十八番なんで。古泉さんにも譲る気は無いです」

「いや、でも、叔父さんにも何か考えがありそうで怖いんだよね……多分本人、死ぬ気だしさ、あれ」

 ……古泉さんは、一人で戦いたい。

 俺達は、古泉さんに生きていてほしい。だから、協力したい。

「あの、俺に考えがあるんですけれど」


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